54「ナジャリアの民との戦いです」②
「なに、を、した」
体を動かそうとするも、ピクリともしない。
まるで四肢が石になってしまったような錯覚を受ける。
目だけを動かし、アナンを睨む。
「一回きりしか使えないからもったいないんだがな。てめぇを倒すのには苦労しそうだが、楽させてもらうぜ」
「俺に、なにを、した?」
「今使ったのは、制止の魔眼だ。文字どおり、対象を制止させることができるんだぜ、いいだろこれ。魔眼っていうのはコレクションにするのもいいんだけどよ、こうやって道具として使うことができるのもいいよなぁ」
サムは内心舌打ちをした。
まさか保持者から取り出した魔眼にそんな使い方があることなどしらなかった。
(――この野郎、ただのパワー馬鹿かと思っていたのに、搦手を使うなんて)
なんとかしようとするも、どれだけ魔力を高めても動けない。
このままだとまずい――と、考えたサムの予想は当たった。
「じゃあ、なんだ、へへへ――いただきます」
サムに近づいたアナンは、嬉しそうに大きな口を開けて、左肩に噛み付いた。
「がぁああああああああああああああああああああああああっ」
サムの絶叫が上がる。
肉が食いちぎられて、血が溢れた。
アナンは口周りを真っ赤に染めながら、美味そうにサムの肉を咀嚼し、血を啜った。
「ぷはーっ、おいおい! 肉も血も魔力がこれでもかと宿っていて絶品だ! 今まで食ってきた中でも、最上級のごちそうじゃねえか」
「……そりゃ、どうも……体が動いたら、絶対に、殺してやる」
体を人間に食われるという体験は初めてのことだった。
あまりにも不快でおぞましい。
恍惚の表情を浮かべて、美味そうに血肉を飲み込むアナンを、とてもじゃないが同じ人間だとあ思えなかった。
「おお怖い怖い。じゃあ、もう少し味っとくかな」
次に、アナンはサムの二の腕にかじりついた。
肉がえぐられ、大量の出血をする。
ぐちゃぐちゃと咀嚼音を立てるアナンをどうにかしたくて、体を動かそうとするが、制止の魔眼の効果はまだあるようで、まったく体が動いてくれなかった。
(やばい……このままだと食い殺される)
もがいている間に、さらに噛みつかれた。
「あああああああああああああああああああああああっ!」
不快感と激痛が襲いかかり、サムが絶叫をあげる。
サムの悲鳴を食事のスパイスだとばかりにアナンはうっとりと聞き入っている。
「……殺してやる」
「いいぜ、そうだ、てめぇのそのギラギラした目を見ながら食うのがたまらねぇ。今までの人間は、どいつもこいつもちょっと齧っただけで、泣いたり喚いたりとつまらなかった。だけど、お前は最高だよ、サミュエルぅ」
笑顔を浮かべ、またしてもアナンが、もう片方の肩に食らいついた。
歯が深く突き立てられ、鮮血が溢れアナンの口周りを汚す。
じゅるじゅる、と耳障りな音を立てて、血を吸われる感覚は不愉快極まりない。
そして、アナンの歯がサムの肩の肉を抉った。
「があああああああああああああああああああああああっ!?」
無抵抗のまま食われる痛みに、サムはたまらず絶叫をあげた。
「――サム様!」
その時、聞き覚えのある声が、サムの名を呼んだ。
意識が飛びそうな痛みに耐えながら、目だけ動かすと、リングの外に顔を蒼白にしたステラがいた。
「どう、して」
彼女だけではない。よく見れば、クライド国王、ヴァイク国王、霧島薫子などが近衛兵とともに集まっている。
おそらくこの騒ぎを聞きつけやってきてしまったのだろう。
誰もが、体を食われているサムの姿を見て絶句している。
「おいおい、マナーがなってねえな。人様の食事を覗くんじゃねえよ。恥ずかしいじゃねえか」
どこまで本気で言っているのか、アナンが眉を潜めてそんな馬鹿げたことを口にした。
そんなアナンに対し、一歩前に出たのはクライドだった。
「ナジャリアの民よ」
「お、おお、王様じゃねえか!」
「サムを、我が甥を返してもらおうか」
「はぁ? なんだ、サミュエルぅ、お前って王族だったのかよ」
血に染まった口周りを袖で拭いながら、意外だと言わんばかりにアナンがサムの顔を除いた。
「ナジャリアの民よ。そなたたちは何がしたい? スカイ王国を敵視し、こうして乗り込んでくるとはあまりにも大胆不敵である。宣戦布告と受け取っても構わないのだな?」
「なにを寝ぼけたことを言いやがる。俺たちは、とうの昔から敵対関係じゃねえかよ!」
クライドの問いかけに、アナンは歪んだ笑みを浮かべた。
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