30「エヴァンジェリンの過去を聞きました」②




「私はもちろん、母も竜王様も、その男との関係に反対した。当時も気に食わなかったが、今でも思い出しただけで不愉快だ」

「人間だから駄目ってこと?」

「違う。そうではない。人間と竜が結ばれることは珍しくない。問題は、その男を、私たちが直感でよくない者だと判断したことだ」

「竜の直感か」

「しかし、エヴァンジェリン様は私たちの直感を信じなかった」


 当時を知らないからなんとも言えないが、話の結果は大体見ていていた。


「そもそもの話として、竜すら恐れるエヴァンジェリン様の呪いの魔力をたかだか人間がどう耐えたのか? なぜ、エヴァンジェリン様なのか? 今でも疑問は尽きない」

「俺はあまりその呪いの魔力はわからないんだけど」

「それは、エヴァンジェリン様が成長し、魔力を制御できるようになっていたからだ。それでも、当時まだ魔力を制御できなかったエヴァンジェリン様の魔力は、お前のような魔力抵抗の高い人間ならいざ知らず、普通の範疇でしかない人間なら毒だろう」


 それでも、男は平然とエヴァンジェリンに近づいたそうだ。


「奴は、エヴァンジェリン様に目をつけた。理由はわからぬ。だが、友人として接し、心を解きほぐすと、愛を囁くようになった。あの方は、孤独だった。私や母がいても、足りなかったのだろう」


 その結果、エヴァンジェリンは男の愛を受け入れた。

 無論、その後も灼熱竜たちは関係を反対した。

 エヴァンジェリンにとって、初めて愛してくれた男であったが、心を許していた母、教師、妹分は認めてくれなかった。


「その後、しばらくして男の怪我が治ると――エヴァンジェリン様は男に駆け落ち同然でついていってしまった」


 それで結ばれ、幸せになりました――ならば、問題はなかった。

 残念なことではあるが、そうはならなかったのだ。


「数年後、その男をエヴァンジェリン様が呪殺したと風の便りで聞いた。なにがあったのかはわからん。さらに、その後、魔王に至ったとも」

「…………」

「当時、荒ぶり破壊の限りを尽くして暴れ回っていたエヴァンジェリン様を諫めたのが、魔王ヴィヴィアン・クラクストンズと魔王レプシー・ダニエルズ、そして魔王遠藤友也だ」


 聞き覚えのある三人が出てきた。

 どうやらエヴァンジェリンをはじめ、ヴィヴィアン、レプシー、友也は、ただ付き合いが長いだけの関係ではないようだ。


「そんなことがあったんだね」

「竜や魔族では珍しい話ではないぞ」


 魔王や竜に縁のない人間では、あまり知らないらしい。実際サムは知らなかった。


「その後、エヴァンジェリン様は魔王として西側大陸に君臨するも、配下を持つこともなく、領地を持つこともなく、気ままに暮らしていたそうだ」


 もしかすると、誰かと親しくすることに抵抗を覚えるようななにかが、エヴァンジェリンには起きたのかもしれない。


「同じ魔王とは交流があるようだが……私も長年音信不通だったのでよく知らぬ。だが、久しぶりに遠目から見たあの方が、まさかお前のことをダーリン呼ばわりしていると思わなかったぞ」

「俺もダーリンなんて呼ばれるとは思ってもいなかったよ」

「そして、変態に囚われ、女神扱いされているとも思わなかったぞ!」

「だよね!」

「というわけで――エヴァンジェリン様を変態から救い出すぞ!」


 意気込む灼熱竜についていくサムだが、


(神殿の中に、変態がたくさんいたらやだなぁ)


 と、内心、ちょっとビビっていたのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る