29「ウルの家族と会いました」③
「そうだ、この屋敷で暮らすのなら娘たちを紹介しておこう」
「ご息女たちですか?」
「そうだ。ウルリーケの妹たちになる」
ウルの妹と言われ、サムに緊張が走った。
彼女たちは、自分のことをどう思うだろうと思う。
姉との最後の時間を奪ってしまった自分に、なにか思うことがないかと不安になる。
「娘たちを呼んでくるように」
「かしこまりました」
ジョナサンが命ずると、部屋の中で立って待機していたメイドのひとりが一礼して出ていく。
「娘たちがくるまでお茶にしよう。客人にもてなしもしていなかったね、すまない」
「いえ、お気になさらないでください」
メイドが紅茶を用意してくれたので、礼を言って喉を潤していると、部屋の外から足音が近づいてくるのがわかった。
短く扉がノックされ、ジョナサンが許可を出すと、メイドに連れられて三人の女性たちが部屋に中に入ってきた。
(――この人たちがウルの妹たち……うん、どことなく、ウルの面影があるかな)
紹介されずともすぐに姉妹だと分かった。
「サム殿、紹介しよう。まず、次女のリーゼロッテだ」
「はじめまして、リーゼロッテよ。リーゼと呼んでね。姉上のこと、ありがとう」
そう言って、優しく微笑んでくれたリーゼロッテは、ブロンドのストレートヘアーをひとつに結ってポニーテールにした快活そうな美人だった。
年齢は二十歳ほどだ。
姉妹たちがスカートを身につけているのに対して、ズボンを履いている。
男装――というわけではないようだが、快活そうなリーゼによく似合っていた。
「次に、三女のアリシアだ」
「あ、あの、アリシアです」
言葉短く挨拶をしたのは、三女のアリシアだった。
サムよりも少し年上に見える彼女は、柔らかな癖のあるブロンドヘアーを伸ばした美少女だった。
少し気の弱そうな印象があるものの、わずかに見せてくれた笑顔は柔らかく、安心感を与えてくれるような人だった。
「すまないね、サム殿。アリシアは少々男性が苦手なのだ」
「いえ、気にしません。よろしくお願いします」
「は、はい」
父親の補足が入り、納得した。
男性が苦手なアリシアだけ、姉妹たちにくらべて一歩サムと距離が開いている。
おそらく、初対面の男性に戸惑いを覚えているのだろう。
「最後に、四女のエリカだ」
「…………」
「エリカ。挨拶をしなさい」
「……あたしはエリカよ。――あんたがウルお姉様の後継者だなんて認めないんだから」
父に言われ、渋々挨拶をしたのは、四女のエリカだった。
亜麻色の髪をショートカットにした勝気な美少女だ。
「おほん。エリカはサム殿のひとつ年上の十五歳だ。魔法も使える。いろいろ話が合えばいいのだが」
「お父様、あたしはこんな奴と話をするつもりなんてないから」
「――エリカ。彼は我が家の大切なお客であり、恩人だぞ。失礼な口をきくな」
「なにを言われても、こんな冴えない男がお姉様の後継者だなんて絶対に認めないから!」
エリカはサムを睨み、そう言い残すと、そのまま退出してしまう。
「ごめんね。エリカはウルお姉様に憧れていたから、弟子として可愛がられていたあなたに嫉妬しているのよ」
末の妹のフォローをしてくれたのはリーゼだった。
大人しい性格のアリシアなどは、どうしていいものかとあたふたしている。
「いえ、お気持ちもわかります」
ウルは素晴らしい魔法使いだった。
家族からも自慢の長女だったのだろう。
そんなウルが、見ず知らずのサムを弟子とし、最期を看取らせて後継者にしたのだ。
おもしろくないと思ってしまうのも無理はない。
むしろ、その通りだ。
まだサムはウルの弟子として後継者としてなにも実績を残していない。
弟子として後継者として認めてもらうのはこれからだろう。
「あまりエリカのことを嫌いにならないであげてね」
「そんな風に思ったりしません」
別に、サムはエリカの態度を悪く思わなかった。
むしろ、機嫌の悪いときのウルを思い出してしまい、つい笑みが浮かんでしまう。
エリカだけではない。
快活そうなリーゼもまた、生き生きと魔法を使うウルの面影を持っていた。
(やっぱり姉妹だな、とてもよく似ている)
ウルは亡くなってしまったが、彼女の全てが消えてしまったわけではない。
彼女の家族たちと出会い、そう思うことができたサムは、少しだけ心が軽くなるのを感じた。
ウルを失った喪失感が、少しだけ癒された気がしたのだった。
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