49「魔王の理由とレプシーの話です」③
「――なるほど。自分でも理解できない、未知なる力か。そりゃ厄介だな」
「つーか、私的にはダーリンが呪われし子ってことに驚きなんだけど。あいつらの血族ってまだいたんだな」
サムは魔王たちに、嘘偽りをすることなくレプシーとの戦い、そして、彼から告げられた『呪われし子』であることを告げた。
馬鹿正直に話したのは、サムの最強の攻撃である『――セカイヲキリサクモノ』や呪われし子の情報をなにか得ることができないか、と考えたからだった。
セカイヲキリサクモノには魔王たちも興味は示したものの、思い当たることはないようだ。
もしかしたら、ウルが懸念していたように代償魔法としてサムが自覚していない以上のものを支払っているだけなのかもしれない。
だが、呪われし子に関しては、ふたりとも心当たりがあるようだった。
「呪われし子について知ってるんだ?」
「それに関しては俺よりも、エヴァンジェリンのほうが詳しいだろ」
「あんな根暗や奴らに興味なんかねーよ。でも」
言葉の途中で、エヴァンジェリンがサムをじぃっと見つめる。
「確かに、ダーリンは呪われし子の血は引いてるみたいだけど、うっすいぞ。剣の才能を失ってスキルと魔力を得たのは気になるけど、それが果たして本当なのかわからね。もしかしたら、呪われし子と全然関係ねーかもしれねーし」
「わからんのか?」
「私は全能じゃねえよ」
「えっと、あのさ」
「なあにダーリン?」
「だからダーリンって……それはまあ今はいいとして、呪われた子に関して詳しいの?」
サムの問いかけに、エヴァンジェリンは少しだけ困った顔をしてダグラスを見るも、彼は肩を竦めるだけ。
エヴァンジェリンは仕方がないという感じで口を開いた。
「詳しいっつーか。あー」
「エヴァンジェリンが呪われし子の大半を殺した。一部殺し損ねたようだが」
「殺し損ねたわけじゃねえし! 殺す必要がなかっただけだっつの。てっきり勝手に滅んじまったと思っていたんだけどなぁ」
「俺が、ここにいる」
サムは平静を装いながら、エヴァンジェリンに警戒した。
どんな理由があって、彼女が呪われし子たちを殺害したのか今はまだわからないが、同じ呪われし子であるサムをどう思うのかわからない。
「ま、いいんじゃね」
「え? いいの?」
しかし、警戒するサムに対して、エヴァンジェリンはあっさりした態度だった。
若干の拍子抜け感がある。
「呪われし子って、力なのなかった人間がどのぞの誰かに代償を捧げて、呪われた結果に生まれた存在なんだよ。そんなことをしなけりゃ、人間以外の種族に手も足も出なかった惨めな奴らなんだけど、私が見たところ、ダーリンは別に呪われてねーし。ま、気にする必要なくない?」
「……そんなのでいいんだ」
内心ほっとした。
今のサムには、エヴァンジェリンに逆立ちしても勝てないだろう。それだけの実力さがあることがわかっている。
さらに、レプシーを倒した代償で、片目と左半身の機能が停止していることもあり、ウルとの約束を破って切り札を使うこともできないだろう。
「ダーリンもよかったね。いくら愛しのダーリンでも、呪われていたら――この場でぶっ殺していたけどな」
「――――っ」
呼吸が止まるほどの、濃密な魔力を当てられ、サムは動けなくなる。
しかし、
「よせ、エヴァンジェリン。飯と酒がまずくなる」
ダグラスの力の宿る声により、エヴァンジェリンが魔力を抑えることになり、サムの硬直が解けた。
「――はぁっ、はぁっ」
呼吸さえも止まっていたサムは、酸素を求めて深呼吸を繰り返す。
(勝てないとわかっているけど、底が見えない。もしかしたら、戦いにさえならないかもしれない)
サムは、改めて目の前のふたりが、魔王であることを再確認したのだった。
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