56「ダフネのお話です」①




「お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様ぁあああああああっ、くんかくんかくんかくんかくんかくんかくんか、はぁああああ、たまらねぇ、久しぶりのお姉様の香りだけで絶頂できるぅうううううううううう。ちょっと汗をかいているせいで甘酸っぱい感じがいいですわぁぁぁぁぁぁぁ! ほのかに香る香水と混ざり合って、最高のフレーバーになってこれはこれで、ぐへへへ、たまらねえな! 一生くんかくんかしたい! 嗚呼、素敵です、お姉様! お姉様がいれば、そこらの有象無象などどうでもいいのです!」

「うわぁ」


 魔王との邂逅、命の危機、ダフネに救われるなど様々なイベントを短い時間に繰り広げたサムは、その全てが霞んでしまうような光景にドン引きしていた。

 目の前では、小柄な美少女が、ダフネの放漫な胸に顔を埋めて恍惚とした表情を浮かべて気持ち悪いことを言っている。

 さらに、胸を揉みしだき、頬で柔らかさを感じ、谷間で大きく深呼吸までしていた。

 はっきり言って、変態だ。

 しかも、妹が姉に対して変態行為をしているのだから、もう驚きを通り越して唖然とする他ない。


「これが嫌で、里を出たんですよねぇ」


 乳房を妹に弄ばれているダフネがどこか遠い目をしていた。

 サムとダフネはウルと合流すると、落ち着いて話ができる場所を探し、再びレストランに戻った。

 すると、ミヒャエルを名乗る少女が現れ、ダフネを見ると感極まって現在に至る。


「というか、この子誰?」

「あー、ミヒャエル夫人っと言ってな。エルフだ。あと、デライト師匠の師匠になるそうだ」

「デライト様の!?」

「こんな変態だが、魔法使いとしてはかなりのものだ。あと、なんだ、言い辛いが私の友人でもある」


 ダフネの乳房で呼吸しているような少女だが、エルフであり、デライトの師匠であるのなら、見た目通りの年齢ではないのだろう。

 そして、おそらく、ダフネも。


「えっと、この子がエルフってことは、ダフネも」

「はい。私はエロフです」

「――は?」


 あれ、とサムは首を傾げた。

 今、なんかとんでもないことを言われた気がする。


「間違えました、エルフです」

「だよね! エルフだよね。あー、びっくりした! ていうか、自分の種族を間違えねーだろ!」


(焦った。一瞬、エロフとかいう種族がいるのかと思った!)


 とんだ言い間違いである。とうか、普通はしないような間違い方だ。


「……ミヒャエルの姉がサムのメイドだったとは思わなかった」

「私もまさか、坊っちゃまの師匠である方が、妹の友人だとは思いませんでした。世の中は意外と狭いですね」

「違いない」


 ダフネは、たわわな胸を妹に揉まれているにも関わらず、器用にウルにお辞儀をした。


「こうしてお会いするのは初めてですね。ウルリーケ・シャイト・ウォーカー様。サム坊っちゃまが大変お世話になりました。いつもお手紙で、あなたのことを聞いていたので、いろいろ存じております」

「私もあなたのことはよく聞かされたよ。サムの大切な家族だとね」


 ウルが差し出した手を、ダフネが握り、握手が交わされる。


「しかし」

「ん?」

「坊っちゃまと四年も一緒にいながら童貞を奪わなかったことにはいささか疑問を覚えます。初物踊り食い、女性なら一度は憧れるもののはず」

「憧れねーよ。うん、確信した。こいつはミヒャエルの姉だ、間違いない」


 ウルが呆れたように嘆息する横で、サムも盛大にため息をついていた。

 幼少時には優しい姉だったのに、再会したダフネは自分の欲求を隠そうとしない。

 もちろん、そんなことでダフネとの関係が変わるわけではないのだが、まさか彼女の口から「初物踊り食い」などの単語が出てくると、いささか動揺を隠せなかった。



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