28「ウルの家族と会いました」②
サムの無謀とも取ることのできる発言に、ウォーカー夫妻は大きく目を見開いて唖然とした。
「……そ、それは大きな目標だ。しかし、その、難しいのではないかと思う。君には、なにかプランがあるのかね?」
「まず、この国の宮廷魔法使いを目指そうと思っています」
「なるほど。ウルリーケも宮廷魔法使いだった。あの子のいた高みを目指すと言うのかね?」
「はい。ですが、それは通過点です。宮廷魔法使いとなり、この国で一番の魔法使いとなり、次に大陸最強を、そして世界最強を目指します」
「そ、それは壮大だ」
「師匠が残してくれた魔法を継承する身として、このくらいはすべきことだと思っています」
亡き師匠と再会したときに、「よくやった」と褒めてもらえるように、サムはウルをも超える魔法使いを目指すことにした。
無理だ、とは考えない。
最初から高い目標であることはわかりきっている。
ならば、マイナスなことを考えず、常に前向きに歩んでいくだけだ。
だが、ウォーカー夫妻には誇大妄想に聞こえたかもしれない。
ふたりとも戸惑いが強く見られている。
サムは咳払いをすると、
「とりあえず宮廷魔法使いを目指すので、しばらく王都に滞在するとお考えください」
本心はともかく、ふたりの理解の許容範囲内のことを言っておくことにした。
「君の目的はともかく、しばらく王都を拠点として滞在するということでいいのかね?」
「はい」
「ならば、王都にいる間は、この屋敷で生活するといい」
「よろしいのですか? ご迷惑になるのでは?」
今度はサムが戸惑う番だった。
いくらウルの弟子とはいえ、見ず知らずの子供を気にかけてもらえるとは思いもしなかった。
ウォーカー夫人がサムに微笑む。
「実は、娘からサム殿のことを頼むとお願いされているのです。どうか、わたくしたちにあなたの面倒を見させてください」
「しかし」
「それにサム殿はまだ成人もしていない子供ではありませんか。そんな子を外に放り出すことはできません」
グレイスははっきりとそう言った。
貴族だから、ウルの弟子だからではなく、良識あるひとりの大人としてまだ子供であるサムを放置することはできなかったのだ。
彼女の優しさを受け、やはりウルの母親だと涙が出そうになった。
ウルも厳しく、傲慢な一面もあったが、根っこは優しかった。
彼女の家族と接するたびに、ウルが恋しくてならない。
「サム殿、ただ施しを受けることに抵抗があるというのなら、我が一族のおかかえ魔法使いになるというのはどうだろうか?」
「俺が、ですか?」
「娘から君の才能と実力は伝えられている。あの子が太鼓判を押すほどの魔法使いであるのなら、他の家に奪われるのも惜しい。どうだろうか?」
「宮廷魔法使いを目指すのであれば、実力はもちろんですが、後ろ盾も必要になります。幸い、我が家は魔法使いの血筋ですし、伯爵位も授かっていますわ。それに夫は国に仕える魔法軍の第一部隊副隊長を務めています。後ろ盾になるにはちょうどいいのではないでしょうか」
ウォーカー夫妻の提案は魅力的だった。
王都に知り合いがいないサムは、今後の行く当てもない。
さらに、宮廷魔法使いを目指すにあたり、ウォーカー伯爵家が後ろ盾になってくれるのはありがたいことだった。
目的に近づきやすくなる。
「もちろん、君の実力を確かめさせてもらわなければならないだろうし、宮廷魔法使いにふさわしい力を示してもらうことになるだろう。どうだろうか、私たちに君の手伝いをさせてもらえないかな?」
「あの、なぜそこまでしてくださるのでしょうか?」
サムのもっともな疑問に、夫婦は顔を見合わせてから、少しだけ悲しげに微笑んだ。
「君がウルリーケの最初で最後の弟子であり、娘の残した頼みが君の力になってあげてほしいというものだった。親として、娘の最期の願いくらい、叶えてやりたいんだ」
ふたりが、本当にウルを心から愛していたのだとわかる。
こんなどこの馬の骨ともわからない子供を、迎え入れるなど、簡単なことではないのだ。
しかし、ウォーカー夫妻は娘が最期に残した言葉と、娘の弟子を受け入れることにした。
おそらく、それが娘への供養になると思っているから。
娘の憂いを取り除き、安らかに眠って欲しいと心から願っているから。
サムは、ウォーカー夫妻の気持ちを察し、そしてウルが最後の最期まで自分のことを気にかけてくれていたことに感謝した。
「お世話になります」
サムは伯爵夫妻に深々と頭を下げたのだった。
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