いずれ最強に至る転生魔法使い 〜異世界に転生したけど剣の才能がないから家を追い出されてしまいました。でも魔法の才能と素晴らしい師匠に出会えたので魔法使いの頂点を目指すことにします〜
39「その頃、ラインバッハ男爵家では(ダフネ視点)」①
39「その頃、ラインバッハ男爵家では(ダフネ視点)」①
「サムぼっちゃまは、今頃どうしているのでしょうか?」
ラインバッハ男爵家でメイド長を務める女性ダフネは、使用人の休憩室でお茶を飲みながら最愛の少年を想い憂いていた。
我が子のようにかわいがったサムが屋敷を出て行ってから、もうすぐ五年の歳月が経とうとしていた。
当時、大問題になったことが懐かしい。
当主であるカリウス・ラインバッハは、サムに男爵家を継がせない代わりに縁のある子爵家に婿に出す予定だったのだ。
それが、次期当主に選ばれたマニオンの独断でサムを追い出してしまうという暴挙。
これにはカリウスも、マニオンの顔が腫れ上がるほど殴りつけて怒りを露わにした。
カリウスからしてみれば、ただの次期当主でしかないマニオンにサムを追い出す権限はない。
才能なしとはいえ、サムの人柄は弟のマニオンと比べるまでもなくよかった。
もともと先方の子爵の娘を嫁にしたかったカリウスだったが、相手があまりにもマニオンを嫌がったため、サムを婿に送り出すことにした。
しかし、サムの突然の出奔のため、カリウスは先方に頭を下げる結果となってしまった。
相手方の令嬢はサムをとても気に入っていたため、揉めに揉めた。
息子たちの管理もできない不出来な父親として、縁のある貴族たちに悪い意味で名を広めてしまった。
この怒りは当然マニオンに向けられた。
マニオンは謝罪こそしたが、「無能を家に置いておくのが嫌だった」と言って譲らない。
それがまたカリウスの怒りを招いた。
さらに、男爵家夫人のヨランダがマニオンを庇い、行為を正当化するため、夫婦関係が険悪となった。
それから現在まで、夫婦仲は改善していない。
「それにしても、この家の人間たちは本当に愚かですね」
五年前を思い出し、ダフネは嘆息した。
カリウスが怒り狂おうと、サムが帰ってくるはずもなく、結局ラインバッハ家はサムを事故で死んだと発表した。
少なくとも、父親の管理不足と、兄弟の確執で追い出されたとはしたくなかったようだ。
以後、サムの名を出すことを屋敷では禁じられている。
しかし、ダフネたちや、ラインバッハ男爵領の人々はそんな命令に従うつもりはない。
なぜなら、ダフネには冒険者ギルドを経由して手紙が定期的に届くし、町にも時折冒険者として稼いだ金が送られてくることもあった。
出奔した後も、ダフネたちを気にかけているサムを、みんなが死んだことにするはずがないのだ。
「最近は、またぼっちゃまからの手紙が止まってしまいました。いったいどこでなにをしているのやら」
定期的に届いていた手紙が止まってそろそろ一ヶ月が経とうとしていた。
以前の手紙で、サムには魔法の才能があり、すぐれた師匠と出会い、順風満帆な日々を送っていることは知っている。
ダフネは最低でも月に一度届く手紙を楽しみにしていたのだ。
「以前にも手紙が止まったことがありましたね。確か、東の、日の国へ行っていたときですね」
冒険者ギルドがない国に滞在していたので手紙が届かなかったこともあるので、心配はしていない。
ギルドからサムが相当強い魔法使いだということを知らされている。
倒したモンスターから、悪党まで、懸賞金を相当稼いだそうだ。
「まったく、ラインバッハ男爵家も惜しい方を手放しましたね」
使用人はもちろん、町の人たちでさえ、同じことを思っている。
魔法使いは希少だ。
サムのような実力を持つ魔法使いなど、さらに数が少ない。
簡単な魔法を使えるというだけで、ひとつのステータスとして大きい。
平民なら貴族に家人として好待遇で迎えられるし、貴族なら多くの家から縁談が舞い込むだろう。
カリウスは剣だけにしか価値を見出せない人間だが、他の貴族は違う。
性格が悪すぎて婚約者から婚約解消を願われているマニオンとは違い、サムがいれば引く手数多だっただろう。
死んだことになっているサムだが、貴族たちも馬鹿ではないのでそんな嘘を信じていない。
さらに言えば、魔法使いとして成功したサムと縁を繋ぎたくて、秘密裏にどこにいるのか教えてくれないかという申し出まである始末だ。
要は、死んだことになっているなら、取り込んでも構わないと考えて動いている貴族がいるのだ。
当主カリウスはそのことに気付いていないし、ダフネたちが気づかせるつもりはない。
サムがどう返事をするのかはさておき、彼に選択肢が多い方がいい。
下手に、カリウスの耳に入り、くだらないプライドで話が潰されてしまっては困るのだ。
「ダフネ、休憩中にすみませんが、少しいいですか?」
「デリックさん?」
サムに想いを馳せていたダフネに声を掛けたのは、ラインバッハ男爵家の執事デリックだった。
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