67「真なる魔王だそうです」①
くるくる、とヴァルザードの頭部が舞う。
誰もが唖然と、宙を舞う頭部を見つめていた。
これでくだらない新生魔王の決起が終わったと思ったサムの前で、――なんと、首のないヴァルザードの身体が手を伸ばし、頭部を両手で受け止めた。
「おっと。いきなりだね」
さらに驚くことに、切断された頭部からヴァルザーの変わらぬ声が響いた。
よく見れば、彼から一滴も血が流れていないことも確認できる。
(――失敗したな)
内心舌打ちするサムに、腕に抱えられたヴァルザードの頭部がけらけらと笑った。
「やるね、君。今の一撃、魔王にも届く一撃だったんだけど自覚があるかな?」
ゾーイたちがサムの顔を弾かれたように見るが、彼女たちの視線を無視してサムは一言言い放った。
「気持ち悪いんだよ、お前」
「傷つくなぁ」
「首を切られてもしなない奴がいるとは思わなかった。お前、本当に魔族か? それ以前に、生き物なのか?」
サムの記憶の中に、胴体と頭を切り離して死ななかった生き物はいない。
そもそも、どうやって話しているのか、呼吸は可能なのか、血が出ていないのはなぜかという疑問も山のようにあった。
それらを総じて、サムは「気持ち悪い」と片付けたのだ。
「嫌だな。生きているに決まっているじゃないか。魔王は頭を落とされたくらいじゃ死なないのさ。みんなが大好きなレプシーだって、そのくらいじゃ死にはしないさ。同じ魔王なんだ、同じくらいの生命力を持っていても不思議じゃないだろう?」
「笑わせるな。お前がレプシーと同じだと?」
サムは、ヴァルザードに強い憤りを覚えていた。
今まで出会った魔王たちは、揃って魔王にふさわしい人物だった。
単純に強いだけではなく、魔王たる器があった。
しかし、ヴァルザードからは何も感じない。
こいつに比べたら、力量が魔王にたらずとも、ボーウッドのほうがまだ魔王に向いていると思う。
「俺はレプシーと一時間も顔を合わせていないけど、断言できる。あいつは、背後から仲間を傷つけるようなクズじゃない」
「おっと、そこは誤解しないでほしいかな。ボーウッドくんは僕の仲間じゃない。駒にすらならなかった、プライドだけのお馬鹿さんさ」
「そう言うところが、ムカつくんだよ。あと、ずいぶんと饒舌になったな。知ってるか? お前みたいな奴って、どうせあとで惨めな殺され方をするんだよ」
「へぇ。君が僕を殺すとでも言うのかい? 失敗しているのに?」
「お望みなら殺してやる」
挑発とも取れるヴァルザードの言葉に、サムは魔力を高めた。
「もしかして、レプシーを殺した君のとっておきを僕に見せてくれるのかな? ならとても嬉しいよ! さあ! さあ! 君の力を、僕に見せてくれ!」
ウルは使うなと言った。
サムは使わないと約束をした。
しかし、ヴァルザードをこの場で殺さなければならない。レプシーよりもやばい相手だとサムの本能が、警告音をけたたましく鳴り響いている。
(――ごめん、ウル)
レプシーと戦ったときに支払った代償をまだ取り戻していないため、次はなにを持っていかれるのかわからない恐怖がないわけではない。
しかし、ヴァルザードを放置して、万が一、愛する人たちになにか害を与えられたら、そちらのほうが後悔するだろうし、恐ろしい。
ならば、出し惜しみなどしてはならない。
「たっぷり食らっておけ――セカイヲキリサク」
限界まで高めた魔力を、最高の一撃として解き放とうとした。
だが、
「そこまでにしておけ、ヴァルザード」
静かな声が響き、サムが動きを止めた。
いや、止めるつもりはなかったが、サムの警戒心が声の主に反射的に反応してしまい動きを止めてしまったのだ。
「あれ? もう迎えがきちゃったの? もう少しだったのに、残念」
声の主は屋根の上にいた。
「遊びすぎだ」
「だからごめんって。みんなもわざわざごめんね」
ヴァルザードの言葉に、サムは自分たちを囲むように民家の屋根の上に黒い外套を頭から被った何者かが四人いることに気がついた。
「いつの間に、接近に気付きませんでした」
ダフネから、初めて緊張した声音を聞いた。
だが、サムも同感だ。
ヴァルザードに集中していたとはいえ、四人も接近されてまるで気付かなかったのは大きすぎる失態だ。
しかし、気づけなかったのだ。
なによりも恐ろしいのは、黒づくめの四人もヴァウルザード同様に、魔力も存在感もなにも感じないことだ。
「何者だ!」
叫ぶゾーイに対し、ヴァルザードに声をかけた者が、フードを外した。
黒髪を伸ばした、長身の青年だった。
彼はゾーイを見据えると、静かに口を開いた。
「俺たちは――真なる魔王だ」
男が言葉を発した刹那、狂ったように強力な魔力と、押しかかるようなプレッシャーがサムたちに向かい降り注いだ。
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