第7話:攻防

「カーミラ、俺を眷族にしてくれ」


「起き抜けに何を言いだすかと思えば、昨日と同じことか。

 昨日きっぱりと断ってであろう、わらわにそんな気はない、諦めよ」


「では競馬場に行って馬を操ってください、お金が必要なんです」


「嫌じゃ、絶対に嫌じゃ、わらわは家から出んぞ」


「カーミラの心臓に突き刺す聖杭を作るのにお金が必要なのです。

 競馬で金が手に入ったら、聖杭で心臓を貫くと約束します。

 だから馬を操って金儲けさせてください」


「……嘘じゃな、金が手に入っても遊びに使うだけじゃ。

 やはり親子じゃな、父親と同じことを言う、もう二度と騙されんぞ。

 お前の父は何度競馬でぼろ儲けさせてやっても、わらわを殺そうとはしなかった」


 あの糞ボケが、俺の信用まで地に落としやがったな。

 確かに俺もカーミラを騙そうとはしたが、それは遊び惚けるためじゃない。

 カーミラを助けるために仕方なく騙そうとしただけだ。

 何より腹が立つのは、考えた金儲けの方法が糞親父と同じだという事だ。

 打ちのめされた気分だが、ここで諦めるわけにはいかない。

 意地を捨てて下手に出てお願いしたのだ、少しは成果を手に入れる。


「どうしても嫌だというのなら、非常手段を取ることになりますよ」


「非常手段だと、何をやる心算じゃ」


「それは言えませんが、必要なら断じて行います。

 俺にだって覚悟というモノもあれば、プライドだってあるんです。

 大嫌いな父と同じだと言われて引き下がるわけにはいきません。

 もう競馬で勝たせてくれとは言いませんが、他の動物は操ってもらいます。

 世の中には可哀想な犬や猫がいるのです。

 殺処分されそうな犬を引き取って、番犬にしてください。

 フクロウやオオタカを操ってください、お願いします」


 俺が強い意志を込めてお願いすると、カーミラが少し考えるそぶりを見せてくれたのは、父親と比較したのを悪いと思ってくれたからだろうか。

 それとも、俺の覚悟が本物だと感じてくれたからだろうか。

 俺だって手首を切る覚悟がないわけではないのだ。

 痛いのが嫌いなのは確かだが、カーミラの命がかかっている以上、やれると思う。

 思うが、できれ別の方法を使いたい。


「……番犬など不要だ、わらわは死ぬ気なのだから、警戒は必要ない。

 わらわの事など忘れて、以前の生活に戻ればよかろう。

 わらわに寄生して働かずに遊び惚けようなど、父親と同じじゃぞ。

 大嫌いな父と同じだと言われたくないという、覚悟とプライドがあると言うのなら、真っ当に働けばよかろう。

 犬やフクロウを使って、働かずに金を儲けようと思っておるのであろう。

 父親と同じ顔をしておるぞ」

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