第11話:転居

 最初転入届を出す時には、カーミラがどう届けられているか心配だった。

 屋敷だけが残っているだけで、住民がいないことになっているかもしれないと恐れていたのだが、ちゃんとカーミラの分の住民票が残っていた。

 しかもカーミラの名前でだ、誰がどんな方法を使ったのだろう。

 今のカーミラの状態を考えれば、本人がやったとはとても思えない。

 苛立つことに、父親の住民票もあの屋敷に残ってやがった。

 表向きあの屋敷はカーミラと父の二人暮らしになっていた。


 気を取り直してカーミラの屋敷のある市町村役場に転入届を出し、直ぐに証明書を発行してもらい、動物愛護相談センター主催の譲渡事前講習会の受講手続きをした。

 カーミラを護るために犬と猫を飼うことにしたのだ。

 いや、言葉を飾るのは止めよう、生活費を稼ぐためでもあるのだ。

 だが都道府県から犬猫を譲渡してもらうには条件がある。


「犬と猫の譲受の条件」

 動物愛護相談センター主催の譲渡事前講習会を受講していること

 その都道府県在住で65歳以下であること

 譲り受けようとする犬や猫の習性、生理等を理解し、終生飼養することができる状況にあること。

 動物を飼養できなくなったときの預け先があること。

 預け先予定者は65歳以下であること。

 飼養環境が集合住宅や借家の場合は、そこが動物の飼養が認めていること。

 家族に動物に対するアレルギーを持つ者がいない事。

 誓約書の内容を遵守できること。


「戻りました、家を解約してきました、今日からここに住ませてもらいます」


 全ての手続きを終えて、俺はカーミラのいる屋敷に戻った。

 役所の手続きを終え、買った食糧を背負って屋敷に辿り着きた頃には日も暮れていて、カーミラが起きている時間になっていた。


「なんじゃ、戻って来たのか、迷惑な奴じゃ。

 まあ、行くところがないのなら仕方がない、わらわの目障りにならぬようにせい」


 悪態をつきながらも、戻ってきた俺を追い出そうとはしない。

 いくら力を失っているとはいえ神祖のヴァンパイアだから、俺くらい片手で簡単に追い出せるだろうに、屋敷に置いてくれるという。

 本当はとても心の優しいヴァンパイアなのだろう。

 地球が害獣認定して滅ぼうとしてる人間の血を飲むのを止めて、人間に殺されるのを待っているというのだから、それも当然だ。


「ありがとうございます、お陰で助かります。

 助かりついでと言っては申し訳ないのですが、このままでは殺処分にされる犬や猫を引きたりたいのですが、許可していただけますでしょうか」

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