第二章

1「ウルの師匠の話を聞きました」①




「旦那様も俺のことを宮廷魔法使いに推薦してくださるのですか?」


 ギュンターとの戦いが終わると、ジョナサンに呼ばれて彼の執務室にサムはいた。

 この場には、リーゼとエリカもいる。

 ギュンターだけが治療薬で傷を癒すと、人様の屋敷を、まるで自分の屋敷だといわんばかりに遠慮なく浴室に向かってしまった。

 聞けば、ギュンターの私物はこの屋敷に常に置いてあるらしい。

 それだけ彼が普段から出入りしているのだろう。


「サムの実力はこの目で見せてもらった。あのギュンターの結界を破壊できるほどの攻撃力を持つ魔法使いは、ウルの他に知らない。少なくとも私よりも実力が上であることは間違いない。ならば、宮廷魔法使いへの推薦を喜んでさせてもらうよ」

「ありがとうございます」


 願ってもいない展開に、サムは驚きながらも顔を輝かせた。

 リーゼとエリカも笑顔で「おめでとう」と言ってくれた。

 まだ宮廷魔法使いになれるわけではないが、目的に向かって一歩進めたことは素直に嬉しい。

 そんなサムに、ジョナサンが頭を下げた。


「旦那様?」

「サムのことを過小評価していた。すまなかった」

「ちょ、ちょっとお顔をあげてください!」

「私は、君が強いことはなんとなくわかっていた。娘の愛弟子であり、娘の残した手紙から君の実力を知ったつもりになっていた。だが、実際は、私の想像を超える強さを持っていた。自分の目が節穴だったと思い知らされたよ」


 ジョナサンの謝罪の理由がわかった。

 しかし、そんなことでサムは目くじらを立てたりしない。

 むしろ、普通の反応だと思う。


「いいえ、俺が未熟であることは俺自身がよくわかっています。謝らないでください」

「しかし、私は娘が大切にしていた弟子である君を……これでは娘に申し訳が立たん」

「旦那様……とにかくお顔をあげてください」


 サムの声に、ジョナサンは渋々従ってくれた。

 ほっと一安心だ。

 目上の方に、いつまでも頭を下げさせておくわけにはいかない。


「サムが年齢不相応の実力を持っていることはわかっていたつもりだったが、まさかここまでとは……いずれ宮廷魔法使いに推薦する日が来るかもしれないと思っていた。しかし、まさかすでに十分な実力を持っていたとは思いもしなかった。喜んで君のことを推薦させてもらう」


 王立魔法軍副隊長の推薦を貰えることはありがたい。

 なによりも、ウルの父に認めてもらえたことが嬉しかった。


「感謝します。しかし、すでにギュンターが推薦してくれるとのことですが。そちらはどうしましょう?」

「ギュンターと私の連名という形になる。だが、もう一声欲しい」

「もう一声、ですか?」

「推薦する声は多いに越したことはないのだよ。君の場合は年齢が問題になる。無論、あのギュンターに匹敵する力を持っているのだから、実力的には申し分ないのだけどね。邪魔をする輩はいつだっているのさ。とはいえ、最終的に決断するのは国王陛下だ」


 一番の難関は、国王に認められることだろう。

 さて、どうしたものかとサムは考える。

 雲の上の人に会うことすら想像もできないのに、認めてもらうことなど思い浮かばなかった。


「そこでサムに紹介したい方がいる」

「俺に、ですか?」

「デライト・シナトラ殿だ。彼ならサムを推薦してくれるだろう。そして国王陛下の覚えもいい。推薦者としては悪くない」

「デライト・シナトラ様ですか?」


 聞いたことのない名だった。


「その方はいったい?」

「ウルの師匠であり、元宮廷魔法使い第二席だった方だ。さらに言えば、かつては王国最強の魔法使いと呼ばれていた」



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