41「魔王について聞きました」②




「いろいろ余計な話をしちゃったけど、魔王様たちは暇を持て余している方々が多いのよ。あの方たちが自由にするには、きっとこの大陸は狭いんじゃないかしら」

「――そんな魔王がスカイ王国に来たんだから、大事件だな」


 まだ魔王たちに大きな動きはない。

 城下町をうろうろしているのだけは把握できるが、現状問題は起きていない。

 ミヒャエルの話を聞き、魔王がサムを殺しに来たなどの事態はないと思いたいが、楽観的な予想はしない。

 魔王レプシーと旧知である魔王が、同じ魔王の一角が死んだことになにを思ったのかわからない。


「まさかとは思うけど、魔王様に会うつもりじゃないでしょうね?」

「そのつもりだけど?」

「友人として忠告するわ。関わるのはやめなさい。ときどき、暇を持て余した魔王様が人間の国にお忍びで出かけることは珍しくないわ。問題も起きていないの。なら、今回だって」

「だが、タイミングが良すぎる。魔王レプシーの死後、魔王が来たことが偶然と考えられるほど、私は楽観的じゃない」


 かわいい弟子を目的にされている可能性がある以上、ウルは警戒心を最大にするしかない。

 ミヒャエルのように魔王を知らないという不安もある。


「忠告はしたわよ。残り少ない命を、自分から捨てることなんて馬鹿のすることよ」

「わかってい――っ」


 ミヒャエルの忠告に返事をしようとした瞬間、爆発的な魔力が放出されたことにウルは気がついた。

 あまりにも濃密で暴力的な魔力だ。

 気を抜いたら、体がどうにかなってしまいそうな力を感じ取れる。


(ははは、こんなのを相手にしなければならないなんて、さすがの私もビビるぞ)


「ウルリーケ?」


 冷や汗を流し、全身を震わせるウルを心配そうに伺うミヒャエルとガブリエルの存在に気づく。


(――っ、そうか、魔王の魔力が強すぎてこいつらには感知することすらできないのか。同じ領域か、魔王に近い場所に立っていなければ、まるでわからない。なるほど、魔王がお忍びで町を散策できるわけだ)


 おそらく、今の魔王の魔力に気づいたのはスカイ王国内で数える程度だろう。

 この魔力を感知し、どう動くかわからないが、ウルの知る魔法使いたちなら、魔力の発信源に向かいそうだ。


「ウルリーケ? さっきからどうしたのよ?」

「あ、いや、なんでもない。ただ、用事を思い出してしまった。また来るよ」

「ちょっと!」

「ウルリーケちゃん?」


 玄関からではなく、テラスから飛んで帰ろうとするウルに、友人たちが困惑する。

 ウルは、一度足を止めると、彼女たちを振り返った。


「悪いな、また会おう」

「ウルリーケちゃん、今度はちゃんと言わせてね」


 ガブリエルが立ち上がり、ウルに近づくとそっと抱きしめる。


「わたくしたちはずっと友達よ」

「ああ、変態だけどいい友達を持ったよ」

「あのね! そろそろ変態っていうのをやめなさいよ!」


 文句を言うミヒャエルも、ガブリエルに続きウルを抱きしめた。

 名残惜しく友人の体を話すと、ウルはゆっくり飛翔する。


「お前たちと出会えよかったよ。私の大切な友達だ」


 そう言い残したウルは、王都の空を飛んだ。



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