02話.[変わりませんよ]

 8月26日に始まってもう9月になった。

 で、なにを失敗したというわけでもないのに予想通り人が近づいて来ることもなく、来てくれたのは生駒だけだったというオチだった。

 しかも朝は早く出ないといけないし、帰りは早くに帰らないと山の方なのも関係していてすぐに真っ暗になるというもの。

 やはりいい風になるようなことは上手くは想像できていなかった。


「はぁ……」


 ま、面倒くさいことになるぐらいなら興味を抱かれない方がいいか。

 教室にいなければ自分以外が盛り上がっているところを見なくて済む。


「よう」

「年上としてはこんなところでひとりでいてほしくはないんですけどね」

「しょうがないだろ、あのクラスには馴染めん」


 向こうがあの様子ならひとりで頑張って友達を作ろうとしたところで逆効果になる可能性が高い、いや、それ以外にはならない感じだ。


「ま、この感じでやっていくから大丈夫だ」

「んー……少しは頑張ってほしいんですけどね」

「無茶言うな、登下校だけでかなり大変なんだぞ」


 なのに他で精神ダメージを受けている場合ではない。

 幸い、特に協力してやるみたいなこともないから問題はないだろう。

 この先も適当に合わせて行くのと帰るのに専念するだけ。


「つかお前こそ友達はいないのかよ?」

「友達ならたくさんいますよ」

「お前って煽るなあ……」

「相澤君が友達はいないのかって聞いてきたんじゃないですか……」


 そもそもここに生駒が来て当然なんだ。

 だって生駒の教室の前まで来ているんだから。

 しょうがない、まともに話せる人間はこいつだけだし。


「慣れない高校の年上が学んでいる階に来られるのなら大丈夫ですよ」

「簡単に言ってくれるなよ、話しかけて無視されたら寝込むぞ俺」

「やっぱり相澤君は恐れて動けずにいるぼっちみたいですね」

「ああそうだよ」


 ぼっちでもなんでもいいわ。

 地元の友が陰湿だとか自由に言ってくれていたから想像以上に不安になっていたみたいだ。

 けど、もう物を隠されたりはしなさそうというだけで十分だ、生駒みたいな人間もいてくれることだしな。


「変えようとしなければ変わりませんよ、待っていれば誰かが来てくれるというわけでもありません」

「それはお前の言う通りだ」


 っと、もう予鈴が鳴りやがった。

 礼を言って教室に戻ることにした。

 変えようとしなければ変わらないか。

 地元では頑張って受かった高校に通って、部活をやって、友達もそこそこ多くて、休みの日にはバイトもできるだけ入れて。

 結構充実した毎日を過ごせていたと思う、引っ越すことが判明した7月まではという話ではあるが。

 7月に部活をやめて、部活仲間と交流も少なくなって、友達とも仲を深めたところで離れ離れになるからいる意味がわからなくなり、バイトも同じようにやめるしかなかった。

 で、8月にはこっちの県にやって来て地獄の時間を過ごしたということになるが、こんなんいいイメージを持てなくて当然だ。

 街中の方にだって住める場所や通える高校があるのにあろうことかこんな山の方の学校と家で毎日の登下校だけですっかり疲弊してしまう、それ以外のことに意識を割いている余裕は正直に言ってない。

 9月はまだ暑いし朝から汗だくだしなんだよこれ……。

 本当にまだ地元に放置していってくれた方が気楽だったなと内で呟く。


「はぁ……」


 授業中だろうと関係なしにため息が零れた。

 くそ、家でだって結局ひとりなんだからって何度も考えてしまう。


「相澤」

「はい?」


 先程まで前でぺらぺらと話していた教師がいつの間にか側にいた。

 皆がこちらを見ている、中には迷惑そうな顔をしているやつもいる。

 なるほどな、そういうことかよ。


「大きなため息なんかをついてどうしたんだ?」

「なんでもありません、授業を止めてすみませんでした」

「ま、次からは休み時間まで我慢してくれ」

「はい、気をつけます」


 なんだよ、随分わかりやすく示してくれるじゃねえか。

 裏でこそこそされるよりやりやすくていいな。

 しゃあないから大人しく過ごしてやり過ごそう。

 来年になれば2年に進級してクラスも変わるし問題ない。

 もしなにかしてくるようだったら潰せばいい。

 やられっぱなしでへらへらしていられるような人間じゃないのだ。

 授業が終わったら今度は出ていくようなことはしなかった。

 突っ伏しているとノイズが聞こえてくる。

 他人のひそひそ声ってどうしてここまで不快なんだろうか。

 多分、やつらにとっては口実が欲しかったんだろうな。

 で、先程のあれで少しずつ感情を漏らしているということになるのか?

 

「なあ、言いたいことがあるならはっきり言ってくれないか?」


 立ち上がってそう口にしたらぼろくそに言われて後半本気でいじけて。

 それでも逃げたりはしなかった。

 寧ろはっきり言ってくれたからこそやりやすいのだ。

 物に八つ当たりだけはしたくなかったから攻撃方法が大変だった。

 でもその分、よりクラスでの立ち位置がはっきりして嬉しかった。

 潰される前に潰す、ただそれだけが俺にできる自衛方法だった。




 物を隠すと言うより、机と椅子をどこかにやってしまうという物凄く効率的な方法を実行していた。

 相手に猶予を与えないその早さは正直に言って最強だ。


「相澤くん、机と椅子はどうしたんですか?」

「すみません、来たらありませんでした」


 生徒がここまでわかりやすく事に及べるということは教師もそちら側かもしれない、それかもしくは自分が対象にされることを恐れて嫌だけど協力しているというパターン。

 で、大体の女性教師というのは容認している感じがするというのは、漫画やアニメの見すぎだろうか?

 にしても教室でため息をついたときといい、たったの1回のそれですらこの対応って田舎怖すぎだろ、そりゃ田舎者は陰湿とか言われるわ。

 つか考え事をしてしまったせいでなにを言われたのかわからなかった。

 ただただ当たり前のように授業が始められただけ。

 剛、お前の予想は見事に当たっていたぜ、ふっ。

 床に座ってもなにができるってわけじゃないんだよな。

 だってシャーペンも紙もないんだから。

 席に座っていないから出席していないとか言いそうだし。

 まあいいや、ねえならしょうがない、適当にのんびりしていよう。

 それで授業が終わって休み時間になったらひとりの男子がやって来た。


「相澤、みんなに謝った方がいい」

「いいのかよ、そのみんなが周りにいるんだぜ?」


 こういう立場の人間に話しかけたりしたら対象にされそう。

 だが、クラスメイトはなんにも気にもとめていないような感じだった。


「俺はやつらに言いたいことを全部言わせたぞ」

「それでも相澤は攻撃を仕掛けてきただろ」

「俺はやられっぱなしでいろって? 随分お前らに都合がいいルールだ」


 究極的に自分が追い込まれれば大変な思いをして学校へ行く必要がなくなるかもしれない、それどころか地元に戻る許可を貰えるかもしれない。

 親父は仕事人間だから稼ぎはたくさんある、それこそ息子ひとりを他県でひとり暮らしさせる程度は余裕だろう。

 高校は……まあ定時制とかしかもう可能性はないかもしれないが中卒よりかは遥かにマシ、というかこんなところと比べれば定時制なんて天国みたいな環境ではないだろうか。


「意地を張るな相澤、謝れば席や机だって戻ってくる」

「つかお前は何役なんだよ、みんなに頼まれてやってる実行犯か?」

「実際、俺が隠したからな」


 自分がやっておきながら自分が助けたように見せかけるとはあくどい。


「悪いが謝らないぞ、自由にすればいい」


 不安な点は自力で貯めた貯金額がたった10万ぐらいなことか。

 ……ひとり暮らしとか無理だな、少なくとも2年の夏であればバイトを多く入れることでそこそこ稼げたというのに。

 そういう意味でもタイミングが悪く、こちらのことはなにも考えてくれていないことはよくわかる。

 実の父親でさえこれだ、こいつらがこうなるのは普通だろう。

 奴らはこの状態で無視をするというのが罰と考えたらしい。

 なので放課後まで教室の床に直接座って堂々と乗り越えて。

 鞄の中には意味はないものの携帯が入っているから探し始めた。


「ねえ……」


 探しても見つからねえ。

 鞄の中に自転車の鍵も入っているのが不味い。

 このままだと徒歩での帰宅になるぞ……。


「まだ残っていたんですね」

「近づくな」


 危ねえ、当たり前のように信用していたことに。

 こいつの距離感を怪しんでおくべきだったのだ。

 だというのに飯を作って振る舞ったり……やっちまったな。

 家を知られているということは絶対に面倒くさいことになる。


「なんでですか?」

「お前なにが大丈夫だよ、こうなることがわかっていたんだろうが」

「それは相澤君が悪いんじゃないんですか?」

「俺が悪いでいいから近づくな」


 空き教室は全てしっかりと鍵がかけられており入れない。

 それ以外の場所を端から端まで探しても見つからないまま自分の教室まで戻ってきてしまった形となる、そんなときにこいつが訪れれば敵だと考えるのが自然だろう。


「部活動に所属していない生徒は17時までに帰らなければなりません」


 今回のことがなければきつきつのルールではないようだ。

 授業は16時には終わるから1時間の余裕があると。


「わかった、もう帰る」


 どうせ探したところで見つからない。

 多分、入れない空き教室とかに隠されてるんだろう。

 弁当を作っておいたというわけでもないし放置しても不都合はな――かなりあるが残っても疲れるだけだ、それより歩いて帰らなければならないことの方に意識を向けるべきだろう。


「だりぃ……」


 チャリで飛ばして約45分の行きと、チャリで頑張って1時間半とか当たり前にかかる帰り。

 徒歩で帰ったらどうなるのかなんて簡単に想像できるが、ルールで学校にはいられないんだからしょうがない。


「相澤君、自転車は――」

「うるせえよ、消えろ」


 正直に言って逆ギレだからな、俺が悪いで終わってしまう話だ。

 そうとわかっていても言いたいことを言わせたうえであれだから謝りたくはないのだ、謝るのなら向こうも少しは申し訳無さそうにしてくれてからでしかない。


「持って帰ってください、放置は許可されていませんので」


 これもまた厳しいルールというわけでもないか。

 どうしようもなくて後輪を持ち上げながら帰ることになった。

 自宅へと続く方の道は歩道なんて立派なものがないから普通に怖い。

 しかも重い、中途半端に持ち上げるのが1番腕にくる。

 さらに言えばすぐに暗くなる空、そのくせ飛ばす車。

 真っ暗な林を通ることになるため、想像するだけで最悪だった。

 

「だりぃ!」


 途中きちんと歩道があるところで寝転んだ。

 親父に付いて来たのは間違いだった。

 あの学校を選んだのが父の最大の間違えだ。

 明日休むと決めて、立ち上がって、持ち上げて前へ。

 ここまで来たら後は暗い林を越えるだけでいい。

 風のせいでがさがさ音が鳴るし、変な動物の鳴き声は聞こえてくるし、たまに人とすれ違って心臓が飛び出そうになるし、足を踏み外したら冗談抜きで死亡だしでやばかった。


「あ……」


 馬鹿だった、学校の外で待っていれば良かった。

 携帯や自転車の鍵なんかどうでもいい、自宅の鍵がないじゃないか。

 なんだよこれ……。

 向こうと違ってただ夜に外にいるというだけで男でも怖い場所で。

 親父は○○時に帰ってくるなんて決まっていなくて。

 下手をすれば朝だったり、そのまま帰ってこなかったりする。


「相澤君」

「言うこと聞いただろうが!」


 こんなことなら自転車なんて置いて帰るべきだった。

 つか当たり前のように姉を使ってんじゃねえよ馬鹿。


「これ、探していたんですよね?」

「そんなの探してねえよ」


 こいつに優しくされるぐらいなら外で寝た方がマシだ。


「はぁ、素直じゃないですね、じゃあこれは持って帰ります」

「勝手にしろ、それより2度と顔を見せるなよ」


 まだ9月始めで良かったか。

 親父が帰ってきたら中に入ってゆっくりして。

 そうしたら飯だな、あとは水分補給とか風呂とかそういうの。

 とにかく、車は離れていった。

 玄関前で寝ておけば流石の親父も気づくだろう。

 明日の夜まで帰ってこないということならそこまで寝るしかない。

 残念ながら金もねえしな、家のガラスを割るわけにもいかねえし。

 潰す前に潰されたのは結局こちらの方みたいだ。

 個が集団に勝てるわけがねえのか? 暴力は封印しているからか?

 だからってヤンキーでもあるまいし暴力なんて振るいたくない。

 まあしょうがねえよ、人間だから合う合わないってやつがあったということなんだろうし。

 向こうのことを考えていてもなにも意味がないから寝ることだけに集中したのだった。




「ん……まぶ……」


 初めて外で寝たことになる。

 体を起こすとばきばきで朝から嫌な気分になった。

 親父が帰ってきた感じはなかった。

 仮に帰ってきているのであれば声ぐらいかけているはずだし。


「おはようございます」

「ちっ……守っただろうが俺は」


 陰湿で執拗なんだろうか。

 出ていくまで、完全に削ぐまでやり続けると。


「いやあの……お母さんはいなくてもお父さんがいるという話ではなかったんですか?」

「いるよ、ただ毎日家に帰ってくるというわけじゃないだけだ」


 こんな田舎に越してきて、なにもかも高校生に押し付けるって違うだろうよ。

 まだせめて街の方だったらなんでもするよ、部活を辞めた分バイトにだって時間を多く使えるから。

 けどこっちはそうじゃない。

 登下校に冗談抜きで予想より多い2時間近く使って、娯楽施設どころかコンビニなんかすらないんだからよ。

 なにがいいんだこんなところ。

 唯一いい点ではある景色だって数日見れば飽きるというのに。


「まさか外で寝ているなんて思わなくて……さっきびっくりしましたよ」

「お前が驚こうがどうでもいいわ、さっさと消えろ」


 なるほど、だから性格が悪い人間が多いのか。

 だってそれ以外ではストレスを発散できないからだな。


「もしかして、来ないつもりですか?」

「居場所もねえしな、自業自得とはいえしょうがねえだろ」


 1度休んだ者はもう学校には来れないとかそういうルールねえかな。

 そうしたら遠慮なく休んでやるんだが。

 暇なのは適当に釣りとかして時間をつぶせばいい。


「自分から仕掛けておきながらすぐこれですか」

「そうだよ」

「謝りましょう、そうすればまた普通の学生のように通えます」

「ごめんだね」

「自業自得だって言ったじゃないですか!」


 なんだこいつ、朝から来て自由に言いやがって。

 もし俺がこいつの言うことを受け入れて謝罪をしたらどうなるのか。

 これこそマッチポンプってやつだよな、だからって暴力もできない。


「帰れよ」

「鞄、困っていますよね?」

「好きにしろもう」


 舐めてかかったらあっさりとやられました、机や椅子ごと大切な物を隠されました、本人は弱さを認めるしかできなくて学校へは行けません。

 やつらからすればこの時点で勝ちだろう。

 気に入らない部外者が視界の片隅にでもいなくて済むんだから。


「強がってどうなるんですかっ、お父さんが帰ってこなかったら!?」

「知らねえよ、あの高校に行くくらいなら死んだ方がマシだ」

「死んだ方がマシなんて気軽に言うべきじゃない!」


 こいつはどういう立場の人間なのかわからなくなる。

 俺を責めたいのか、連れていきたいのか、味方をしたいのか、味方をしてから裏切って絶望させたいのか。

 なんかそのどれもが合っているようで、合っていないとも思った。

 目的はなんなんだ、わざわざ近づいて来た理由はなんだ。


「幸い、ここなら死んだって誰にも迷惑をかけねえしな」


 さっさと白骨化にでもなってしまえばなんか崩れて風で散るだろう。

 もちろん死にたくはねえがしょうがない。

 ここで鞄を受け取ってしまえば奴の要求を呑まなくならなきゃなる。


「事件にもなんねえよな、こんなクソ田舎じゃな」


 周りに家なんかもねえし、悪臭の被害も受けないだろうし。

 あ、でも親父があれか、けど関与しているようなもんだしな。

 自分の感情を優先してこんな不便なクソなところを選んでな。


「死ぬ勇気なんかないですよね」

「でもしょうがないだろ、飲み物も飲めねえ、飯も食えねえじゃな」

「素直になればいいじゃないですか!」

「俺は別にそれを探してこいと頼んだわけじゃない」


 大体、17時までに帰るルールじゃなかったのか?

 それともこれも部外者だけに適応されるルールなのか?


「17時までに帰れ、自転車を持って帰れ、どっちも守ったぞ?」

「……だからこそ受け取る資格があるんじゃないですか」

「といってもなあ」


 学校に行ったらまーた隠されましたじゃどうしようもない。

 意地でも謝るつもりなんてないしこれで妥当なんだ。


「いいから学校に行けよ、腹減るからあんまり喋りたくねえんだ」

「それなら僕も残ります」

「勝手にしろ」


 ぼうっと眺めていてもつまんねえ場所だ。

 近くにいたくなかったから適当に歩くことにした。

 あいつらは元気にしているだろうか?

 夏休み中、なんにも連絡がなかったんだよなと思い出す。

 もしかして表面上だけだったのか? いまから考えるとありそうだ。

 というか純粋な疑問として、長く生きてどうすんだ?

 誰か特別な人間を見つけて、結婚して、子どもを産んで、そうやって幸せな家庭を築けている人間ならともかく、ひとりで生きているような人間は働いて後は死ぬだけだぞ。

 趣味があるからいいだとか、結婚が全てではないだとか、そんなことを言っていたって毎日毎日仕事ばかりなんだからさ、生きるために毎日仕事をして死ぬっておかしい気がするんだよな。


「って、誰だよ」

「え?」

「なんでもない」


 こんなこと初めて考えた。

 追い詰められているのか? 結局、マイナス思考してんな。

 面倒くさくなったら終わらせようとするところは昔からだが。

 部活では何度も勝てなくてその度に辞めると言ってきた。

 だが、少し時間が経過すればまたやっているという矛盾ばかりの人生。

 決して部活とかだけではなくて人間関係なんかでもそうだ。


「生駒、お前はなんで生きている?」

「なんでって……それは生んでもらえたからじゃないですか?」

「だから苦労することになろうとも頑張るのか?」

「……少なくとも自分を傷つけようとはしません」


 父は多忙で、母が亡くなっている身としてはなんだかなあと。

 家ではほぼひとりだったし、友達ともほとんど遊べてなかったし。

 学費が払われているからと学校に通って、家に帰ったら家事をして。

 結局のところはそういうルートに小さい頃から入っていたわけだ。


「満足できる死に方をするために頑張るっておかしくないか?」

「ちょっと待ってください、なんでそんなにマイナスな思考なんですか」

「はは、こうなったのはお前らのせいでもあるんだがな」


 これまで気づかなかったことに気づいてしまった。

 嫌なことを我慢し続けた先が死ってやっていられないだろうと。


「安心しろ、自殺する勇気なんてねえから」

「そんなのは勇気とは言いません」

「だな」


 どうせ口先だけだ。

 だけどせめて生駒などに弱音を吐露してしまう前に親父が帰ってきてほしかった、その方がまだダメージは少ないから。

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