第9話:覚悟と手紙
「いや、いい、自分で何とかする」
俺は全身全霊で自分の怠け心を抑え、カーミラの好意を断った。
そのまま屋敷を出て、ここに来る時に見かけた自動販売機のあったところまで歩いていき、甘い炭酸飲料を飲んだ。
金がなくて腹が減っている時は、炭酸で胃が膨らんで砂糖でカロリーが補充できる炭酸飲料が一番だ。
貧乏人から見れば、ダイエットのためのゼロカロリー飲料など糞くらえだ。
その場で1本飲んで、2本買って帰った。
屋敷に戻って直ぐにもう1本炭酸飲料を飲み、空腹を紛らわした。
ここは東京近郊とはいえ信じられないくらいど田舎だ。
今でこそ近くにポツポツと家が建っているが、それでも近くには店の一軒もない。
カーミラが人を嫌ったのか、カーミラの守護者が人を嫌ったのか、建築された時にはぽつんとした一軒家だっただろう。
俺は地下室と屋根裏部屋のある三階建ての洋館の部屋を見て回った。
地下はカーミラのための寝室であり墓所でもある。
一階はパーティー用の広間や食堂となっている。
二階三階が家族の部屋であり来客用の部屋でもあるのだが、偽装用だろう。
屋根裏部屋は使用人のための部屋だが、使われた事があるのだろうか。
どの部屋でも自由に使っていいと言われたが、何んとなく三階の玄関の正面にある部屋を選んだ。
建前を言えば、カーミラを護るために見張れる部屋にしたのだ。
だがそれ以前に、何んとなく気に入ったのだ。
だが使うなら色々と見てまわななければいけない。
何より備え付けのベッドの寝心地が大事だった。
次に備え付けの机の座り心地が気になった。
ベッドの寝心地は可もなく不可もなく、他の部屋を利用する必要もない。
机の椅子に座ってみたが、特に違和感はなかった。
何気なく机の引き出しを開けてみたら、手紙が入っていた。
思いっきり嫌な予感がして、このままなかった事にしようかと本気で考えた。
考えはしたが、読まなければいけない事は分かっていた。
カーミラに何度も指摘されたように、俺は父によく似ているのだろう。
この手紙が父から俺に宛てたモノだというのは、嫌でもわかってしまう。
「この手紙は俺から忍に残したものだ。
それ以外のモノが開封して読んだら呪いが発動する。
絶対に勝手に読むんじゃない、分かったな」
父らしいと言うべきなのか、封筒の表裏に同じことが書いてある。
古びた洋館でこんな手紙を見つけたら、開けて読むのはかなり度胸が必要だろう。
それでも読んでしまうのが人間だが、本当に呪いが込められているのだろうか。
俺以外の誰かに読ませて確認してみたいという誘惑に駆られてしまうな。
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