40「王族は大変なようです」②




「はい?」


 人ごとじゃん、と喉まで出かけてしまった。


「スカイ王国最強の宮廷魔法使い、竜と戦い、魔王と友好を深めたそなたを欲深い貴族が放っておくはずがなかろう」

「えぇええええええええええ!?」

「魔王と友好関係こそ、まだ公になっていないが、愛の女神エヴァンジェリン様がそなたをダーリンと呼んでいるのはすでに周知の事実。あの方を魔王だと予想している者もいる」


 エヴァンジェリンが女神であろうと魔王だろうと、力を持つ存在であることは変わりない。もっと言えば、竜なのでそもそも人間よりも力もなにもかも上だ。

 そんな彼女がダーリン呼ばわりするサムを放っておけないのが、ある意味貴族らしい貴族たちである。


「すでに私のもとにそなたとの縁談を取り次いで欲しいと申し出が来ている」

「クライド様のところにですか?」

「ステラがそなたに嫁いだので、私が義父になるからだろう。ウォーカー伯爵ではなく、直接私に言えば早いのだよ」


 聞けば、サムが亡き王弟の子供だということも、公にこそなっていないが貴族間ではもう広がり切っているようだ。

 宮廷魔法使いである時点で、縁談は結構な数来ていたが、王女であるステラとの婚姻、王弟の息子である事実、竜や魔王と懇意にしている、そしてなによりもあのイグナーツ公爵家ともつながりが深い、となると優良物件というレベルではないようだ。

 少々、ギュンター・イグナーツというおまけがついてしまうことがマイナス面だが、それを気にしないほど旨みがあるらしい。


「あの、俺は今がとても幸せなんですけど」


 愛する妻たちが、家族がいる。

 リーゼのお腹には子供も宿っているのだ。

 そんな時に、顔も知らない相手と縁談などごめんだ。


「わかっている。ただ、母の生家であるグレン侯爵家がな」

「あー」

「王弟の息子であり、ウルリーケの弟子であるそなたと縁を結びたがっているのだ。さすがに母の実家を無碍にできぬ」

「無理ですか?」

「無理である」


 サムは肩を落とした。

 ただ、サムとしても祖母の実家と聞いてしまうと、「嫌です」とは言いづらい。


「なによりも、グレン侯爵家の当主がそなたと話をしたいようだ」

「当主様ですか?」

「ジャスパー・グレン侯爵。そなたにとっては親戚であり、またウルリーケとギュンターと友人でもある」

「グレン侯爵は存じていますし、結婚式にも参加していただいていましたが、てっきりステラ様側のお客様だと思っていました」

「グレン公爵家は長年王家を支えてくれている家のひとつだ。最近、代替わりしジャスパーが当主となったが、有能だ。親しくして損はないぞ」


 クライド曰く、幼い頃はわがまま肩だったらしいジャスパー・グレンだが、ウルとギュンターと出会ってから、よい方向に成長したという。

 ステラが幼い頃は、彼を「お兄さま」と呼び慕っていたようだ。


「母にとってもジャスパーは可愛い子である。サムと好意的な関係になって欲しいと望んでおる」


 祖母の名を出されると、サムも断ることはできない。


「さすがにジャスパーの子供は幼いのだが、年頃の妹がいてな。ぜひそなたと縁を結ばせたいそうだ」


(――えっと、これは強制イベントみたいですね。はい)


 リーゼたちに、なんと説明をしようか、とサムは頭を悩ませるのだった。




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