23「父と娘の会話です」②




「……竜王と魔王か。そもそも人間が普通に生きていたらまず戦わぬどころか、会うこともない相手だ。聞けば、ナジャリアの民の長でさえ、サムの本来のスキルで一撃だったというではないか」

「はい。サムは本来の力を取り戻しました。現状、万全ではありませんが、回復さえすれば、話に聞いたような遅れを取ることは今後ないでしょう」

「そうか、それは朗報だ」


 ウルは、簡潔ではあるが、サムが自分と別れてから再会するまでのできごとを聞いていた。

 最終的には勝利しているものの、何度か敵対相手に遅れをとったこともあるということも、だ。

 ウルが継承させた魔法や魔力が発展途上のサムに大きな負担をかけていたせいもあるだろうと判断する。

 同時に、サムの甘さのせいもあるだろう。

 あの可愛い弟子は、甘い。いや、優しすぎると言うべきだ。

 だけどそれでいいと思う。ウルもサムの優しさには救われている。

 ならば、その優しさを貫けるように強くあるべきだ。

 そのための魔法と技術は伝えてあるし、今までのサムとは違い、そのすべてを行使できる力もある。


「ただし、今後、魔王や人間以外の種族と戦うとなると、話はまた別になりますね」

「……本当に他の魔王がサムに興味を示すのだろうか?」

「さあ?」

「さあって、お前……」


 呆れた顔をする父に、ウルは肩をすくめて見せた。


「魔王の動向なんて私にはわかりませんよ。まあ、でも、サムならなんとかするでしょう」


 魔王レプシーが言い残したように、他の魔王がサムに興味を示すかどうかなどウルにはわからない。

 だが、不完全に復活したとはいえ、歴史に名を残す魔王を屠った事実は大なり小なりサムとその周囲に影響を与えるだろう。

 その結果、他魔王や他種族がサムと関わるのかどうかと尋ねられたら、可能性は多分にあると思われる。

 しかし、心配はしていない。

 サムは強くなった。これからも強くなるだろう。

 最後まで導くことができないのは心残りではあるが、サムの今までの成長にウルは満足していた。

 今後訪れる苦難も、サムにいい経験になるだろう。

 人生なんて山あり谷ありだ。楽で楽しい苦労もない人生など送っても怠惰になるだけだ。

 たくさんの経験をして、ときには周囲に支えられながら、その度に大きな成長を遂げてほしい。


「……そうあってほしいな」

「変態ですが、ギュンターもいます。それに、私が二度目の死を迎える前に、魔法面と精神面をもう少し鍛えておきますから大丈夫ですよ」

「なんだかんだと言って、ウルはギュンターを信頼しているようだ」

「まあ、変態ですが、実力は認めています。サムの妻になるだとかほざいていたのはウケましたが、まあ、あれはあれでサムとはいい関係なんでしょうね」


 数年ぶりに顔を合わせても変わらぬ変態だったギュンターにある意味感心する。

 そんな変態性に目を瞑れば、頼りになる男だ。

 サムとの相性も悪くはないようだ。

 サムの婚約者たちとも、幼少時から知り合いであるため、気心は知れている。

 いろいろ面倒で危うい男だが、ウルとしてはギュンターに愛弟子を託してもいいと思えるほど、信頼はしている。

 悔しいので、はっきりと口にはするつもりはないが。


「ギュンターを見ているとときどき不安になることもあり、公爵に頭を下げさせるのも申し訳なくなることもあるのだがな」

「あいつ、まだ親が頭を下げてるのか。まったく。あいつとも少々話をしたほうがいいな。まあ、ギュンターの話はいいです。それよりもひとつだけ、お父様にお願いがあったんです」


 いろいろ心配事は残っているが、それらはサムが目覚めてからでも遅くない。

 それだけの時間はまだウルには残されている。

 ただ、ひとつだけ、叶えたいことがあった。


「ウルから願いなど久しいな。できることならなんでもしよう。言ってみなさい」

「では遠慮なく――サムとリーゼたちの結婚を早めてください」



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