39「王族は大変なようです」①
「さて、外交の話は追々進めていくとして、ルイーズの件だ」
「はい。魔王ヴィヴィアン様からセドリック様とのご結婚の許可をいただきました。もっとも、ご本人はルイーズさんに制限を設けたつもりはなかったようですが」
「そうであったか。ならば、問題なく話を進めて構わぬな。ところで、セドリックとは会ったか? そなたを待ちに待っておったのだが」
「先ほど、お会いしましたので、お伝えさせていただきました」
セドリックの喜び具合を伝えると、クライドは目尻を緩めた。
「母もルイーズを説得してくれたようでな、結婚にこそ応じてくれたのだが、やはり魔王殿の許可だけは譲らなかった」
「律儀な方ですね」
「それだけにセドリックを任せられる」
ただ、とクライドが肩肘をついて、嘆息した。
「もともと相思相愛であることは間違いなかったのだが、セドリックもここ数日でそれに確信を得たようでな、できれば第一王妃になどと考えているのだ。まったく」
「はははは……やはり難しいですか?」
せっかく結婚の許可が下り、嬉しそうにしているセドリックだが、ここで親と揉めてしまうのは良くないだろうと思う。
結婚にケチがついてしまうのは良くない。
だが、そんなサムの心配を他所に、クライドは首を横に振った。
「ルイーズが第一王妃でも構わぬよ」
「……正直、驚きました」
「魔王殿と関係があるのなら、外交的な意味を込めてそうしても構わないと考えておる。だが、セドリックの妻に、と候補は山のようにいるのだ。それこそ、他国の王族や、我が国の貴族もな」
「でしょうね」
一国の王子、しかも次期国王に決まっているセドリックと婚姻を結びたいと思う家が多いのは当たり前だ。
ただ現状は、当のセドリックがルイーズに夢中なので、最低限の相手しかされていないという。
「はっきり言って、周辺諸国と友好関係は問題なく維持できているので、無理して婚姻を結ぶ必要はない。まず、国内の問題を片付けるところから始めなければならぬのだよ」
クライド・アイル・スカイ国王陛下をはじめ、歴代の国王たちは政は最低限に、あくまでも自分たちを魔王レプシーの墓守として尽力してきた。
初代国王に仕えてきた家の協力もあり、政を失敗したとかはあまりない。
だが、国が長く存続し、貴族が増え、周辺諸国との関係も変わってくると、同じ国の貴族たちが王家に従わなくなった。
実際、謀反をするなどこそしないが、王家を蔑ろにし、利用しようと企み、とにかく自分たちの利益を第一にしようとする貴族が湧いて出てきたのだ。
貴族の腐敗など珍しくはない。王家が信頼する貴族が誠実ならばそれでいいと放置だった。
実際、王家の味方である王族派の貴族が力を持っていたので、敵対勢力である貴族派や騎士派などが表立ってなにかをすることはなかったが、裏ではいろいろ好き勝手にやっていたのも事実だ。
最近では、魔王復活を企むナジャリアの民の甘言に惑わされ、ありもしない不老不死を求めて国を売っていた貴族たちが一族郎党処罰されている。
他にも、元宮廷魔法使いが違法売買に関わっていたなどもある。
クライドは、墓守から解放され王として責務を果たそうとしているが、その一環としてまず国を掃除することに力を入れていた。
もちろん、それに反発する貴族や、自分たちが危ういとわかり、王族派に鞍替えしようと企む貴族もいる。
「困ったことに、セドリックとルイーズの件をどこからか嗅ぎつけて反対する人間も最近は多い」
「それはまた、面倒なことになっていますね」
「正直、相手にするのが疲れてしまうな。結局、奴らが言いたいのは、ルイーズではなく自分の娘を――である。中には、セドリックを年上趣味だと勘違いし、嫁き遅れの問題児を押し付けようともしてくる。私としては、王家を利用しようと企むような輩と親戚になるつもりはない」
「大変ですねぇ」
仮にセドリックがルイーズと結婚したとしても、王子の結婚相手に次から次へと年頃の娘が送られてくるのだろう。
クライドの苦労が予想できた。
サムがぽろっと本音をこぼすと、クライドが少し驚いた顔をして口を開いた。
「なにを言っておる? そなたも人ごとではないのだぞ」
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