1》♣︎旅立ち♣︎

 ここはアメジスティア。かつてこの世界には争いはなく、人々は平和に暮らしていた。


 だが、邪龍メテオルドラの出現により、世界が闇へと塗り替えられ、人々の間で争いが絶えなくなった。


 それをみかねた神は、今のままでは、人間が滅んでしまうと恐れ考えた。


 神は、邪龍を討伐する為、異世界の勇者を召喚する事が出来る宝石を、5つ作った。


 するとその召喚の宝石を、5ヶ所の土地で、最も邪龍の力に支配されなかった者に授けた。


 クリスティス国、パープリアルの街の貴族、アルテス・ルディが紫の宝石パープルサファイア


 ルビスタの街の貴族、ロイス・ロッタが赤の宝石ルビー


 アクアマリスの街の貴族、ナイル・ラクスが青の宝石アクアマリン


 エルメライルドの街の貴族、ノーマン・リルドが緑の宝石エメラルド


 コハクテルの街の貴族、サーシャ・レイモンドが黄色の宝石コハクを、神から与えられた。


 その者たちは、神からその召喚の宝石の使い方と、召喚方法を聞き、異世界の者を召喚した。


 そして、召喚された異世界の者たちは、勇者と称され、邪龍を討伐するべく、各々旅だった。


 その後、召喚された異世界の者たちは、各自鍛え上げ、協力し合い邪龍に挑んだ。だが、倒す事が出来なかった。


 しかし、このままにしてはおけないと、弱っている所を、岩石の魔法を使い集めると、邪龍を閉じ込め、封印した。


 そして、世界を救った。


 邪龍から、世界を救った異世界の者たちは、勇者から、英雄へと称号が変わった。


 そして、異世界の者たちを召喚した召喚主たちは、王から名誉勲章と多額の金が贈与された。


 その後、召喚主たちの街は栄えていった。だが、召喚された異世界の者たちが、どうなったのかは定かでない。


 ただ言えるのは、神のみが、その事を知っているという事である。




 それから数百年の月日の時が流れ、また邪龍メテオルドラの封印が弱まってきていた。


 その事に気づき、クリスティス国の王は、封印が解ける前に、再び封印をする為、召喚の宝石を持つ各街の貴族の元へと、書簡を送った。


【邪龍メテオルドラの、封印が弱まりつつある。ただちに勇者を召喚し、王都に立ち寄り許可を経て、聖剣を手に入れ遺跡に赴き、邪龍を封印せよ】


 とおふれをだした。



 王の命で、各街の召喚主たちは、屋敷の特別な場所で魔法陣を描き、召喚の宝石を使い、勇者となる異世界の者を召喚した。




 ……そして、王からのおふれが出た日から、3年の月日が流れていた。




 ここはパルマの街。このパルマの街はパープリアルの街にくらべ、小さな街だ。


 だが、山と隣接している為、山の幸や獣などが、豊富に取れ、市場に旅の者が立ち寄る事も多く、活気がある。



 ここはパルマの街の宿屋。


 朝早くから、部屋で準備運動をしている者がいた。


「さて、だいぶ身体もほぐれてきたし、朝飯までは、まだ時間はある。よし、少し外を走ってくるか」


 そう言うと、部屋を出て外へと向かった。



 そう、この物語の主人公トウマ、本名 新庄 紫しんじょう ゆかり、15歳、身なりや言動は男性だが、身体も中身も女性だ。


 12歳の時に召喚主に召喚され、この世界に来た。


 だが、女性という事で3年間、屋敷の外へ出してもらえず、男性として厳しく鍛えられ、この世界の事を学んだ。


 そして召喚主に、男のような名前をつけられた。



 黒髪にサラサラヘアで、耳の下まで長い。そして前髪は、右の紫の瞳を覆い隠すほど長く、若干つり目である。


 紫の宝石の勇者であり、その証となる物は、紫の宝石パープルサファイアと、召喚主が王に宛て書いた書簡である。



 トウマは走りながら、街を探索していた。


(昨日、ここに着いたばかりだけど。先を急がないといけないしな)


 そう思っていると、甘い香りがしてきた。


(……はっ!この匂いは、お菓子だ!!)


 トウマはその匂いにつられ、店に入ろうとした。だが、扉の前で足が止まった。


(いや待て!今ここで、お菓子を買ってしまえば、所持金が減る)


 食べたい気持ちを堪え、その場を後にした。




 しばらくして、トウマは宿屋に戻り、食事を済ませると、部屋で荷物の整理を始めた。


「さて、そろそろこの街を出て、王都を目指さないとな」


 そう言い荷物を持つと、宿屋を出て歩き出した。


「今日は晴天か、雲一つない。そういえば、昨日までは雨風が酷かったな」


 トウマは、空を眺めながら微かに笑った。


「これから、何が起きるか分からない。だけど、アイツのいる、あの屋敷にいるよりは、遥かにいいしな」



 そうトウマは、召喚主である、アルベルト・ルディの事を嫌っている。



 街の外に出ると、トウマは王都へと向かった。




 ……そして、トウマの旅は、ここから始まる。

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