第3話 均等

 1人の女性が私に告白をした。

 私は人を殺してしまったと、

 それでも私は死ななかったと、

 殺人を犯しても抜け殻とならない人間が稀にいる。

 殺人鬼、狂人、異常者、等々言い方は幾つもあるが、私達の間では“特異者”と呼んでいる。

 特異者は1人2人の命を奪っても魂が抜けることがない。命の重さが一般人よりも重いのだ。

 そのほとんどの者は殺人衝動を内に秘めている。大抵はうまく隠しているが、一部は衝動に駆られてしまう。

 これはただの一説ではあるが、命の重みによって魂が歪み、性格に変調をきたす。

 魂には自己、意思や自我といった情報があり、重さによってその情報が破損又は欠如することによる心因性の一種という説がある。

 この殺人衝動は病であるというがそれは間違いだ。この衝動は病なのではない。これは生存本能だ。我々のこの想いは魂の悲鳴なのだ。重くのし掛かる命の呪縛から解放されたい。そんな魂の叫びが我々を殺人へと駆り立てている。

 この女性もまた、命の重さに悩む1人の人間なのだ。

 だから私はいつものように問いかける。

 解放されたいか、と。

 その問いかけに女性は頷く。

 私は机の引き出しから一本のナイフを取り出す。

 女性は少し怯えるも瞼を閉じ、命をさらす。

 私は彼女を安心させるために、自分の胸に彼女の耳を押し当てる。赤子をあやす母親のように自分の鼓動を聞かせながら、私は彼女の胸に刃を突き立てる。

 私にはちょっとした特技がある。痛みを感じさせない、痛みから目を反らさせる、そういうことが出来る。

 だから、今の彼女は死の痛みも無く、安らかな気持ちで空へと堕ちて逝っただろう。

 そして私は備える。彼女の命を受け止める為、命の奔流がくるのを待つ。

 命を奪ったとき、私は消失感を感じる。知人は虚無感、無いことを感じるという。私の場合は消えていくのを感じる。ただの感覚の違いではあるが、このときの私は無いことを感じた。

 自分の命が突如として消えたのだ。

 気付けば、私は空へ堕ちていた。周囲には無数の魂が私と同じように空へ堕ちていた。

 受け止めきれなかったのだ。私の命の重さでは釣り合わず、彼女の命は自らの重さを失くそうと無関係な周囲の命まで削ったのだ。

 空へ堕ちていく魂は人間だけではなかった。犬も猫も鳥も魚も、この星に生きる生命を巻き込んでいた。それでやっと彼女の重さと釣り合ったのだ。


 命とは何て、

  不平等で、

  尊く、

  星よりも重いモノなのだろう。

 やっと、解放された。

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命の重さ 夜表 計 @ReHUI_1169

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