14「ゾーイが待っていてくれました」②




「……そうか。うむ。なんとなくだが、お前ならそうなると思っていた」

「魔王にスカウトされたことは驚かないんだね」

「友也がお前をスカウトするのではないか、とヴィヴィアン様が予想されていた。それと、魔王がひとり空席というのもよくないのだ。ボーウッドのようなバカが現れてしまうからな」


 友也がなぜ自分を魔王に推したのか、理解しているわけではない。

 彼も彼なりに思うことがあるのだと思う。

 ゾーイの言うように、レプシーがいなくなったことで崩れてしまったバランスを正すためにも、新しい魔王が必要なのだろう。

 だからといって、ボーウッドのように決起されても困るみたいだ。


「そういえば、ボーウッドたちはどうしているの?」

「奴らはついてきてしまったので、ヴィヴィアン様のお慈悲で来客用の屋敷に通して好き勝手にやらせている。おそらく、どんちゃん騒ぎをしているだろうがな。私としては不満だが、まあ、何かする前に潰された哀れな奴らなのでヴィヴィアン様がよしとするなら従うまでだ」

「ついてきちゃったんだ。ヴァルザードたちの情報は?」

「たいして持っていなかった」


 ボーウッドは協力的にヴァルザードの情報を渡してくれた。

 とはいえ、これと言ったものはなかった。

 魔王になるべく決起しようと企んでいるところに、ヴァルザードたちが現れ、完膚なきまで叩きのめされたらしい。

 ボーウッドは実力を示したヴァルザードに付き従おうとしたのだが、意外なことに彼らは一緒に魔王になろうと誘った。

 その寛大さにボーウッドたちは喜び、彼らと一緒に決起したのだ。


「結局はいいように使われていただけだ。ヴァルザードもボーウッドを利用したと言っていたが、まだなにか企んでいた可能性があるな」

「面倒な奴らだ。そんなに魔王になりたいのなら、友也あたりに挑んでラッキースケベの餌食になればいいのに」

「違いない。もっとも友也は普段どこにいるのかわからないがな」


 実際、ヴァルザードたちはかなり厄介な敵になるだろう。

 首を斬り落としても平然としていたし、魔力も桁違いだった。 

 そもそも魔族のどの種族かもわかっていない。

 いや、そもそも魔族なのか、という疑問さえ湧く。

 奴らがいざ行動を起こすことを考えると恐ろしい。


「もっと強くならないといけないね」


 いずれサムの前にも敵として現れるだろう。

 そのとき、対処できるように強くなっておく必要がある。


「前向きだな――私はお前が羨ましい」

「……どうしたの、急に?」


 突然すぎるゾーイの言葉に、サムは驚いた。

 まさか彼女から「羨ましい」などと言われるとは思わなかったのだ。


「私はヴァルザードたちの前で、なにもできなかった」


 自身の実力を把握し、強者であると自負していたゾーイだからこそ、落ち込んでいるのがわかった。


「奴らに対してもそうだが、なによりも、レプシー様を楽にしてあげられなかった。サムのように、ヴァルザードたちに立ち向かい、レプシー様を解放してあげられるだけの力があれば、などと思ってしまう」

「――ゾーイ」

「……すまない。どうしてだろうか、お前にはつい弱音を吐いてしまうな」


 泣き出しそうな顔をしていた彼女は、なんでもないと笑ってみせるも、サムは少し心配だった。


「俺だったらいつでも話を聞くよ?」

「うむ。感謝する。そのときは、頼む」


 しかし、どこまで踏み込んでいいのかわからず、当たり障りのないことを言うことしかできなかった。

 ゾーイは気分を変えるように、話題を変える。


「ところで、ヴィヴィアン様のご提案で、私はスカイ王国に出向くことにした」

「そうなの?」

「うむ。そちらの国王の許可が必要だろうが、可能ならしばらく滞在したい」

「えっと、どうして?」

「ヴィヴィアン様とスカイ王国で友好関係を結んだのだから、交流をしないと友好関係の意味があるまい。私がそちらに赴き、可能ならスカイ王国側からも夜の国へ誰かを派遣してもらい、交流を深めていきたいのだ」

「それはいい考えだ」


 本格的に交流していくのなら、ゾーイの言葉通り深く付き合っていくべきだ。

 名ばかりの友好関係を結ぶ国もあるが、そうならないためにも魔王ヴィヴィアンたちとはうまくやっていきたい。


「ボーウッドたちもついてくると言っているぞ」

「まじかぁ」


 サム的にはボーウッドとは決着がついていないので、忠誠を誓われても困るのだが、戦士として強いボーウッドに認められたのは嬉しくもある。

 配下はいらないが、友人として仲良くできればいいと思う。


「――そういえば」

「うん?」

「魔王エヴァンジェリンから使い魔が届いていたんだが――」


 ゾーイは首を傾げた。


「助けて、とそれだけメッセージを送ってきたのだが、なんだったんだろうな。まあ、無視していいだろう」

「……いいんだ」

「そもそもあの魔王がどこにいるのかわからん。どこにいるかくらい言えばまだ話は違ったのだが、まったくどこを遊び歩いているやら」


 その後、サムとゾーイは軽い談笑を重ねた。



 ――そして、この日を振り返ったサムは、エヴァンジェリンの助けに応じなかったことを大きく後悔することとなるのだった。




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