13「ゾーイが待っていてくれました」①




「――て、おい!」


 友也に叫んだサムが光に包まれると、砂浜ではなく、室内にいた。


「あ、あれ?」

「戻ったか、サミュエル・シャイト」


 目の前には、友也ではなくゾーイの姿があった。

 青い鎧姿ではなく、部屋着だろうか、紺色のワンピース姿だった。


「あ、ゾーイ? じゃあ、ここは」

「ヴィヴィアン様のお屋敷だ」

「うわー、最後の最後で誤解を解けずに終わったぞぉ」


 よりによって最悪な誤解をされた状態で転移されてしまったことにサムは嘆いた。

 そんな様子を見て、ゾーイがくすりと笑う。


「その様子だと奴との話は進んだようだな」

「うん。まあ。想像していたのとずっと違う魔王だったけどね」

「驚いただろう?」

「驚いたよ! どうして誰も言ってくれなかったのかな!」


 ラッキースケベ体質の魔王がいるなんて、予想もしていなかったし、できていなかった。

 予備知識がなかったので驚愕してしまったが、できることなら事前に友也について教えておいて欲しかった。

 少々恨みがましい目をゾーイに向けると、彼女も負けじと言い返した。


「恐ろしくて口に出せんのだ! 一般の魔族たちは魔王の悪口など言えないのだ! あのなんでも知っているみたいなスカした感じが薄気味悪いだろ!?」

「そりゃそうだけどさ」

「私は昔から知っているが、奴は基本的に表に出てこないが、たまに出てくるとスケベな目に遭わされるんだぞ! 知っている魔族からすると恐怖の対象だ!」

「うん、会ったらラッキースケベとか怖いよね」


 スケベなことをされてしまうとわかっていながら、誰も回避できないとか怖すぎる。

 友也に悪意がないのも困る。


「どうやらお前は無事だったようだな。もしかしたら辱めを受けて泣いて帰ってくるかもしれないと思っていたぞ」

「最悪な展開だね! さすがに辱めは受けてないよ!」

「そうか、ならばよかった」


 ゾーイの中で自分がどんな目に遭っていたのか疑問ではあるが、心配してくれていたには変わりないだろうから、感謝した。


「そういえば、ヴィヴィアン様や水樹たちは」

「もう夜中なので休んでいる。水樹はお前を待ちたいと言ったのだが、旅の疲れもあるだろうから休ませた」

「じゃあ、ゾーイは代わりに待っていてくれたんだね。ありがとう」


 お礼を言うと、ゾーイの白い頬が赤く染まった。


「べ、別に、お前が友也に陵辱のかぎりを尽くされていないか気になっただけだ!」

「はははは、そんなことはされていないけど、ありがとう」

「ふん。水樹とダフネ、あとキャサリンとは街を見て回った。楽しんでもらえたと思うぞ」

「そりゃよかった」

「うむ。お前も明日、見て回るといい。水樹たちもすべて見て回ったわけではないのでは」

「楽しみにしているよ」


 魔王の治める魔族の街を見て回れるのは楽しみだ。

 まだ見ぬ発見もあるかもしれない、と思うとワクワクしてくる。

 まるで遠足前の子供のようだ。


「ところで」

「うん?」


 まだ見ぬ魔族の街に想いを馳せているサムに、硬い声でゾーイが尋ねた。


「――お前は魔王になるのか?」


 彼女の問いかけに、驚きはしたものの、サムは首を横に振る。


「――いいや。魔王にはならないよ」


 サムの答えを聞いた彼女は、少しだけ複雑そうな表情を浮かべた。

 ほっとしているような、しかし、残念そうな、表面だけでは計りかねないいくつかの感情だった。



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