14「予想外の展開です」
「……そうでしょうね」
「女子供もいるだろうが、捨て置くことはできぬ。彼らが善良な人々であり、ただオルドたちが魔王に取り憑かれていただけならば構わぬが、ナジャリアの民は害悪だ」
「今更、甘いことは言いません。人を食うようなおぞましい奴らにはここで退場してもらいましょう」
サムとしても、ナジャリアの民に情けをかけるつもりは毛頭なかった。
クライドの言うように、女子供もいるが、ナジャリアの民はその生き方そのものが恐ろしい。
仮に、住まいと食事を与えたとしても、彼らが善良な隣人になるかどうか不明であり、可能性に賭けるようなことはできない。
それ以前の問題として、敵対していた一族を無条件で養ってやる必要などないのだ。
生き残っている民に、もし魔王の存在が伝わっていたら後で痛い目を見るのは、他ならぬスカイ王国だ。
ならば、後顧の憂いなく滅ぼしてしまうのが最善だと判断できた。
「異論がないようで安心した。そなたたちにはすまぬが、このままナジャリアの民を排除してくることを命ずる。例外などなく、すべて平等に――」
クライドがサムたちに命令を下しているときだった。
「――っ!?」
魔王の棺から、膨大な魔力が立ち昇った。
「――まさか! ありえぬ! なぜだ!」
クライドが絶叫する。
魔王復活は阻止したはずなのに、なぜだ、とこの場にいるに誰もが疑問を抱いた。
「おいおい、勘弁してくれよ」
尋常ではない魔力の量と、圧迫感に気圧されながら、サムが汗を流した。
魔王と呼ばれるだけはある力を感じる。
(だけど、どうして復活したんだ? オルドが死ぬ間際になにかしたのか? それとも封印に綻びがあったのか? まるでわからない)
オルドの最後の仕業なのか、それとも戦いのせいで魔王に影響を与えてしまったのか、サムには判断できなかった。
わかるのは、魔王が復活するということだ。
ここまで馬鹿げた魔力を放出しておいて、何事もなかったように寝ているとは思えない。で、あれば、実に酷い寝相だ。
「ギュンター! お前が気持ち悪いことばっかり言っているせいで魔王が復活したじゃないか!」
「さすがにそれは冤罪だと声を大にして言わせてもらいたいね!」
「そんなことを言っている場合ではない! ギュンターよ、早く結界を!」
「もうやっています」
「面倒だ、サム。私が許可する、斬り裂け!」
「――はい!」
ウルの言葉にサムは迷わず従った。
わざわざ魔王の復活を丁寧に待ってやる必要はない。
不意打ちだろうと、なんだろうと、倒してしまえばいいのだ。
大きく地面を蹴ったサムは、爆発的に魔力を限界まで高めると後先のことを考えずに、渾身の一撃を放った。
「――スベテヲキリサクモノ」
縦一閃に放たれた斬撃は、棺と共に地面さえも両断した。
だが、魔力は収まらない。
それどころか、より魔力の高まりを感じていく。
「おっと、これはまさかの魔王復活か。スカイ王国が秘密裏に封じていた魔王が現代に解き放たれるとか、心が踊るだろ!」
こんなときでもウルの声は弾んでいた。
不謹慎ではあるが、彼女らしい。
絶望的な顔をしているクライドと違い、ウルは本当に楽しそうだ。
間違いなく、彼女は魔王と戦うつもりなのだろう。
そして、それはサムも同じだ。
サムが斬り裂いた棺の中から、ゆっくりと人型の何かが這い出してきた。
最初に現れたのは、漆黒の下半身だった。
細身の人のようだが、狼のような黒い体毛に覆われている。
上半身がないのは、サムが斬り裂いたからだろうが、この状況下で生きているのはさすが魔王と言うべきなのか。
(渾身の一撃で死ななかったのは痛いな。両断はできているから、まるっきり攻撃が通らないわけじゃないんだろうけど、さて困った)
なにか手立てがないかと考えている間にも、棺から上半身が浮かび上がり、下半身と融合した。
不愉快な肉音を立てて、両断されていたのが嘘だった可能ように、ひとつになった。
「――おはよう、諸君」
人型でありながら、全身漆黒の毛に覆われた細身の体躯を持ち、蝙蝠のような翼を一対、耳まで裂けた口には鋭い牙を並べた異形は、流暢な人語を放った。
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