47「魔王の理由とレプシーの話です」①
ごくり、とサムは喉を鳴らした。
わかっていたことだが、こうはっきり言われると緊張を隠せない。
魔王レプシーを倒した際、彼が他の魔王の話をしたときから今日のような日が訪れることを覚悟していた。
ダグラスと、エヴァンジェリンという魔王と邂逅し、自分なりに戦いに発展しないようフレンドリーに接してきたつもりだったが、やはり戦いが避けられないのだと思うと残念でならない。
とくにダグラスは、気さくないい人だ。好ましい性格をしている。
そんな彼と、殺し合いを――いや、戦いにならないかもしれないが、それでも戦わざるを得ないことがただただ残念だ。
「やっぱりレプシーの件で俺に復讐を」
緊張で口がカラカラと乾くせいで、言葉が途切れてしまった。
「――ん?」
「――はぁ?」
そのせいか、魔王ふたりが心底不思議そうな顔をした。
もしかすると、こちらの言葉がちゃんと伝わらなかったのかと思い、もう一度口を開こうとするが、それよりも早く、エヴァンジェリンが意味がわからないとばかりに言葉を発した。
「ダーリン、なに言ってんの?」
「え?」
「どうして私たちが、レプシーの復讐なんて面倒なことをしてやる必要があるのかってこと」
「え? 違うの?」
「違うっての。あー、まさか私たちがレプシーの仇討ちとかでダーリンをぶっ殺すとか勘違いしてたの? だからそんなに緊張気味なのね。てっきり、私の美貌にメロメロだと思っていたのに、ちぇっ」
(――あれー?)
今度はサムが首を傾げる番だった。
「だけど、わざわざ俺に会うために大陸の西側から来たんだろ? じゃあ、何しに来たんだ?」
「何言ってんだよ、ダーリン。――運命に導かれてに決まってるじゃねえか。私とダーリンを結ぶ、赤い糸に導かれてここまで来たんだよ」
「……はぁ」
「エヴァンジェリン、お前は黙っていてくれ。話が進まないだろう。さて、サム。俺たちはお前に何かするつもりはない。そもそも、レプシーに関しては感謝しているくらいだ」
「感謝だって? どうして?」
エヴァンジェリンの言葉はスルーしていいだろう。だが、ダグラスの言葉は聞き逃せなかった。
レプシーを、同じ魔王を殺されて、感謝するとはいささか理解が追いつかなかった。
「奴は死にたがっていた。原因は、知っているか?」
「ご家族を亡くしたからか?」
「そうだ。復讐に狂いながらも、狂いきることができず、取り戻せない妻子のことばかり考えては涙を流し、暴れる、可哀想な奴だった。だから、俺たちはレプシーを放置していた」
「おい、ダグラス! もっとダーリンにわかりやすく話しやがれ!」
「あー、すまんな。俺は喧嘩担当でな。あまり頭がいいわけじゃないんだが。俺たち魔王は、レプシーの復讐を止めなかった。それはいいか?」
「あ、うん、でも理由は?」
サムの疑問に、ダグラスは当たり前だと言わんばかりに答えた。
「人間が悪いから仕方がない。魔王の、それも大切にしている家族を殺したのだ。無事にすむわけがないだろう。自業自得だ」
ダグラスに続き、エヴァンジェリンも鼻を鳴らして同意する。
「ま、あの馬鹿は家族に手を出した人間の国を滅ぼしても止まらなかったけどな。それでも、私たちに止める理由はねーんだ。人間が死のうと、奴らの国が滅びようと、別にどうでもいいし」
ふたりの返答は、どこまでも魔王のものだった。
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