第13話 水車動力木炭高炉
鍛冶師は火の精霊に感謝を、そして今年もよき鉄が採れるように精霊教会に奉納を――
――精霊教会
――――――――――――――――――――
「ふぁ~~……」
昨日から鉄鉱石の選鉱が始まった。
例によって不老不死の労働者たちが深夜も装置を動かし破砕や振動音が鳴り響かせた。
そのせいでとっても眠い――そうだ二度寝しよう。
「おはようございます工場長」
「ん……おはようアルタ君、ふぁ……」
「はい、こちら朝のお茶です」と事前に準備をしていただろう木のコップを差し出す。
もはや朝の日課になりつつある野菜と雑草を煎じた苦いスープをひとくち。
うん、まずい。
錬金術師兼薬士でもあるアルタおススメの薬草を煎じているのだが……どう見ても雑草です。
それでもこのマズさにより目が覚めてきた。
「報告は何かあるか?」
「はい、森の調査をしたゴーレム達がさらに魔石を集めてきました。この魔石で数を増やして324体に増えました」
「最初の三倍に増えたか!」
いいね――山を芝刈りしてたら人口が増えた!!
別におかしくはない――川で洗濯したり、竹を伐採しても人口が増えることはおとぎ話で実証済みだ。
ちょっと違うのは罠にかけて倒しても増えることぐらいってもんだ。
このまま増え続ければより多くの工場を稼働させて産出を増やせるだろう。
とはいえ主力の鉄鉱石は火力掘削によって燃やせる表面積は大体決まっている――つまり生産量も決まっている。
その後の工程も徹底的に自動化と機械化を推し進めているから、今の所は余剰人員と化している。
そして魔石が落ちているという事は――森はまだ荒れているという事だ。
落ち着くまでまだ時間がかかるだろう。
仕方がないので昨日の工程の続きから作業を始める。
さて、安眠を犠牲に一晩中稼働させた結果、かなりの鉄鉱石を処理することができた。
そうして精鉱という品位を上げたモノになった。
これを錬金術で精製しても最初より効率がいいだろう。
しかしそれではハイスペック3D加工機の無駄遣いだ!
今日の計画は高炉稼働前の最後の仕上げ、粉状の鉄鉱石を高炉で使える『原料』にするための加工だ。
「さあ、仕事の時間だ――そこでだアルタ君、この粉の水分を取って塊状にする」
「これを溶かすのではないのですか?」と首から上を45度に傾けるアイアンヘッド。
「チッチッチ、この状態だと風が通らない。扱いやすいように粉をもう一度小石に戻さないといけない」
高炉とは――またの名を爆風炉と呼ばれるように炉の下部から風を吹き入れる。 それにより酸素濃度を高くし、還元反応により溶融するほどの高温にして――鉄を溶かす。 その関係から上部の投入口から装入する原料はある程度の大きさ塊であることが求められる。 粉状だと空気の通り道である隙間を埋めて――目詰まりをおこし機能しなくなる。 そうならないために粉末状の鉄鉱石を一度焼いて焼結する。 ゆえに高炉用の鉄鉱石は別名焼結鉱という。
「なるほど!」とすんなり理解してくれる錬金術師殿。
「という事でこの工程にはまたしても炉での過熱が必要だ」
つまるところ最初に作った塊鉄炉みたいな1000℃以上で熱するけど、溶けるほどじゃないちょっとした炉が必要になる。
「それでは今日は焼結炉を建設するということでよろしいですか?」とニョキニョキの達人が建設計画を立てながら聞いてくる。
「そうだな……焼結炉と同時に高炉のフイゴ周りを機械化しよう。ふふふふ、やっとメインの高炉をつくる日が来た!」
「ふふ、楽しそうで何よりです。それでは焼結炉と一緒に高炉周りを作っていきます」
さあニョキニョキタイムだ!
◆ ◆ ◆
鉄鉱山では火力掘削から選鉱まで止まることなくおこない黒煙と蒸気そして破砕による砂煙が立ち昇る。 すでに鉄鉱山周辺ははげ山と化して無数の水車動力設備が立ち並んでいる。 唯一の動力源である大量の水を消費し回収される。 それでも徐々に鉄鉱山全体のぬかるみが増していき、あらゆる作業に悪影響を与え始めている。 その一角には木組みの工場があり、その中では熱が逃げないように焼き入れ鍛冶場からタール蒸留装置まであらゆる《加熱工程》が押し込まれ、熱化学反応を促進させている。 この灼熱の作業場に更なる熱源が追加された。
――ふはははは、ついに本格的な高炉の完成だ。
まさかの三日三晩の試行錯誤!
「錬金術でも結構時間がかかったな……」
「それでも何とか完成しましたね」
「ああ、やっと完成だ――遂にできた!」
一番時間がかかったのは高炉そのものよりもフイゴの機械化の方だ。
クランクを設計して錬金術で製造――その設計と製造にどうしても時間がかかった。
クランクというのは機関車なんかでよく見る基本的な機構だ――水車の回転運動をクランク機構で往復運動に変えるという。
この往復――つまりピストン運動でフイゴを動かす。
「これでついに錬金術に頼らずに鉄が作れる」
それはつまり製鉄以外の別の作業に専念できるという事だ。
「完成だ! 完成だ!!」とはしゃぐゴーレム達。
「……ゴソゴソ、それではお供え物としてホーンラビットの角を……」と言いながら謎の儀式を始めるアルタ。
何やら怪しい呪文と祈りを捧げる。
その周りでツルハシとハンマーを天にかざして踊り出すゴーレム達。
謎の熱気を放ちながら続ける儀式!
え? 聞いてないんだけど……。
とりあえずこの儀式が終わるのを見守って――。
――いや暑すぎる諦めよう。
「終わったら教えてくれ!」
もう無理だ。 とにかく外に出ないと!
「ふぅ~、あっつ!」
高炉の理論は熱力学のプロセスに基づいている。 つまるところ効率よく高温にする――そして高温を維持することに心血を注いでいる。 そのためにフイゴで送る風は新鮮な涼風ではなく、できる限り加熱した熱風であるべきだ――という結論に達するのは至極当然のことである。 その結果、今あるすべての
――ようするに、とてつもなく蒸し暑い。
あのゴーレム達には皮膚感覚が無いから付き合ってたらこっちが倒れてしまう。
「工場長だ! なにかします?」「ご命令をお待ちです」と仕事待ちのゴーレム達が聞いてきた。
「いや、もう少し待機していてくれ」
「は~い」と言い微動だにしなくなった。
人員が300体以上に膨れ上がってもすることが無いので工場の前に整列させている。
このゴーレム達は次の銅掘削で活躍する予定だが――今はすることが無い。
その間、摩耗しないように整列して待機を命令している。
う~ん、それにしてもあの謎の儀式どうしよう。
『郷に入れば郷に従え』とは先人のお言葉、一緒にやるべきか!
――よくよく考えると、どこかの島国も新築工場に宮司さんを招いて安全祈願をしている。
なんてこった願掛けをしないなんて!
ホーンラビットの角よりもお酒のほうがいいだろう。
そう考えると開発が落ち着いたらお酒の製造もいいかもしれない。
お酒、アルコール飲料――いま製造中のアルコールはメチルアルコール(木精)ぐらいだ。
だがアルコールと名はついてもメチルアルコールは飲むと失明する。
有名の語呂合わせ「
さすがにお供えとしてはダメだろう。
そうなると何か祠みたいなのを作ったほうがいいだろうか。
う~ん、こっちの様式に合わせるのなら――。
「工場長~! そろそろ稼働させますよ~」と、巫女アルタが儀式を終わったことを告げる。
「よし、すぐに稼働させよう」
灼熱の職場に戻って、人類の近代化の象徴たる火を灯し、ついに原始時代から鉄器時代に歩を進める。
今日は異世界に来て最高にヒャッホーだ!
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