50「魔王の理由とレプシーの話です」④




「ごめんね、ダーリン。だけどさ、私たち魔王の務めみたいなもんだからさ」

「……務め?」


 魔力を収めたエヴァンジェリンが申し訳なさそうに言うも、その内容はサムにはわからないものだった。

 魔王としてなにかの役割があるのだろう。

 サムが思わず聞き返してしまうと、エヴァンジェリンが説明してくれる気があるのか口を開こうとする。

 しかし、ダグラスがそれよりも早く割り込んだ。


「それ以上は言うな。サムをこちら側に巻き込む必要はない」

「はいはい、わかりましたよ。うっせーな」

「えっと、どういうこと?」


 結局、エヴァンジェリンがなにを言おうとしたのかわからぬままのサムが、ダグラスを見るが、彼は首を横に振った。


「気を悪くさせたらすまないが、魔王ではないサムには関係のない話だ。世の中には知らなくていいものもある」

「……そっか」


 それ以上の追求をする必要を感じなかったサムは、あっさり引き下がった。

 魔王にどんな理由があろうとも、サムがすべてを把握する必要はない。

 魔王レプシーを倒したことで、エヴァンジェリンとダグラスに縁ができたものの、彼らに干渉するつもりはなかった。


「まあ、なんだ、呪われし子ではあるのだろうが、俺たちが排除対象にしていたかつての呪われし子とは違う。それだけ知っておいてくれればいい。お前はいい奴だ、戦わずにすんだことに感謝しよう」

「それは俺も同感だよ。あんたたちと戦うなんて、考えただけでもぞっとする」

「はははは、謙遜するな。レプシーと戦えたのなら、俺たちとだって戦えるだろう」


 ただ、とダグラスが顔を顰めた。


「問題は、レプシーを屠ったという代償魔法か。その場にいなかったのでわからんが、話を聞いてもさっぱりだ。まあ、理解できない力など使わない方が身のためだと忠告しておこう」

「師匠にもそう言われたよ」

「で、あろうな。だが、あのレプシーを完全に殺すのに、片目と左半身を一時的な代償として捧げるだけなら、対価としては安いな」

「それ以上に、なにかを奪われている可能性もあるけどね」

「それでも安い。言い方が悪くなってすまないが、人間ひとりの寿命をすべて対価にしたところで、レプシーの死には釣り合いがとれていない」


 すでにサム自身が散々思ったことだが、魔王ひとりを相手に自分ひとりの命が代償なら間違いなく安い。

 王都の命が奪われていたら――そう考えるだけで、命を捧げても惜しくはなかった。



「とはいえ、サムは少ない代償でレプシーを倒した。勇者と言われてもおかしくないんだがな」

「勇者はやめてくれ」


 脳裏に浮かぶのは隣国で勇者として召喚された葉山勇人だった。

 あれと同列にされるのはごめんだ。


「いろいろ脱線もしたが、最後に聞かせてくれ」

「うん」

「レプシーは安らかに逝ったか?」

「ああ、穏やかな顔をしていたよ」

「ならばよかった。感謝する、サミュエル・シャイト」


 結局のところ、魔王たちは友人が安らかに逝ったのかどうかを確認したかっただけなのかもしれない。

 ダグラスはもちろん、エヴァンジェリンでさえ、食事を中断し、目をつむり黙祷を捧げた。

 サムも彼らに倣い、レプシーが亡き家族と再会できていることを心から祈るのだった。



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