第12話:保護犬

「ええええい、勝手な事を申すな、わらわは使い魔は持たんと言ったはずじゃ。

 これ以上勝手な事を申すと、屋敷から出て行ってもらうぞ」


 本当にカーミラは心優しいヴァンパイアだな。

 追い出すではなく、出て行ってもらうと言う事は、自ら力尽くで追い出す気はないと言っているのだからな。

 そんなカーミラの優しさに付け込むようで胸が痛むが、断じて行うしかない。

 使い魔がいるかいないかで、カーミラの安全が天と地ほども違うだろう。

 それに、使い魔がいてくれたら、俺は働かなくてすむ。


「使い魔にしてくださいとは申しません、助けてやりたいだけです。

 単なる普通の番犬として、庭で買いたいだけなんです。

 どうかお願いします、不幸な保護犬を助けさせてください。

 この通りです、お願いします」


 俺は心を込めて真摯に頭を下げてお願いした。

 腹に一物も二物もあるが、保護犬を助けたい気持ちも偽りなくあるのだ。

 だからだろうか、カーミラが折れてくれた。

 本当に心優しいヴァンパイアだ、こんな善良な子を絶対に殺させはしない。


「しかたがないのう、だが絶対に使い魔にはせんからな」


「ありがとうございます、決して無理は申しません」


 四日後、動物愛護相談センター主催の譲渡事前講習会を受講した。

 俺に何かあった時の預け先予定者は、同居のカーミラでもいい事になっていたので、カーミラに書いてもらった委任状と証明書を提出した。

 俺は思惑があって、譲り受けできる中で一番高齢な子か、病気を抱えていて余命の短い子を選んだ。

 本当は全ての子を引き取ってあげたいのだが、実績がないから不可能だった。


 俺が選んだ子は、推定年齢十三歳のおじいちゃん犬だった。

 去勢の済んでいる柴犬で、体重は十キロだった。

 小型の好まれる柴犬の中ではかなり大きい子で、しかも十三歳という高齢では、引き取り手を見つけるのはとても難しいだろう。


 保健所からの引き取りになるので、医療措置は十分されていた。

 マイクロチップは挿入済で、糞便検査にも異常はなかった。

 ノミダニ駆除も狂犬病予防接種も6種混合ワクチン接種も終わっていた。

 

 担当の方の話では、まだ人間に慣れる訓練中のとても強がりなおじいちゃんで、正面に人が立たれるのが苦手なようだ。

 それと急に人間に来られるとびっくりするので、優しくゆっくりと近付いてやって欲しいとお願いされてしまった。

 しかしブラッシングは気持ちよさそうにするので、本当は人間に甘えたいのに、過去の飼われ方が悪かったせいで、素直になれないのだろうとしんみりと言われた。


 更にお願いされたのが、お散歩大好きで、十三歳とは思えない足腰の強さでグイグイ歩き、テンションが上がると全力で走り回るので、気をつけてやって欲しいと言う事だった。

 こんなに可愛いツンデレの老犬なら、カーミラ心を融かしてくれるかもしれない。

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