いずれ最強に至る転生魔法使い 〜異世界に転生したけど剣の才能がないから家を追い出されてしまいました。でも魔法の才能と素晴らしい師匠に出会えたので魔法使いの頂点を目指すことにします〜
37「竜たちがウォーカー伯爵家に来ました」②
37「竜たちがウォーカー伯爵家に来ました」②
アリシアが竜と会話できるという驚きはあったものの、その後、灼熱竜一家は、ウォーカー伯爵家の一番大きな客室に通された。
最初は外で構わないと言った灼熱竜だが、まさか国王様から預かった客人を外に出しておくわけにもいかず、サムをはじめ、伯爵家総出で屋敷の中に入ってくれとお願いした。
結果、灼熱竜もサムたちの説得に頷いてくれた。
幸いなことに、灼熱竜は人型であり、子竜たちも一メールほどなので、屋敷の中を苦もなく移動できる。
「まあまあ、子竜さんの乗り心地は素敵ですわ!」
子竜の一体がアリシアを背に乗せて移動していたが、サムもいい加減驚き疲れていたので、見て見ぬふりをした。
普段大人しく気の弱いアリシアが、伯爵家の中で一番度胸があることがわかった一日となった。
戦闘能力が皆無の彼女が天災扱いされる竜と親しくできるのは一種の才能だと思うと同時に、優しい彼女らしいと感心させられた。
アリシアは気づけば母竜とも親しげに接しており、灼熱竜もそれをよしとして受け入れていた。
竜たちは、汚れていることからアリシアに案内されて浴室へ向かうこととなった。
「わたくしの洋服をお貸しいたしますわ。きっと灼熱竜様にもお似合いですわ」
「う、うむ。人の衣類に袖を通したことはないが、興味深い。いろいろ世話になる」
そんなやりとりをしながら、楽しそうに会話が弾んでいた。
伯爵家の浴室は大きいので、子竜たちと一緒に入っても問題はない。
灼熱竜一家をアリシアに任せることにして、サムたちは疲れた心身を休ませることにしたのだった。
「……アリシア様には驚きましたね」
「ええ、とっても。我が妹ながら、竜に臆することなく接することができるなんて、驚きを通り越して感心したわ」
サムたちは、食堂でお茶を飲みながら一息ついていた。
リーゼが妹の度胸に感心しながら、ティーカップに口をつける。
「まさか引っ込み思案のアリシアにあのような才能があったとは、父親として見抜くことができず恥ずかしい」
「あなた、そう気を落とさないでください。わたくしだってアリシアを引っ込み思案の娘だとばかり思っていました」
少し落ち込み気味なのはジョナサンとグレイスだった。
親として、娘の本質を見抜けなかったことに少なからずショックを受けているようだ。
だが、無理もないと思う。誰が、竜と会話ができると思うだろうか。
予想もしていなかったのは、リーゼやエリカだって同じだ。
「アリシアは昔から竜が好きだったわね。よく物語を読んでいたもの」
「だからって、本物相手に物怖じないのもすごいけどね。あたしなんて漏らすかと思ったわ!」
「こら、エリカはしたないわよ!」
「リーゼお姉様だって驚いてたじゃない!」
「驚いたけど、漏らしたりはしていないわ! サムの前で変なこと言わないで!」
「はいはい、ごめんなさい」
人懐っこい子竜でも、その実力は上位のドラゴンに匹敵するという。
戦闘経験のあるリーゼやエリカにしてみたら、恐ろしい脅威が揃ってやって来たように見えたのかもしれない。
「竜を相手にするなんて剣聖様でもできるかしら――いえ、そもそも戦う機会がないわね」
「普通はないわよ!」
「本当にサムはよく戦ったわ。そして無事に帰って来てくれてよかったわ」
「そうね! 竜と戦うなんて言い出したときには驚いたけど、こうして戻って来てくれてほっとしたわよ」
「リーゼ様、エリカ様、ありがとうございます」
姉妹がサムの無事を喜んでくれると、落ち込んでいたジョナサンたちが顔を上げ、サムに笑顔を見せてくれた。
「慌ただしい出来事が続いたが、サム、よく無事に戻って来てくれた。そして、宮廷魔法使いの地位と、最強の座を手に入れたことを、改めてよくやった。おめでとう」
「サムにはハラハラさせられてばかりですが、あなたのことを誇りに思いますわ」
「旦那様、奥様、ありがとうございます!」
褒めてくれるふたりに、サムは嬉しさがこみ上げてきた。
ウルの両親に認められたことに、内心、喜びが隠せない。
「サムのことを強いとわかっていたつもりだったが、まだまだ過小評価していたようだ。すまなかったね」
「いえ、旦那様たちは俺の心配をしてくださっていたんですから、謝罪など必要ありません。むしろ、ご心配おかけしてしまいすみませんでした」
サム自身、伯爵家のみんなが心配してくれていたことは嬉しい。
ジョナサンは過小評価と言ったが、ちゃんと実力をすべて見せていなかったこちらも悪い。
むしろ心配ばかりかけてしまったことを申し訳ないと思う始末だ。
「本来なら、デライトどのたちを呼んで祝賀会でも開きたかったのだが、すまないな」
「いいえ、こんなときですから」
デライト親子は帰宅しているのでこの場にいない。
ギュンターはまるで我が家に戻るようについてこようとしたが、実家の使用人に「いい加減に帰って来てください!」と泣きつかれ、渋々公爵家へ帰った。
三人ともサムの無事と、アルバートへ勝利したことを我がことのように喜んでくれた。
とくにアルバートに屈辱を味合わされたシナトラ親子は、サムに感謝さえしていた。
「しかし、せっかく宮廷魔法使いとなり、最強の座を手に入れたのだから、盛大に祝ってやりたいと思うのだが」
「まあまあ、あなた。後日、改めればいいではないですか」
「そうだな。灼熱竜殿もご招待したいが、人間のあれこれに関わらせていいものか悩むし、かといって放っておくのも問題だしな」
ジョナサンは灼熱竜を気にしているようだ。
(誘えば普通に参加してくれると思うけど、旦那様のおっしゃるように人間の面倒ごとに関わらせるのもよくはないかな)
灼熱竜たちにはのんびり羽を伸ばしてもらいたい。
ジョナサンはいい人だが、他の貴族がそうとも限らない。
竜を利用しようとする人間もいるだろうし、もしかしたらアルバートやゴードン侯爵のように分不相応なことを考える輩もいない保証はない。
竜たちの今後を考えると、必要以上に人間に関わらせるのは心配だった。
それに、祝賀会など開いてもらわずとも、ウルの家族たちに「おめでとう」と言ってもらえただけで十分だった。
それ以上望んでしまえば罰が当たる。
「ところで、あの、旦那様」
「なにかな?」
「実は、国王様にアルバートを倒したことを、よくやった、と言われたのですが、どういうことなんでしょうか?」
「え? 陛下がそんなことを言ったの?」
「どういうこと?」
「いえ、それがまったくわからなくて」
サムの疑問に、ジョナサンは妻と首を傾げる娘たちを一瞥すると、頷いた。
「……サムやお前たちになら言っても構わないだろう。アルバートが貴族派の人間だったことは知っているな?」
「はい。以前、お聞きしました」
「王族派と敵対しているのはもちろんだが、今回のように裏では好き放題していた。これらを陛下はお止めしたかったのだよ」
「えっと」
「奴らが大きな顔ができていたのは王国最強の戦力を持っていたからだ。だが、それを失った以上、しばらくはなにもできまい。それに」
「それに?」
「灼熱竜の子供たちを攫った一件に関わっていた人間は厳しく処罰されるだろう。陛下も敵対派閥の人間に情けなどかけないはずだ」
「どうなるんでしょうか?」
貴族とは実に面倒だ。
そんなことを内心思いながら、サムが問う。
「首謀者、主要関係者は死刑は逃れられまい。この国を滅ぼしかけた原因を作ったのだ。誰がなんと言おうと抗えまい。家も取り潰されるだろうな」
「うわぁ」
「アルバートが伯爵だったのは知っているかな?」
「いいえ。あいつ、伯爵だったんですか?」
あんな品のない男が爵位を持っていたのも驚きだ。実に似合わない。
「宮廷魔法使いは、皆伯爵家の爵位を与えられる。アルバートはもともと子爵家の出だが、実家もアルバートが死んでいる以上、責任を取らされるだろう」
「あらら」
「自業自得よ! デライト様を馬鹿にしていただけでは飽き足らず、フランにまで言い寄っていたんですから!」
「いい気味だわ!」
アルバートの実家が亡き息子の責任を取らされるということに、リーゼもエリカも当然だと鼻息を荒くする。
特にリーゼは、友人がアルバートに迷惑をかけられていたので、その気持ちはより強いようだ。
サムとしても、デライトとフランに散々嫌がらせしたアルバートの血筋がすべて潰えてくれれば安心する。
下手に残って逆恨みなどされては面倒だった。
「サムの今後については陛下から直々に通達が来るだろう。そこで聞いておきたいのだが……」
「はい。なんでしょうか?」
ジョナサンは少し躊躇いがちに、サムに尋ねた。
「サムの家名はシャイトのままでいいのか?」
「えっと、とくに変える予定はありませんが、どうしてですか?」
質問の意図がわからず、サムは首を傾げる。
よく見れば、ジョナサンだけではなく、グレイスも心配そうにサムを見ている。
(なにかシャイトだとまずいのかな? せっかくウルにもらった家名だし、気に入っているんだけど)
「君が実家で不遇な環境に置かれていたことは知っている。だが、君は本来、サミュエル・ラインバッハという人間だ。爵位を与えられる以上、家名は残る。その、なんだ、その家名をシャイトのままでいいのだろうか?」
「いえ、俺はもうラインバッハではありません」
「……そうか」
「旦那様と奥様がご迷惑でなければ、これからも俺はサミュエル・シャイトでいたいと思っています。爵位をいただき、家名としてウルの魔法名がいつまでも残るなら、こんなに嬉しいことはありません」
サムの素直な返答を聞いたウォーカー夫婦は、深々と頭を下げて感謝の言葉を口にしたのだ。
「――ありがとう」
その言葉にどれだけの感情が込められているのか、親ではないサムには想像しきれない。
だが、サムはサムなりに、ウルの残してくれたものをこの世界に残したかった。
両親の許可を得たことに、ほっとするのだった。
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