31「魔王と竜とシャイト宅へ移動します」①
「ダーリンんんんんんんんんんんっ! 助けてくれてありがとうぅううううううううううううううううううううううううう!」
神殿の外側にこれでもかと厳重に張り巡らせてあった結界をスキルで切り裂くことに成功し、神殿内に足を踏み入れたサムと灼熱竜は無事にエヴァンジェリンの救出に成功した。
幸いなことに、ちょうど女神様ことエヴァンジェリンの休憩時間であったことから、彼女に参拝する人間はおらず、ほぼ無人だった。
こっそりエヴァンジェリンを連れ去ることに成功したサムは、そのままクライド国王から譲り受けた、亡き父の屋敷であり現シャイト伯爵家に向かった。
「変態どもが、私をスカイ王国で祀る主神として、神殿立てやがったぁああああああああ! もう毎日、変態どもの性別変えたり、変態的な呪いかけるのもいやぁあああああああああああああ!」
「なにさせられてるの!?」
涙と鼻水を垂らして抱きつくエヴァンジェリンは、サムに抱えられたまま、ここ数日の出来事を語った。
ギュンターと出会い、サムの尻を狙う変態だと思って女体化の呪いをかけたら、大喜びされてしまい、ドン引いているとあれよこれよと言いくるめられて、気づけば女神扱いに。
エヴァンジェリンが、なにかおかしいと思ったときには、ことすでに遅く、スカイ王国に愛の女神降臨と広まっていた。
すると、子宝を願う夫婦などがお参りにくるようになったという。
ただ、呪いの竜であるエヴァンジェリンは相談に乗ることくらいしかしてあげることがなく、ちょっと申し訳なく思ったようで、軽く呪いで絶倫にしてあげたそうだ。
そんな些細な行動が、「女神様に祝福していただいた!」と広まり、さあ大変。
挙げ句の果てには、あのギュンター・イグナーツが女体化したのだから、本物の女神様だと、国中から肉体の性別を変えてほしい者たちが集まったという。
ときには、変態的な呪いをかけてほしいというおかしな人間まで集まってきてしまい、その対応の追われる日々だったという。
「魔王なんだから、人間たちをぶっ飛ばして逃げれば良かったんじゃ?」
「ばっかっ、ダーリン! いくら私が邪竜で魔王でも、本気で心から私に願い事する奴らに危害なんて与えられないんだけど!」
「まあ、そうだよね」
「神官たちだって、めっちゃ私のことを信仰してるっていうか、悪意がねーんだよ。だからさぁ――生まれて初めてちやほやされて、すげー気持ちよかった!」
なんだかんだ、エヴァンジェリンが神殿で祝福という名の呪いをかけ続けていたのは、邪竜として同じ竜からも恐れられた過去のせいだったのかもしれない。
ギュンターをはじめ、神殿に来る人々、神官など、エヴァンジェリンを恐る者はいない。むしろ、その逆だ。
きっと、彼女にとってそんな初めての経験はとても神聖だったのだろうと思う。
「つーか、竜がいるなーって思ったら、お前立花じゃん! 大きくなりやがって!」
「助けに参りました、姉上。と言っても、意外とノリノリだったようですね」
「ノリノリじゃねえよ! ま、まあ、慕われるのはいいけど、変態どもの相手はうんざりだし! つーか、この国怖いんだけど!」
「んん? 立花って?」
「私の名前だ。お前たちが呼ぶ灼熱竜は、あくまでも竜としての種類だ」
「へぇ」
邪竜の竜がエヴァンジェリンという名を持つように、灼熱竜も名前があると思っていたが、不便ではないので聞くことはしていなかったことを思い出した。
「立花って名前は私が名付けたんだぜ」
「付き合いがあったって聞いていたけど、そうなんだ」
「まあな。ところで、助けてくれたのはありがたいんだけど、なんで立花がここにいんの?」
「なぜ、とは?」
首を傾げる灼熱竜――立花に、エヴァンジェリンは問うた。
「いや、確か、竜王候補の若い竜と結婚して子供ができたって聞いてたんだけど?」
「――あ、あの男は! 私と娘たちがいるというのに! 若い竜と浮気をしていたのです!」
「あ、うん、そう。それは、なんつーか、ご愁傷様?」
何気なく聞いたことが地雷だったので、気まずそうな顔をするエヴァンジェリンがサムに助けを求める視線を向けるが、デリケートな問題なので関わるべきではないとそっと視線から顔を背けた。
そうこうしているうちに、シャイト伯爵家が見えてきたので、足を早める。
「とりあえず、ゆっくり話をするのは俺の屋敷でしましょう」
「ダーリンのお屋敷!? つまり、私の屋敷だよな!」
「違うから!」
女神不在に気づいた誰かが騒ぎ出す前に、サムは屋敷に急ぐ。
ただ、内心、きっとエヴァンジェリンは神殿に戻るのかもしれない、と思うのだった。
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