28「ルーチェ様と再会しました」②




「――そうでしょうか?」

「ええ、以前のサム様も今のあなたと変わらず、優しい方です。――よかった」


 嬉しそうに、ルーチェが微笑んだ。

 サムはどう反応して良いのかわからず、動けなかった。


「お話は変わりますが、サム様は王族だとお聞きしました」

「え、ええ、みたいですね」

「なんでも王弟様のお子様だったとか」

「そうらしいです。俺自身は父のことはよく知らないですし、母の記憶もないのですが」


 母メラニーは、現在ティーリング子爵と再婚し、可愛い娘がいる。

 サムにとっては半分血の繋がった可愛い妹だ。

 あまり顔を合わすことはできていないが、手紙のやり取りはしている。

 むしろ、リーゼたちのほうがメラニーとよく会っているようで、関係は良好のようだ。


「失礼ですが、サム様がラインバッハ男爵家の血を引いていないとしり、やはり、と思いました」


 外部から見ても、サムとラインバッハ男爵家の人間とでは似ても似つかなかったようだ。


「よく言われます」


 サムは肩を竦めて見せた。

 あの一族と血が繋がっていないことはサムにとっていいことである。

 思うことは山のようにあるが、もう終わったことだったので気にすることもない。

 王弟だった父に関しても、同様だ。

 今は、結婚してくれた妻たちと、再会した母、そして幼少期からよくしてくれる家族を大事にしていきたいと思うだけだった。


「サム様が王族でよかったと思います」

「え? なぜですか?」

「――王族ならば、側室が何人いても構いませんものね?」

「はい?」


 なにを言っているのだ、と首を傾げるサムに、ルーチェは頬を染めつつも決意を込めた瞳で真っ直ぐ見つめた。


「やはり、わたくしはサム様のことを忘れることはできませんでした。あなたを想う気持ちは、胸の中に健在です」

「――えっと」

「わかっています。サム様にはリーゼロッテ様やステラ王女殿下をはじめとした素敵な女性がいますもの。でも、諦めません」


 それは彼女の宣言だった。


「ずっと胸に抱いていた気持ちを簡単に消せるほど、わたくしの気持ちは小さなものではありません。ですから」


 ルーチェは立ち上がる。


「これから、サム様に好いていただけるように頑張ります!」


 まさかの告白に、サムがぽかんとしていると、ルーチェは「で、では、失礼します!」と言い残し、足早に去って行ってしまう。

 硬直するサムが、動けずにいると、背後からぬっと誰かが近づく気配がった。


「モテモテだな、サムよ」

「……灼熱竜?」

「久しいな。そなたが西側大陸から戻ってきたと聞いたので会いにきたぞ」


 背後から声をかけてきたのは、ウォーカー伯爵家でごろごろしているはずの灼熱竜だった。

 彼女は、王家から譲り受けた土地を確認したあと、家族で暮らそうと夫を探しにいったのだが、あまり良い結果ではなかったようで伯爵家で不貞寝の日々だった。

 子竜と特別仲の良いアリシアは、別れが訪れずにすんだとほっとしているものの、家族がうまくいっていないことを心配していた。


「俺に何か用事でも?」

「あるとも。エヴァンジェリン様についてだ」

「ああ、女神として祀られちゃった魔王様ね。彼女はどうしているのやら」

「あのギュンター・イグナーツが神殿にこれでもかと厳重に結界を張ったのでな。なかなか脱出できなかったのだが、そなたの凶悪なスキルならばエヴァンジェリン様をお助けできるだろう」

「――エヴァンジェリンって囚われの身だったの!? つーか、またギュンターかよ! なにやってんだ、あいつ!」


 帰国してからギュンターのせいで慌しすぎる。

 サムは、何度目かわからない嘆息をしたのだった。




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