42「少女と大男です」
「この屑っ、雑魚っ、馬鹿オーガっ! 人間の国にわざわざやってきたのに、人間の金を持ってねえとか馬っ鹿じゃねえの! 使えないなっ! お前のせいで美味しそうなお菓子が食べられねえだろ!」
「す、すまん」
スカイ王国の城下町の一角で、異様な光景が繰り広げられていた。
「申し訳ございませんだろ、この糞雑魚野郎っ!」
「も、申し訳ございません……もう勘弁してくれ」
「なに普通に謝ってんだよ! 土下座して謝罪しやがれってんだ!」
「も、もう謝ったんだから許してくれ。それに、俺にもプライドがあるんだ。街中で土下座などはできんよ」
十代半ばの少女が、三十代の大柄の男を罵倒しながら蹴りを入れているという、なんとも言えない事態に誰もが足を止めて、困惑した顔でその様子を眺めていた。
ヒステリック気味に騒ぐ少女と、強面の大男が無抵抗にされるがままにされている姿は、異質の一言だった。
止めるべきか、と数名考える人もいたが、少女の罵声が自分に向けられることを恐れて尻込みしている。
「――ふん。で、どうするんだよ? ご飯も食べられない、レプシーをぶっ殺した奴もわからない。何しに来たんだよ、私たちぃ!」
「勢いだけで出てきたのが間違いだったなぁ」
大男は困ったように頭をかくが、少女はそんな大男の態度に苛立った様子を見せた。
「ふざけんな! お前が行くっていうから調べてあると思ったんだぞ!」
「レプシーの気配が完全に消えてからすぐに東側にやってきたんだ。準備などできているわけがないだろう。俺も短慮だったとは思うが、それでもあのレプシーを殺した人間に会いたいと思うのは普通だろう」
「ちゃんと調べてから動けってんだよ!」
「ははははは、それはお前さんも同じだぜ! だが、まあ、探し人はいずれ見つかるだろうさ。レプシーを倒せる人間なんてそうそういるもんじゃない」
「つーか、レプシーを倒したのが人間だったのかさえわかってないじゃねえか。もしかしたら、私たちよりかもしれねーだろ」
「かもしれないな。ま、それはさておき、まずは腹ごしらえでもするか」
大男はマイペースだった。
金はないが、今は探し人よりも腹が減った方が気になるらしい。
少女も同感だったのか、それとも大男を相手にするのが面倒になったのかもしれない。
不機嫌そうな顔を隠すことなく、目つきの悪い瞳を周囲に向ける。
「ちっ、金がないならその辺の奴からでも」
「俺はやめろと止めるからな。ヴィヴィアンに叱られても知らんぞ。以前も尻をこれでもかと叩かれて赤く腫らしていたではないか」
「……あのババァ! 思い出しただけでお尻が痛くなるんだけど!」
少女が尻を押さえて、ここにはいない誰かに怒りをの声を上げると、大男は愉快そうにからからと笑った。
そして、男は腕を組むと、今更ながらに自分たちが目立って注目を浴びていることに気づき、
「さてと、どうしたものか」
あまり困った様子もなく呟くのだった。
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