第6話:資金調達

 ダンピールやクルースニクが相手なら、ニンニクなどの強い香草が苦手のはずだが、カーミラにも害を与えるから使えない。

 聖なる木から作った杭なら、用意するだけならカーミラに害はない。

 ただ目に付く場所に置いておくと、自殺に使う可能性もある。

 今日までそんな事をしていないという事は、本能的に自分に聖杭を打ち込むことができないのかもしれない。


 だが一番の問題はそんな事ではなく、俺に金がないという事だ。

 カーミラではないが、母が死んで以来厭世気分が強くて、派遣でその日暮らしだったから、貯金など全くない。

 聖杭に使うトネリコ、ビャクシン、クロウメモドキ、セイヨウサンザシ、ポプラがどれくらいの値段するのか分からないが、ただで譲ってはくれないだろう。

 それと、派遣に行って日銭を稼ぎたくても、カーミラが襲われるのが心配で家を離れる気になれない。


 カーミラが俺を眷族にしてくれたら、夜の街に働きに出られるのに。

 ラノベやアニメの世界では、夜間に肉体労働をする設定もあったが、俺も夜間の肉体労働をした事があるが、普通は仕事終わりの時間には夜が明けている。

 そう考えれば、ホストも寮に入るのが普通だし、まだ日のある時間に同伴をしなければ稼げないだろう。

 だからといって何の罪もない人間を襲って金品を奪うのも気が進まない。


 吸血鬼の特性を考えれば、馬を操ることができるかもしれない。

 ナイター競馬なら完全に日が暮れた時間のレースだけを買うことも可能だ。

 パドックで全馬に順番通り走るように命令すればいい。

 そうすれば簡単に億単位の金を稼げるだろう。

 俺を眷族にしてもらえないのなら、カーミラを泣き落として協力してもらう手もあるが、無理な話だよな。


 だが、よく考えれば、ラノベやアニメの世界では吸血鬼に吸血衝動はつきものだ。

 コメディ設定では性欲と連動している場合もあるが、普通は血を見たり血の香りを嗅いだ時に我慢できない吸血衝動に襲われたはずだ。

 俺がカーミラの棺を開けて、手首を切ったらどうなるのだろう。

 流れる血をカーミラの顔にかけたら、吸血衝動が我慢できずに俺の血を吸ってくれるだろうか。


 怒ったカーミラに殺されるかな。

 眷族にしてもらえず、全ての血を吸われて死んでしまうかもしれない。

 だがそれでカーミラが元気を取り戻してくれて、厭世気分から抜け出してくれるのなら、覚悟を決めてやる価値はある、と思う。


 問題があるとすれば、俺が痛いのが苦手という事だ。

 自分で手首を切る覚悟があるかと言われれば、昨日までの俺には絶対になかった。

 カーミラに恋した今の俺ならできるかもしれないが、棺の前で逡巡するような恥ずかしい真似だけはしたくない。

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