50「魔王様はフレンドリーでした」①




「そういえば、貴方とばかりお話しちゃって、おふたりを置いてきぼりだったわね、ごめんなさい。水樹・シャイト殿と、ドミニク・キャサリン・ジョンストン殿よね。おふたりとも、素敵なお召し物ね」


 話題を変えるべく、成り行きを見守ることに徹していた水樹とキャサリンに、ヴィヴィアンは親みを込めて微笑む。


「あ、ありがとうございます」

「魔王ヴィヴィアン様にお褒めいただけて光栄ですわ」


 魔王に服を褒められて喜ぶ水樹とキャサリンだが、


(水樹はもちろん、袴姿もなにもかも素敵だけど――え? キャサリン様も素敵なの? すげぇな魔王の感性)


 サムはニコニコしている魔王を信じられないとばかりに驚く。

 ふ、と視線を感じると、ゾーイが絶句した顔をしている。

 おそらく、サムと同じように魔王ヴィヴィアンの感性に驚いているのだろう。


「――ドミニク殿のお召し物は、確か異世界人の彼、名前はえっと、月白龍太郎がミリアム・ジョンストンに伝えたものだったわね」


 さらりと魔王の口からスカイ王国初代国王と、ジョンストン家の初代当主の名前が出てきて、一同は目を見開いた。


(あらやだ、かっこいいお名前……というか、何気に初めて初代国王の名前を聞いたな。あと、突っ込んでいいのかわからないけど、どうして月白龍太郎からスカイ王国のスカイ一族になったのかわからない)


 最近知ったことだが、サムも王家の――つまり異世界人の血を引いていることになる。

 王族を気取るつもりはないが、少し初代たちになにがあったのか気にはなる。

 なによりも、異世界人の血を引く自分が、転生者であることも、なにか意味があるのか、と考えてしまう。

 無論、その問いに答えてくれる者はいないだろうが。


「初代様たちをご存知なのですか?」


 恐る恐る尋ねるキャサリンに、ヴィヴィアンが「ええ」と肯いた。


「直接的な面識はなかったけど、レプシーと初めてまともに戦えた人間たちのことは記憶に残っているわ。あのときは、こうして彼らと友好関係を築こうなんて思いもしなかったわ」

「……私としては、あの少女の子孫がオークがびっくりして逃げ出すような怪物になっていることに驚きだ」


 過去を懐かしむヴィヴィアンに対し、ゾーイがボソッと呟いた。


「あら、ゾーイったら。ごめんなさいね、ドミニク殿。この子は少し口が悪いのよ」

「気にしていませんわ。もしよろしければ、キャサリンと魂の名前でお呼びください」

「そう? なら、キャサリンと友人のように呼ばせていただこうかしら」

「まあ、嬉しいですわ」


(あれー? 魔王と仲良くなってりゅー)


 魔王とフレンドリーに話すどころか、キャサリンと呼ばせてしまう彼女が凄まじいと思う。

 あと、なにも抵抗なく受け入れているヴィヴィアンも大概すごい。

 隣に座っているゾーイなど、主人がキャサリンをすんなり受け入れていることに絶句しているというのに。


(なんというか、キャサリン様は女性と仲良くするのが得意なのかな?)


 ついそんなことを考えてしまう。

 水樹をはじめとしたサムの奥さんたちも、ギュンターの妻であるクリーも、キャサリンを姉のように慕っている。だから、魔王とも、と思うのだが、ゾーイがいるので必ずというわけではないのだろう。

 だが、サムには真似できないコミュニケーション能力だと思う。


「確か、勇者月白龍太郎とミリアム・ジョンストンの他にも、数人くらい規格外な子がいたわね。えっと、確か」

「聖女クリスティーナ・スカイでしたね。他にも何人かいましたが、私の記憶が確かなら、女ばかりでした」


 ヴィヴィアンの記憶を補足するように、ゾーイが聖女の名を口にした。


(なるほど、スカイは聖女側だったわけだ)


 スカイ王国の名前の由来に納得していると、ヴィヴィアンとゾーイが世間話のように過去の話をしていく。


「そうそう。いつも勇者の男の子を巡って喧嘩していたわよね。レプシーを相手に戦いながら余裕のある子たちね、と当時は感心したのよ」

「まったくです。勇者と誰が交わるだとか、結ばれるとかで、毎日のように大喧嘩していましたね」

「そっかー。勇者はラブコメってたんだぁ。レプシーが勝てばよかったのに」


 なんだかんだ異世界召喚を楽しんでいたと思われる勇者に、爆発しろ、とサムは思うのだった。



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