25「姉妹の会話です」②
「ど、どうしてですか!?」
ウルの返答を受け、思わずリーゼが立ち上がってしまった。
「落ち着くんだ、リーゼ。ほら、座れって」
姉の言葉に妹が従うのを確認してから、ウルは改めて告げる。
「お前たちの気持ちには感謝しているよ。だけどね、もう私の気持ちには決着がついている。本来、あり得ない再会だったが、またサムに会えただけでいいんだ。それ以上を望むつもりはない」
「しかし!」
「――それに、サムと結婚したら未練が残って逝き辛くなる」
「っ、それは」
ウルの本心を聞き、リーゼは言葉を失った。
「ありがとう。姉思いの妹を持てて、私は幸せだよ」
「……それでも、私は、サムとお姉様に思い出を作って差し上げたいのです」
「かわいいリーゼ。お前たちの気遣いには感謝しているよ。私も女だ、愛する男と一緒になりたくないわけじゃない」
「ならば」
「だが、サムに傷を作りたくない。私は、死ぬ。それは絶対に避けられない。ならば、あの子を傷つけずに、これからの未来へ、お前たちとの未来へ、笑顔で送り出してやりたいんだ」
「……お姉様」
ウルはサムを今も変わらず愛している。
一度死んだからといって変わるような気持ちではない。
意図せず復活したが、ウルは続きを求めようとしなかった。
その理由は、自分が説明したようにいずれ死が待っているからだ。
しかし、それ以上に、自分の死を乗り越え、新しい愛を見つけたサムの邪魔をしたくなかったのだ。
「ま、これが完全な復活なら話は別だったんだがな。ったく、オルドも中途半端な仕事しやがって。やるなら徹底的にやれって言うんだ。呪術だろうと、禁術だろうと、一度使おうと思った術を不完全なまま使うとか、私には理解できないと言うか、精神的に無理だな」
ウル自身も開発途中の魔法や、未完成のまま終わってしまった魔法がいくつかあるが、それを不完全のまま使おうとは思わない。
魔法だろうと呪術だろうと、術式は完璧だから美しいのだ。
不完全で歪なものは使いたくないし、使用するにもリスクがある。なにより、かっこよくない。
未完成の魔法をそのまま使うということは、自分にはこの続きを作ることができませんでした、妥協しました、と大声で言っているようなものだ。
そんなことは魔法使いとして、耐えられないし、そもそも認めない。
オルドがどのような理由があって、不完全な術を使ったのかはわからないが、理解するつもりもない。
一時的とはいえ、こうして再び生きる実感を与えてくれたことには感謝しているが、魔法使いとしては中途半端なことをしやがってと文句しかなかった。
「まあ、私がその気になったら、サムをお前たちに渡したりなんてしないけどね」
「――っ」
にやり、と笑って見せると、リーゼが息を飲む。
「リーゼは知っているだろう? 私はわがままで独占欲が強いんだ。お前たちのように、みんなで仲良く、なんてできやしない。私なら、絶対にサムを独り占めする。誰にも触らせない」
別に脅かすつもりはない。今更、なにかをするつもりもない。
ただ、ウルはリーゼたちのようにお行儀よくできないし、するつもりもない。
しがらみもなにもかも知ったことではないと、サムに近づく者を自慢の魔法で排除しただろう。
「ウルお姉様らしいですわ」
「だろ?」
「私には真似できません」
「それでいいさ。私は私、リーゼはリーゼだ。ただ、姉として言わせてもらおうかな」
「お聞きします」
「リーゼを含め、お前たちが優しいことは素晴らしいと思う。私には真似できないからね。ただ、その優しさを利用されて、横から誰かにサムを奪われるんじゃないぞ」
「……重々承知しておきます」
ウルとしては、サムに婚約者が複数人いることは気にしていない。
いい男だ、モテるのも理解できる。
ただ、姉として、リーゼたちの良いところに漬け込む人間がいたら困る。
誰もが、自分のように欲しいものがあれば堂々と手に入れようとするわけじゃない。
ときには、口に出せない卑劣なことをする人間だっているのだ。
サムとリーゼたちの幸せを願うからこそ、あえて、脅かすようなことを言ったウルに、妹は頷くも微笑んだ。
「ですが、サムの独り占めはきっと難しいでしょう」
「へえ。どうして?」
「その、はっきりと言うのは恥ずかしいのですが」
「うん?」
「――夜が元気すぎますもの」
不敵な顔をしていたウルだったが、妹の発言に表情が崩れたことを自覚した。
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