24「姉妹の会話です」①




 ナジャリアの民と決着をつけ、魔王レプシーを倒した翌日。

 未だ爆睡しているサムをそのまま寝かせている間、軽く睡眠を取ったウルは久しぶりに妹のリーゼと部屋で向かい合っていた。


「こうしてリーゼとゆっくり話をするのは久しぶりだね。昨日も、慌ただしくしてしまったから、私もようやく肩の力を抜けるよ」

「本当に、お疲れ様でした。しかし、こうしてまたお姉様のお顔を見て話ができるなど、夢にも思っていませんでした。アリシアとエリカもお姉様とお話をしたがっていたので、ぜひ時間を作ってあげてください」

「もちろんさ。それで、話をしたいって聞いたけど、改めてどうしたんだい? あ、私が結婚式を早めてほしいって無茶なお願いをしたせいでトラブルでも起きたとか?」


 父ジョナサンにサムと婚約者たちの結婚を早めて欲しいと頼んだのは、早朝のことだ。

 今はすでに、正午過ぎ。

 リーゼたちに話が伝わっているだろうと考える。

 ウルも無茶を言ったとわかっているので、少し気まずそう顔をしていた。


「いいえ、トラブルなど特には。ただ、サムが寝ている間に、お姉様とちゃんとお話しておきたいことがあったのです」

「うん。じゃあ、話をしよう」


 ウルの部屋のソファーに腰を下ろしていたふたりは静かに見つめ合う。

 思えば、なにかと多忙で妹とゆっくり話をすることなどあまりなかったと思い返す。

 病を自覚してからは、自分のことしか考えずに出奔してしまったこともあり、少なくとも五年はまともな会話をしていない。

 姉として、家族として、決して褒められないことを自覚しているウルは、家族に抱く罪悪感から逃れようと酒に手を伸ばそうとして、やめた。


「先ほど、お父様とお母様から、お姉様が生きている間にサムと私たちの結婚式を行って欲しいと言うことを伺いました」

「できればサムと妹たちの門出を祝ってやりたいからね。迷惑だろうけど、頼むよ」

「いいえ、迷惑だなんて! そんなことありません!」

「ならよかったよ。無理を言っている自覚はあったんだが、リーゼにそう言ってもらえてほっとした。それで、話って結婚のことだよね?」

「はい」


 妹の真面目な顔に緊張する。

 記憶と違い、大きく成長したリーゼに若干の戸惑いを覚えつつ、妹の言葉を待った。


「お話をする前に、これから話すことはサムは知りません。あくまでも私たちの独断でお姉様にお伝えします」

「あ、うん」


 なんだろう、と首を傾げるウルにリーゼははっきりと告げた。



「――お姉様もサムと結婚しませんか?」



「は?」


 ウルは耳を疑った。

 続いて、オルドの適当な術のせいで、ちゃんと復活できていないことを思い出し、耳に問題があるのだと勝手に納得しようとした。


「……驚き方までサムとよく似ていますね」


 間の抜けた顔をする姉に、リーゼは苦笑している。

 ウルは、大きな戸惑いを抱きながら、やはり耳に問題ないと思い直し、妹に逆に尋ねた。


「いや、そんなこと言っている場合じゃなくてさ、私がサムと結婚? なんで?」

「なぜ、と言われましても……そもそもサムとお姉様は相思相愛だったではないですか」

「えーと、うん、まあ、それはそうなんだけどさ」


 ウルは、どうしても歯切れの悪い返事をしてしまった。


「大きなお世話であることを承知していますが、お姉様とサムに幸せになって欲しいのです」

「……リーゼ」

「私たちは、サムのことを心から愛しています。ですから、サムに幸せになって欲しい。そして、お姉様のこともとても大事なのです。奇跡的に再会できたのです、ならば、おふたりに――」


 妹たちの気持ちにウルは痛いほど感謝した。

 した上で、はっきりと告げるべきことを告げた。



「――ありがとう。だけど、断らせてもらうよ」



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