第5話:戸締り

「まあ、いい、わらわにはどうもいいことじゃ。

 それよりももう直ぐ夜明けの時間じゃ、わらわは眠るから、お前は帰れ」


「戸締りはどうするのですか」


「何時でも誰でも入って来ればよい、よしてわらわを殺せばいいのじゃ。

 だから戸締りなどしていない、分かったら帰るがよい」


「何時誰が入ってもいいのなら、俺がこのままここにいてもいいでしょ。

 寝室に入っても構わないですよね、俺が突発的にカーミラを殺す気になるかもしれませんから」


「……すきにするがよい」


 俺は言われた通り、カーミラの寝室についていった。

 カーミラも今更寝室に入っては駄目だと言えなかったのだろう。

 この古い洋館には、吸血鬼の住処らしい地下室があった。

 ラノベやアニメの世界観通り、土を敷いた棺がカーミラの寝床だった。

 誰かが使っていたのだろうか、他にも十二個の棺が並んでいた。

 カーミラが棺に入って眠ってしまうと、途端に恐怖感に襲われる。

 だが恐怖感を打ち払う愛の力が今の俺にはあるのだ。


「カーミラは鍵をかけないといっていたが、立派な錠前と閂がある」

 

 孤独と暗闇の恐怖に思わず独り言が口を突いて出る。

 俺がこの中にいるなら両方使って戸締りできるけど、外に出るなら錠前だけで戸締りすることになるのだけど、肝心の鍵が見当たらない。

 地下室を必死で探し回って、ようやく壁にかけてある鍵に気がついた。

 直ぐに見つけられない情けなさに頭を抱えたくなったが、そんな時間などない。


「入る時に立派な鎧戸が窓を覆っていると思ったが、全部の窓に鎧戸がついているのか、今でも敵の侵入に使えるくらい丈夫なのか、確認しておくべきだな」


 自分がしなければいけない事を確認するために、あえて口に出してみた。

 決して不安と孤独を紛らわそうとしているわけではない。

 洋館の中と外から、敵の侵入に抵抗できるか確認した。

 カーミラが敵に対応する気がある時に作ったのか、それとも眷族や俺のようにカーミラを愛した者が作ったのが、錆が浮いていたが鉄製の鎧戸は立派なモノだった。

 しかも内側には日光を防ぐための厚くて丈夫なカーテンが吊るされていた。

 玄関や勝手口の扉も、光を一切入れない鉄製の重くて丈夫な物だ。


「相手が普通の人間なら、侵入しようとしても相当時間がかかる。

 その間に警察に連絡すれば大丈夫だとは思うが、問題は国が吸血鬼を退治するように動いている事だが、もしそうならとうにカーミラは殺されていたはずだ。

 国が動いていないなら、相手がダンピールやクルースニクのような超常の力の持ち主でない限り、侵入される心配はないと思う。

 問題は相手が超常のモノの場合だが、そんなモノ相手に鉄の扉が役に立つかな。

 俺を眷族してくれればいいのだが、直ぐには無理なようだし、どうやって超常の敵からカーミラを護るかだが……」

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