48「魔王の理由とレプシーの話です」②




「エヴァンジェリンは少々言い過ぎだが、間違いではない。当時の人間はレプシーに勝てないとわかっていたから家族を狙った。魔王云々の話ではない、そんな卑怯者共に生きている価値などないのだ。俺にも家族はいる。もし自分だったら、と思うとゾッとする。ゆえに、止める理由などないのだ」


 サムだって、非が完全に人間側にあることは理解している。

 どのような理由があり、人間がレプシーに敵意を抱いたのかは不明だし、もうわかることはないが、もっとやりようはあったはずだ。

 卑怯なことをした結果、国が滅び、現代に至るまで魔王の怒りは収まっていなかった。それだけのことをしたのだ。


「俺たちがレプシーを止めても良かったが、それには被害があまりにも出ただろう。自由気ままに生きていた頃ならまだしも、守るべき臣下が、民がいるからな。争うことなどできなかった」

「私はそんな邪魔なものいなかったから戦っても良かったんだけどサァ、あのクソババァに邪魔されたからできなかったんだよなー」

「ふっ、よく言う。誰よりも早くレプシーを正気に戻そうと動いたくせに」

「はぁ? やめてくんない、勝手に妄想とかすんなよ。ダーリンに勘違いされたら困るんですけど」

「隠さなくても、お前がレプシーの妻子と親しくしていたことはみんな知っている」

「だーかーらー、勝手な妄想するんじゃねえよ!」


 魔王たちは、レプシーはもちろん、彼の亡き家族とも交流があったようだ。

 きっと、魔王だからではなく、友人家族に害を加えた人間を許せないのだと、ふたりの真意をサムは知った気がした。


「俺たちは魔王同士の戦いを避けたが、それ以前の問題として、戦って勝てるかわからなかったという理由もある」

「私なら勝てたし! レプシーとか雑魚だし!」

「エヴァンジェリンはそう言うが、少なくとも俺は勝てなかった――と、思う」

「そりゃ、お前も雑魚だからだよ!」


 目の前の魔王が勝てないと言うレプシーが、全盛期どれだけの実力だったのか、想像さえできない。

 ダグラスだって、推測だが相当強い。

 サムがその力を読み切れないほど、力に差を持っている。

 さらに言えば、エヴァンジェリンの方がもっと読めない。竜王の娘と言っていたが、納得できるほどその力の深さがまるでわからなかった。


「レプシーって全盛期はどれだけ強かったんだ?」


 サムの知るレプシーは、不完全な復活をしたせいか、大幅に力を落としていた。

 それでも、普通に戦ったら絶望的な戦力差があった。


「そうだな、魔王でも一、二を争う実力者だった。ただ、性格がまるで戦闘向きではなかったがな」

「そんな馬鹿レプシーをあれだけ怒らせた人間も逆にすげーけどな」

「違いない」


 スカイ王国王宮にとんでもない魔王がいたものだと背筋が冷たくなった。

 ナジャリアの民が中途半端な仕事をしたおかげで、不完全な復活となったことに感謝したくなる。

 全盛期に近い力を取り戻していたら、この国はどうなっていただろうか。


「レプシーの復讐を止めなかったのは、うん、わかったけど……スカイ王国に封印されていたのを助けなかった理由は?」


 大きな疑問として残るのは、レプシーが倒されたと思えばこんなにも早く現れた魔王たちが、なぜ封印されていたレプシーを放って置いたか、だ。


「先ほども言ったが、レプシーは復讐の果てに死にたがっていた。俺たちでは、それを叶えてやることはできなかった」

「つまり?」

「レプシーを殺すことは同じ魔王でもかなり難しいんだ」

「レプシーが強いからってこと?」

「単純な強さもそうだが、レプシーの一番恐ろしいのは奴の再生能力だ。ちっとの攻撃じゃ、瞬く間に再生しちまう。奴はそう言う生き物なんだ。レプシーを殺すには、奴の再生能力を上回る一撃を放つしかない。情けないが、俺には無理だ。これは他の魔王も同じだ」

「私は余裕でぶっ殺せたけどな!」


 エヴァンジェリンの実力をサムは知らないが、その自信は嘘ではないだろう。

 ダグラスが肩を竦める。


「そうらしい。で、だ。奴が異世界人と戦い、敗北した。それはそれで驚いたんだが、やはりレプシーを殺すことはできなかった。異世界人の勇者にでも、不可能だった」

「私たちは話し合ったんだ。レプシーの馬鹿を助けるか、放置するか。んで、あの女々しい男を封印から解いてもどうせまた泣いて暴れるだけだ。それじゃ面倒だから、放っておくってことにしたんぜ」

「エヴァンジェリンの言い方は悪いが、間違っていない。悲しみに狂い暴れるよりも、そっと寝かせて置いてやろう。いつか、その悲しみが癒えるその時まで」


 しかし、レプシーの悲しみは現代でも言えることはなく、人間への怒りと憎しみも残ったままだった。

 だが、同時に、迫害された人間に温情を与えようとする、優しい魔王でもあった。


「――で、ダーリンが現れた」

「俺?」

「レプシーが不完全な復活を遂げたのは俺たちも把握している。そして、その後に誰かと戦ったことも。これに関しては驚いていない。レプシー信者は多いからな、自分たちの都合で奴を復活させようとしても、まあ、許容範囲だ。ま、スカイ王国には迷惑だろうがな。しかし、問題は復活した後だ」


 サムはなにも言わなかった。


「不完全な復活であり、死にたがっていたとしても、歴代の魔王の中でも一、二を争うあのレプシーを消滅さえるような力を持っている人間は、はっきりいって俺たちにとっても脅威だ」

「私は興味があっただけで、ビビってないけどな!」


 ダグラスがまっすぐサムを見た。


「レプシーと戦ったのがサムだということはわかった。さて、俺は今まで誠実に話をしてきたつもりだ。だから、腹を割って話をしようぜ。お前、なにをした?」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る