4「魔王が語り始めました」③




「……ですよねぇ。女子の一部は喜ぶし、今まで無視してきた男子生徒から家にしきりに誘われるようになるし、男性教師から居残り授業を命じられて嫌々受けるもボディータッチが多くなり……」

「うん。呪いだよそれ。体質じゃない。あとね、ラッキーじゃないよね。ラッキースケベってそういうのじゃないでしょ」

「……なんというか人生がもう嫌になりました」


 そりゃ、そうだろう、と思う。

 なにが悲しくて男子生徒や男性教師にスケベしなければならないんだ。


(なんていうか、ラッキースケベされた人が好意を抱いちゃうとか……魅了はいってね?)


「校長先生から援助交際しないか、なんて申し込まれたときには登校拒否したくなりました」

「校長先生にもラッキースケベしちゃったんだ」

「ええ。演劇部の手伝いで、なぜか女装させられたときに、僕がスケベされる側だったんですが……あのときの校長先生が叫んだ「男の娘最高!」は未だに忘れられません」

「でしょうね!」

「もちろん援助交際なんてするつもりないですから断りましたけど。まあ、なんというか、ラッキースケベ体質と一緒に魅了でも持っているんじゃないかなんて考えるようになりました」


 サムが考えたように、友也も同じ結論に至ったようだ。

 とはいえ、場所は魔法もなにもない日本だ。

 魅了があるかどうかなど分かるはずもない。


「結局のところ、毎日が憂鬱で憂鬱で、それでも家にも居場所がないので学校にだけは行っていたんですが――」

「なにかあったんですか?」

「僕のことをいい加減無視できなかった男子と、手を出そうとして失敗して逆恨みした男子たちがタッグを組んで、僕をボッコボコでした。さすがに死んじゃうな、と思って逃げようとして、気づいたら女神様の前でした」

「……それって死んだんじゃないんですか?」

「さあ、女神様は曖昧に笑うだけでしたので、なんとも」


 数々のイベントを乗り越えた結果、集団暴行を経て女神と出会った友也だった。


「女神はなんて?」

「女神様曰く、こちらの、――ああ、今僕たちがいる世界ですね、で、召喚が行われているそうで、それに僕が選ばれて召喚されることになったんだとか」

「なぜ?」

「さあ?」

「さあって、気にならなかったんですか?」


 サムのもっともな疑問を受け、友也は当時を思い出すようにしてから、疲れた顔をした。


「なんというか、当時は毎日に嫌気が差していましたし、両親も不仲で離婚するはずが僕をどちらが引き取るかで大揉め、まあ、人間関係にうんざりしていたんです。だから、異世界に行くと聞かされても、ああ、そうですか、ってくらいしか」

「……自分のことを誰も知らないどこかに行きたかったんですね」

「そういうことです。といっても、異世界でも変わらずラッキースケベが続くんですけどね!」


 やや自棄になって叫んだ友也だが、サムには「だよねー」と思う。

 ラッキースケベで魔王までのし上がった彼が、異世界に召喚されてその特異体質を失うはずがない。

 ただ、どのようなラッキースケベが異世界でも披露されたのか気になる。


「異世界でもラッキースケベってどんなのことしたんですか?」

「――例えば、宿屋の隣の部屋でまぐあい始めたカップルの間に、壁を突き破って挟まれてしまい、男性に突っ込まれそうになりました」

「それラッキーじゃなくない!?」


 全然幸運ではなく、不幸だった。

 さらに友也は暗い顔をして続けた。


「知っていますか? 緊迫した戦場でラッキースケベをすると、空気が死ぬんです」

「でしょうね!」

「敵味方から、何やってるんだこいつ、なんて目で見られて――あのときは辛かった」

「もう聞いているこっちが泣きそう! というか、女神に会ったんだから、その体質なんとかしてもらえなかったんですか!?」

「――担当外だそうです」

「役に立たねえ女神だな、おい!」




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