2》♣︎謎の荷馬車♣︎

 ここは王都へとつながる街道。


 あれからトウマはパルマの街を出て、北東へとひたすら歩いていた。


(何で今日は、こんなに暑いんだぁ。疲れたし少し休むか)


 そう思い、何処かに休むところはないかと、辺りを見渡しながら探した。


 だが周りには休む場所はなく、色とりどりの草花が生い茂る草原が広がっているだけだった。


(草原で、寝ころぶのもいいけど。この暑さだと、流石に無理だ。それに油断すれば、魔物に襲われかねないしなぁ)


 そうこうしながら歩いていると、荷馬車が止まっているのが見えた。



 この世界の荷馬車は、龍の皮膚を持つ馬の、ドラゴホースが荷車を引いている。



(何で、こんな道の途中に、荷馬車が止まってるんだ?)


 気になり荷馬車の方へと、トウマは向かった。


 側まで来ると、様子がおかしい事に気づき、荷馬車の後方へと、警戒しながら近づいた。


 そして、ものかげに身をひそめ、恐る恐る荷馬車の後方部を覗き見た。


 すると荷馬車の中から、微かに人の気配がし、少し離れたところからは、話し声が聞こえてきた。


(これって……)


 トウマは、荷馬車の中が気になった。だが、勘違いだった時の事を考え、荷馬車の中を覗くのはやめた。


 しかし、どうしても普通とは、何か違うような気がし、トウマは声のする方へと耳を傾けた。


 すると、金色の髪で冒険者風の男性と、銀色の髪で綺麗な女性が、何か話をしていた。


「なぁ、クオレ。本当に、大丈夫なんだろうな?」


「ダイス、ええ。このまま、この街道を下れば、パープリアルの街。そこまで行けば、買い取り屋がいるのよ」


「その買い取り屋ってのは、信用できるのか?」


(パープリアル、買い取り屋?って……それに、コソコソしてるって事は、闇売買。でも何を売ろうとしてるんだ?)


 トウマは2人の話を聞き、疑問に思いながら、荷馬車に視線を向けた。


「クスッ。あたしの、行きつけの店だから、心配ないわ」


「それならいいが。ただ、今回は上物が1匹いる。これで不当に値切られたんじゃ、割りにあわねぇからな」


「確かにね。数百匹に1匹、産まれるかどうかの、希少価値のある、しゃべるうさリスだからねぇ」



 うさリスとは、うさぎのような長い耳と、ふわふわもふもふの毛並み。


 リスのような尻尾と、3本のしま模様が部分的にある、可愛い動物だ。



(うさリス……それも話すのかぁ。可愛いうえに、会話できるって、もふギュッしたい!……あーいや、今はそれどころじゃなかった)


 トウマは妄想をかき消した。


「そろそろ行かないと、パープリアルに着く前に、日が暮れてしまうわ」


「ん?確かにな。さて、行くとするか」


 そう言うと2人は、荷馬車の方に近づいて来た。


 それを見たトウマは、慌てて荷馬車の下に隠れた。


(隠れたはいいけど。どうする?)


 トウマは考え始めた。


(このままだと、動物たちが売られる。かといって、どうやって逃したら……)


 するとダイスが、荷馬車の中を覗き、


「おい、ビス!いつまで寝ているつもりだ」


 そう言うと、ビスは眠たそうに、目をこすりながら、ダイスを見た。


「ふわぁ〜。ん?もう休憩は終わりなのか」


「あのな、お前!見張りが、寝ててどうする」


「ダイス、そうは言っても。滅多に、この街道を通るヤツはいない。だから暇で、つい寝ちゃうんだよなぁ」


 そう言うと、ダイスは呆れ顔になった。


「まぁな。この辺はまだ治安がいい方だ。だが一方、裏では金にものを言わせ、自分の欲の為に……」


 ダイスがその後を言おうとすると、クオレがそれをさえぎり、


「ダイス。それ以上は、やめな!お前も、言わない方が身の為だって事ぐらい、分かっているはずよね」


「確かにな。そのおかげで俺たちは、いい稼ぎが出来るんだからなぁ」


 その話をトウマは聞き、伏せた状態で頭を抱えた。


(この辺は確か、アイツアルベルトの領土だったはず。まさか……でも、アイツならあり得るな)


 トウマは溜息をつき、どうするか模索していた。


(ここで、考えててもしょうがない。動物たちを助けるには、やるしかないよな)


 そう思うとトウマは、微かに笑みを見せた。


 そして、荷馬車の下から、3人の動きを観察した後、トウマは行動に移した。

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