12「お話が終わりました」
「実は、こうして君と話している間だって、ラッキースケベが起きる可能性があるんです。お気をつけください」
「まじかー。されたくないなぁ」
「あはははは、僕も奥様がいる方にラッキースケベなんてしたくないですよ。なので、次回はヴィヴィアンの屋敷を借りてお会いしましょう」
「大丈夫なんですか?」
魔王とはいえ、ヴィヴィアンも女性だ。
彼女の屋敷には他にも女性がいるし、ゾーイだって顔を出す。
そんな場所に友也が現れれば、ラッキースケベ間違いないのではないかと不安になった。
しかし、彼は「大丈夫です」と答えた。
「ご心配なく。今回は君とふたりで話がしたいので、僕の土地であるこの場所を選びましたが、ヴィヴィアンの支配下……そうですね、彼女の屋敷の中くらいなら僕はラッキースケベを起こさないんですよ」
「……どういう意味ですか?」
「ヴィヴィアン・クラクストンズ。最後の吸血鬼にして、魔王。彼女の力は、すべての力を完全に無効化することです」
「……マジですか?」
「あくまで彼女の支配が及ぶ範囲内、となりますが。ええ、マジです」
信じられない、とサムは動揺した。
まさか相手の力を無効化してしまうようなとんでもないことができるとは思いもしなかった。
「君が戦ったナジャリアの民の長……名はたしかオルドでしたっけ。彼もスキルを封じる能力を持っていたそうですが」
「効果なんてありませんでしたけどね」
「それは、君と彼の力に圧倒的な差があったからです。人間の能力なんて、所詮上限のある程度の力に過ぎません。しかし、ヴィヴィアンは違う。相手が誰だろうと、彼女の前には平等です。ちなみに、その状況下でヴィヴィアンは魔法も力も使い放題という」
「うわぁ。それはずるい」
そんな話を聞かされてしまうと、ヴィヴィアンを倒せる存在がいるのか、と考えてしまう。
そもそも戦いになるのか疑問だ。
思わず、友也に尋ねてみると、しばらく悩む素振りを見せたあと、ゆっくり彼は口を開いた。
「彼女を倒すにはスキルにも魔法にも頼らず自力だけでなんとかするか、もしくは――彼女でも支配下に置けないほど、強い力を使うか、でしょうか?」
「そんな力を持っていたら苦労しないと思いますけど」
「違いありません。なので、僕は彼女にだけはラッキースケベをしないんです」
もっとも、ヴィヴィアンが友也を支配下に置こうとしなければ普通にラッキースケベが出てしまうようだ。
どうやら彼女の無効化能力は、オンオフができるらしい。
(なるほど、友也がヴィヴィアンと親しげなのはそういうことか)
「話し込んでしまいましたが、そろそろお別れです。君をヴィヴィアンの屋敷に転移させますね」
魔法陣がサムを包んだ。
友也との話は充実したものだった。
日本を故郷にする友也がいるという事実に驚きはしたし、なによりも彼の体質には驚愕を通り越して唖然としたが、こうして遠慮なく話ができるのは嬉しい。
無論、友也もサムにすべてを明かしていないだろうし、サムもそれは同じだが、今後の付き合い次第ではよい友人となれるだろう。
「そうそう、今度、同じ元日本人としていろいろ教えてくださると嬉しいです」
少しだけ照れた様子でそんなことを言った友也に、はて、とサムが首を傾げる。
「教えるって何を?」
「実を言うと、転生してから千年以上経ちますが、女性経験も男性経験もないんです。なので経験豊富なサムくんにぜひ」
「――マジで!? じゃなくて、経験豊富って、俺だって男性経験はねえよ!」
「またまた」
恥ずかしがらずに、と言わんばかりに手を顔の前で振る友也に、さすがに我慢できず突っ込んだ。
「ちょ、あんたかなり情報収集しているくせに、どうしてそこだけ間違っているかな!? 待て、話をしよう! 誤解を解か――」
「それでは近いうちにまたお会いしましょう」
しかし、言葉の途中でサムは転移してしまった。
ひとり残された友也は夜空に輝く月を見上げ、亡き友へ告げた。
「ねえ、レプシー。君の後継者はとても楽しそうな子だよ」
こうして、サムと魔王遠藤友也の顔合わせは終わったのだった。
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