閑話「見守っています」
――嗚呼、なんて美しいんだ。
ギュンター・イグナーツは、生き生きとして戦うサミュエル・シャイトを見守りながら身震いしていた。
愛しい少年が魔王に至れなければ死んでしまうという中、楽しそうに戦う姿は、見ている方の胸が踊る。
砂で顔を汚し、汗を散らしているが、力の限り戦う姿は勇気をくれた。
(僕と戦ったときでさえ、サムはこんな顔をしてくれただろうか?)
十四歳の少年が、格上の相手、それもふたりと同時に戦いながら、笑っている光景は嫉妬さえ覚えるものだった。
サムがこれほど楽しそうにしている姿は、ギュンターの鮮明な記憶の中でも限られたほどしかない。
少年の最愛の師匠であるウルリーケ・シャイト・ウォーカーとの再会の時や、魔王レプシー・ダニエルズという強敵を前にした時くらいだ。
ギュンターは、サムが力を持て余していたことに気付いていた。
気付きながら、自分では彼の相手をすることができないことを理解していた。
もともとギュンターは、守りの専門家であり、攻撃に適していないのだ。
いくらサムの攻撃を防ぐことを想定した結界術を開発しようと、彼を満足する戦いはできない。
(それが悔しくもあるのだが、僕の役目ではないからね)
ギュンター・イグナーツは、かつてウルリーケが攻撃に特化しているのなら、守りに特化しようと決めた。
結界術として王国の歴代で名を残すほどの素質を秘めていたこともある。
そんな彼の想いは、ウルリーケからサムに引き継がれている。
(サムが笑顔で戦う姿を見ているだけで、ママに好き放題された身体と心が癒えていく)
戦いに混ざりたい。
いっそサムと吸血鬼兄妹の間に割って入り、攻撃を受けたい衝動に駆られる。
が、ぐっと堪えるのが紳士だ。
自分の欲望ではなく、サムのために行動してこそ、ギュンター・イグナーツなのだ。
(きっとウルリーケなら、この場に割り込み自分が魔王になってしまうくらいのことをしただろうが、残念ながら僕は魔王に興味がないからね。――しかし、魔王か。つまり、今、サムが魔王になるのなら、永遠の十四歳なのだろうか? それはそれで……じゅるりっ、っと静まれ、静まれぇ、僕の欲望ぅ! 僕はリーゼたちのように年下趣味ではないからね! あくまでもサムが愛しいのさ! どうせリーゼたちはサムに夜な夜な短パンと靴下を履かせて悦に浸っているのだろう、おのれ変態め! いくら妻だからといって、やっていいことと駄目なことくらいあるだろう! 僕もママには口に出せないような格好をさせられているが……いや、リーゼだけではない、ステラなど王族だし、父親があれだ。さぞかし狂った性癖をしているのだろう。花蓮だって、あの分かりづらい表情の下ではいつもいやらしいことばかり考えているに決まっている! 水樹も癖があると見た。ふふふ、僕の目はごまかせないよ! そして、フランだって、あれは年下の少年が好きそうな顔をしている! なによりもアリシアがあっち方面に興味津々なことは読んでいる書物の中に紛れて過激な内容を愛読していることだって把握済みだ! ああ、サム! もしも、君が妻たちを一晩で全員相手にする日は、どのような陵辱が待っているのだ。ぜひ、僕も仲間に、いや、違った、助けてあげたい! いやいや、そうじゃない! 魔王になるということは人間をやめるということだ。つまりサムのベイビーはどうなる? 現在、リーゼたちのお腹にいる子は影響を受けているのか? これから受けるのか? ああ、だめだ、思考がまとまらない。これもすべてサム、君がいけないんだ! 戦っている時でさえ、汗をキラキラさせて、肌をチラチラさせて僕を誘惑するからぁああああああああああああああああああああああ!)
びくんっ、びくんっ、と身体が小刻みに痙攣してしまうほど、サムの戦う姿は煽情的だった。
呼吸を荒らげながら、ギュンターはサムの勇姿を脳裏に焼き付けようと、瞬きすら惜しく必死に見守るのだった。
◆
くねんくねんする変態の隣では、
「……気持ち悪いなぁ」
魔王がそっと距離を開けた。
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