51「魔王様はフレンドリーでした」②




「つい過去を懐かしんでしまったけど、勇者とその仲間たちのお話はまた今度にしましょう。でも、こうしてあの子たちの子孫に会えて嬉しいわ」


 改めて魔王ヴィヴィアンとゾーイが古くから存在しているのだとわかる。

 まさか魔王と会いにきて、建国の勇者と聖女たちの話が聞けるとは思わなかった。


「ところで、滞在はどのくらいのご予定?」

「お許しがあれば、数日ほど滞在し、お話ができればと思っています」

「もちろんよ。もし、時間に余裕があるのなら、街をご覧になって。私の可愛い子供たちが一生懸命作った国なの」

「そうさせていただきます」

「ならば私が案内しよう。先ほど、そう約束したのでな」


 そう長居をするつもりはないが、ちゃんと魔王と友好的な関係をしっかり築いておきたい。

 スカイ王国と夜の国の関係は、今後の王たちにかかっているが、サム個人としてできるのであればヴィヴィアンと友好を深めておきたかった。


「あら。ゾーイが珍しいわね。私がご案内しようと思っていたのに」


 少しつまらなそうなヴィヴィアンに、ゾーイが大きく嘆息する。


「ヴィヴィアン様が街に出たら大きな騒ぎになります」

「うふふ。前もそうだったものね」

「皆があなたを慕っているのに、国を配下に丸投げでご自身は屋敷で隠居生活ゆえ、たまに出てくると驚きますし、あなたからお言葉を頂戴したいのです」


 どうやらヴィヴィアンは国の運営はしていないようだ。

 引きこもり、というわけではないようだが、ゾーイの言葉から屋敷から出ることが珍しいようだ。


「じゃあ、友也を」

「――いいえ! あの男が街に出たほうが大騒ぎになります!」


(――友也?)


 ヴィヴィアンが口にした名前に、サムがひっかかりを覚えた。

 聞き間違いでなければ、前世の日本を思い出させる名前の響きだった。


(まさか、魔王に日本人がいるはず――ないよね)


 さすがにそれはあり得ないだろう、とサムは内心苦笑した。

 よく考えれば、日本を連想させる名前はこちらの世界にもよくある。

 例えば、水樹がそうだ。

 日の国の血を引く彼女と、彼女の家族たちは、日本風の名前だ。

 先ほど、初代勇者の話を聞いたものだから、つい「友也」という名前を転生者かなにかかと連想してしまった。


「わかったわ。じゃあ、ゾーイに任せるわね」

「承知しました。そういえば、サミュエル・シャイト」

「はい?」

「ダフネはどうした? 連れてこなかったのか?」

「――あ」


 ゾーイに問われ、幼い頃から姉のように慕っていたダフネを連れてくることを忘れていたことを思い出す。

 ダフネがエルフであることは、魔王とゾーイとの邂逅で知った。その際、魔王ヴィヴィアンと会うときに連れてこいと言われていたのだ。


「……忘れていたようだな。私も、最初に尋ねればよかったのだが。奴がいないと思い出したのが、すでにスカイ王国を出たあとだったのでな」

「――私をお探しですか?」


 気まずそうにするゾーイが眉を寄せたとき、部屋の中にここにはいないはずのダフネの声が響いた。


「え?」


 サムは弾かれたように部屋の入り口を見ると、そこにはいつものようにメイド服に身を包んだダフネ・ロマックがいた。


「だ、ダフネ!?」

「はい、ダフネです。まさかぼっちゃまに忘れられているとは思わず。いえ、私もさほどこちら側に来たいと思っていませんでしたが、置いていかれたことが悔しくて、全力ダッシュで追いかけてきました」



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