36「交流試合の始まりです」②
サムとウォーカー伯爵家の面々は、王宮に用意された試合会場に足を運んでいた。
そこは以前、サムがスカイ王国最強の座を賭けてアルバート・フレイジュと戦った場所でもあった。
王族や来賓たちのために観覧席から、貴族やその家族、王宮に出入りできる者たちのための観客席まで揃っている。
それらを厳重に守るのは、ギュンター・イグナーツ宮廷魔法使いの強固な結界だ。そして、万が一に備えて、宮廷魔法使い第一席の紫・木蓮とオークニー王国聖女の霧島薫子が控えていた。
ジョナサンとグレイスは観客席へ移動し、サムたちは選手の控室に向かった。
王族として観覧席にいるステラ以外の婚約者が、いつものように一緒だった。
「よう、サム。面倒なことになっちまったな」
「デライト様」
軽く手をあげてサムに声をかけたのは、宮廷魔法使いに復帰したばかりのデライト・シナトラだった。
彼の隣には、娘のフランチェスカ・シナトラもいる。
「こんにちは、サムくん。まさかアリシア様たちまで御前試合に参加するとは思わなかったけど……花蓮様や水樹様なら問題無いでしょうね。リーゼの面倒は私が見ているから心配しないで」
「リーゼ様をよろしくお願いします」
「ええ、任せて」
「ちょっと、フラン。私は別に面倒を見てもらわなくても平気よ」
「一応よ、身重なんですから、心配されておきなさい」
相変わらず友人関係であるリーゼとフランは気安い。
フランは、花蓮と水樹に挨拶をした。
「以前、何度かお話しさせていただきましたね」
「覚えてる」
「うん、フランチェスカ様だったね。僕も覚えているよ」
「どうぞ、フランとお呼びください。その方が気が楽です」
「わたしも花蓮でいい」
「僕も水樹って呼んでほしいかな。あと、もっとサムとリーゼに接するみたいに気軽でいいよ。僕たちもそうさせてもらうから」
「あら、ではそうさせてもらうわ」
挨拶を交えつつ、交流を深めようとするフランたちに気を使い、サムとデライトは距離を置いた。
いつだって女性陣の邪魔をしないのが賢明なのだ。
「それにしても、サムが勇者と戦うことになるとはな。昨日の一件の時は席を外していてな。俺もあとで聞いたんだが、向こうの勇者はなかなか面倒な奴らしいじゃねえか」
「問題ありません。さくっと殺しますから」
「いや、アルバートの野郎と戦ったときとは違うんだから殺すなよ。おい、マジだぞ!」
「あはははは、わかってますって。死んだ方がマシだったって思わせればいいんですよね」
「……ったく、この野郎は。まあ、婚約者がちょっかいかけられたんだから、お前の怒りがわからないわけじゃないがな」
「ご理解いただけてなによりです」
「ま、俺としては復帰戦で向こうの勇者に勝ちたかったんだが、それは譲ってやるよ。俺の対戦相手はオークニー王国の元最強の魔法使いだ。同じ元最強として相手にはちょうどいいだろうな」
いつもののらりくらりした様子のデライトであるが、彼の瞳を見れば闘志を燃やしていることがすぐにわかった。
彼としては、宮廷魔法使いに復帰して最初の戦いだ。
たとえ、交流試合だからといって敗北はありえないのだろう。
「負けないでくださいよ」
「――はっ、誰に言ってんだ。アルバートの野郎には遅れを取っちまったが、今の俺はかつての俺じゃねえ。俺がどのくらい強くなったのか、しっかり見ておけよ」
「楽しみにしています」
「おうよ。ウルの師匠としてみっともねえ姿は二度と晒さねえ。約束するぜ」
そう言って不敵に笑ったデライトは、宮廷魔法使いのみに使用を許された青いコートを翻すと、第一試合に臨むべくリングに向かっていった。
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