第3話:それぞれの決意

「駄目だ、絶対に駄目だ、心臓を杭で打たれるなんて、何があろうと許せない。

 このまま力を失う事は許さない、絶対に血を飲ませてみせる」


 俺は反射的に叫んでしまっていた。

 何も考えずに反射的に話した事などこれが初めてだった。

 いつもなにがしかの計算をして話していた。

 俺は損得利害を抜きにして話した事など一度もなかった。

 金銭的な損得利害だけではなく、性欲を満たしたかったり、虚栄心を満たしたかったりして、何時もなにがしかの計算をして話をしていたのに……


 それに、今も純粋な不安と恐怖で手足がガタガタと震えている。

 カーミラの心臓に聖杭が打たれて、存在が消えてなくなってしまう。

 そう考えただけで、今も叫びだしてしまいそうだ。

 今までの人生で感じた事のない不安と恐怖と喪失感に、身体の震えを抑えられなくて、気がつくと涙まで流している。


「何を震えているのじゃ、わらわとは今日会ったばかりの他人ではないか。

 いや、わらわは吸血鬼だから人という表現はできぬな。

 わらわは人類の敵じゃから、蛇蝎と同じよ。

 抵抗などせぬから、人類のためにわらわを殺すのじゃ。

 わらわ自身がそれを願っておるのじゃから、遠慮することはないぞ」


 あまりの言葉に、怒りと恐怖と絶望感で泣き叫びそうになった。

 いや、言葉を失ったと言った方がいいのかもしれない。

 悲鳴も咆哮も涕泣も俺の口から出てこなかった。

 何かを言わなければいけないと思いながら、ただパクパクと口を開くだけ。

 そんな情けない存在になったが、しばらくしてようやく口を利くことができた。


「今日会ったばかりなんて全く関係ない。

 俺はカーミラに恋をした、それだけだけど、それが全てだ。

 人類の敵であろう関係ない、俺がカーミラを好きな事だけが全てだ。

 国や神を敵に回そうが、俺はカーミラを護り生き続けさせる。

 カーミラが死にたいと思っていても知った事じゃない。

 身勝手と言われようが関係ない、俺がカーミラに生き続けて欲しいと思っている、それだけが大事で、それが全てだ」


 支離滅裂な、まともな会話にもならない身勝手な想いを口にしただけだった。

 だがその言葉を、カーミラは黙って聞いてくれた。

 俺の話をカーミラが聞いてくれた、それだけで天にも昇るような幸せな気持ちになれるのだから、恋の病というモノはどうしようもない重病だ。

 だがそんな恋の病に、アラフォーになってようやく罹患できたことが、人生最大の幸せだと思う。

 恋を知らずに死んでいくくらいなら、恋の辛さ苦しさでのたうち回った方がいい、そう心から思える。


「仕方のない奴じゃのう、だがわらわの気持ちは変わらぬからな。

 敵が来たら抵抗せずに聖杭を胸に受けて消滅するぞ」

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