13「オルドと戦います」③
下半身が消し飛んだオルドの上半身が宙を舞い、音を立てて落ちた。
臓物と血を撒き散らし、墓所の床に赤黒い血溜まりを広げていく。
「……馬鹿な、ありえない、スキルを封じられなかったのか?」
半身を失い、即死してもおかしくない状況下にもかかわらず、オルドはまだ生きていた。
「いや、スキルを封じたはずだ。なぜ、いや、そもそも、なんだ、それは、そのスキルは、俺の、知る、ものじゃない」
口から血液を吹き出しながら疑問を浮かべるオルドに、サムは応えた。
「俺の本来のスキルさ。あんたは、俺のスキルを封じようとしたのかもしれないけど、封じきれなかったみたいだな」
「そんな、馬鹿な、お前は、これに、賭けたのか?」
「そんなことするわけがないだろ。スキルを封じられない自信があったんだよ。俺は、単に切り裂くことしか能のないスキルを、魔法として昇華した。魔法の斬撃にスキルを乗せてはなったんだ。俺の、スベテヲキリサクモノは魔法だ。封じるなら魔力か魔法を封じるべきだったな」
実際は、サムのスキルとしての「スベテヲキリサクモノ」は封じられこそしなかったが、威力は落とされた。
その証拠に威力が落ちている。
本来なら、こうして会話などする余裕などオルドになく、そもそも体の原型が残っていなかったはずだ。
サムは仮にスキルとして能力を封じられようと、構わず魔法の斬撃だけで戦うつもりだった。
ウルの魔力と自分の本来の魔力を本当の意味で使いこなせるようになったことで、魔法の威力も増している。
その自覚があったからこそ、構わず斬撃を振り抜いたのだ。
(……ウルが俺の魔力を調節してくれなかったらスキルとして封じられていたかもしれない。あんたの敗因はウルを利用しようとしたことだ)
「――くそ、一族の悲願が、我が父の、復活、が」
「諦めろ。というか、下半身を無くしているのに即死していないのが驚きだ」
「俺も体をいじってまともな人間じゃねんだよ」
「だが、直に死ぬ。それは避けられない」
「ああ、そうだ、な。ならば、せめて、我が、悲願、だけで、も」
言葉の途中でオルドが言葉を止めた。
サムが近づくと、目を開けたまま彼が絶命しているのが確認できた。
「これで、終わりか」
ようやくここで肩の力を抜くことができる。
思えば、王都に来てからの戦いのほとんどにナジャリアの民が関わっていた気がする。
「――見事であった、サムよ。実に見事だった」
戦いを見守っていたクライドが、早足で近づいてくる。国王は、サムの肩を抱き、感謝気持ちを示した。
「ありがとうございます」
「そなたの力を疑っていたわけではないが、我が国を長年苦しめていたナジャリアの民の長を……よくぞ、よくぞ倒してくれた。これで、私も先祖に顔向けができる」
「お力になれてよかったです」
今にも涙を流しそうなほど、クライドは喜んでいた。
代々続く墓守としての役目を果たせたので、無理もないだろう。
今後、ナジャリアの民のような敵が新たに現れない限り安心できる。
「うわー、私の魔力分、威力増しましだったな。使いこなせるか?」
続いてウルが興味深そうに声をかけてくる。
彼女はもとよりサムの勝利を疑っていなかったので、この結末に驚いた様子はない。
「ああ、ウルのおかげでよく体に馴染んでいるよ」
「よしよし。これからもっと訓練と経験を重ねるんだ。いずれは、もっと強い魔法に進化するはずだ。精進するように」
「頑張るよ」
ウルが、よくやったとばかりにサムの頭を撫でてくれる。
久しぶりに弟子として師匠に褒められたサムは、つい口元を緩めてしまった。
「さてと、じゃあ」
「わかっているよ、サム、ウルリーケ。国家機密とはいえ、君たちに隠し事をしていた僕を、ふたり掛かりでお仕置きするんだろう。ああ、楽しみだ! 昂るね! さあ、存分にやってくれたまえ!」
「しねーよ!」
師弟揃ってギュンターに蹴りを入れるが、本人は痛みどころか快感を味わっているかのように恍惚とする。
「ああっ、ウルリーケとサムから同時に蹴られるなんて、なんて甘美な!」
「もうやだこいつ!」
「なんていうか、平常運転でびっくりだよ」
肩の力が抜けるのを通り越して、脱力を覚えてしまう。
仮にも、魔王復活の危機だったにもかかわらず、ギュンターの変わらない言動に、心臓が鋼なんじゃないかと思えた。
「あー、なんだ、楽しんでいるところをすまぬが、このまま頼まれてほしいことがあるのだが」
「あ、すみません」
遠慮がちに声をかけてきたクライドに、サムたちは姿勢を正す。
「ナジャリアの民をこのまま滅ぼしたい」
クライドの強い意志を込めた言葉に、サムたちは同意するように頷いた。
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