40「魔王について聞きました」①
友人と楽しいひと時の時間を過ごしていると、ぴくり、とウルが何かに反応した。
椅子から立ち上がると、テラスから城下町の方を見る。
ウルの表情は笑顔を浮かべていた今までと違い、緊迫した顔をしていた。
さすがに、どうかしたのか、と不安になった友人ふたりが訪ねてくる。
「ウルリーケちゃん?」
「どうかしたの?」
「――魔王が来やがった」
魔法使いではなく、戦闘者でもないガブリエルが気づかないのはわかるが、これだけの魔力にエルフのミヒャエルが気付かないことを意外に思う。
「魔王って、西側の魔王たちのこと?」
「ああ、遠からずやってくると思っていたが、まさか魔王レプシーの死から一週間ちょっとで来るとは思ってなかったな。ったく、暇だろ、魔王ども!」
悪態をつくウルに、ミヒャエルが同意するようにうなずいた。
「あら、わかっているじゃない。魔王様たちは基本的に暇よ」
「そうなのか?」
「西側じゃ、結構有名だけど、魔王様たちって昔はガチで殺し合っていたのよね。魔王の数だって、今の数倍いたようだし。だけど、魔王が戦えば、苦しむのは私のような弱者たちなのよね」
「お前のどこが弱者だよ、変態エルフ!」
「弱者よ! で、復讐に狂う前の魔王レプシー様をはじめ、魔王ヴィヴィアン様たちが、厄介な魔王をぶっ殺したの。物凄い被害を出してね」
「結局被害が出るのかよ」
ウルは呆れた。
どちらにせよ、王都に被害を出すわけにはいかない。
(しかし、どうするか? 今の私に魔王を相手にできるか? いや、できない。ならばいたずらに刺激してしまう方が問題か? ここで様子を見ていることもできるが……くそっ、弱い自分が恨めしい)
魔王と戦える機会などそうそうなく、戦いたいという欲求もないわけではない。
しかし、ウルが感情のまま動いたせいで、王都が壊滅するなどということは絶対に避けなければならないのだ。
なによりも、まず、魔王がなぜ王都に来たのか、を知る必要がある。
「あのね、長くずるずる戦争が続くなら、被害を出してでも短い時間で終わらせることをご決断したのよ」
「それはご立派だ」
「そして、魔王様たちの数は現在に至り、以後魔王は生まれていないわ」
「なぜだ?」
何百年前の話か知らないが、かつては数多いた魔王が、戦争以降一度新たに現れていないことが気になった。
「他の魔王様が、新たに魔王となろうとしている奴を潰すのよ。物理的に潰す場合もあれば、配下に加える場合もあるわ。だから、魔王様じゃなくても、魔王級と呼ばれる存在がいるのよ。あ、ちなみに麗しきお姉様は準魔王級よ!」
「お前の姉の情報はいらねーんだよ。ん? あれ? 確か、お前の姉の名前はダフネって言ったよな?」
「ええ、素敵なお名前でしょう?」
「そうじゃなくて、最近どこかでその名前を聞いたような気が」
「言っておくけど、ダフネって別に珍しい名前ではないわよ。ウルが聞いたその名前の主ってエルフなの?」
「あー、いや、人間だな。たしかメイドだったはずだ」
「高貴で麗しいお姉様がメイドなんかするはずがないでしょ! そもそも種族が違うし、お姉様が近くにいたら私が気付かないわけがないわ! 私とお姉様は姉妹の絆で繋がっているのですから!」
「案外、お前から逃げ回っていたりしてな」
「ちょっと! 失礼なことを言うのはやめてちょうだい!」
こほんっ、とウルとミヒャエルの間に、ガブリエルの咳払いが響いた。
「おふたりとも、魔王の話から脱線していますわよ」
「おっと、続けろ。変態エルフ」
「はいはい。それで、今の魔王様たちは無用な戦いをしないと決めたのよ。一応、表向きはね」
「表向きってことは」
「魔王様たちは別に善人というわけじゃないわ。特にエヴァンジェリン様や遠藤様は恐ろしいお方だと聞いているわ。他にも、魔王でも古株のヴィヴィアン様をよく思っていない魔王が戦争を仕掛けようと準備をしている、なんて噂もあるくらいよ」
「魔王レプシーはどうだったんだ?」
ウルの疑問に、わからない、とミヒャエルが肩を竦めた。
「レプシー様は、私が生まれる前に人間に倒された魔王様だから、あくまでも聞いた話でしか知らないのよ。ただ、レプシー様を悪く言う奴はいないわね。素晴らしい魔王だったとみんな言うわ。今も、レプシー様を慕っている方は多いくらいよ」
「――そいつらとサムが揉めないことを祈るよ」
サムの受難は続きそうだ、ウルは思わずため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます