第4話 戦闘

 先月の村人の被害は1人。

 今月は2人です。

 皆足をやられ畑仕事ができません。

 これ以上、魔物にやられると村は全滅です。

 どうか冒険者ギルドによる魔物の討伐をお願いします。


 討伐対象はホーンラビットです。


 ――困り果てた村長

 ――――――――――――――――――――


 現れた魔物はホーンラビット――額から長く硬い角が生えている一見すると野兎のような魔物である。 だがその脚力による体当たりは凄まじく、鉄の鎧ですら貫通する威力がある。 下手に近づくと大けがをするので、魔法と弓矢による遠距離攻撃による狩りがもっとも効率が良い倒し方である。


 ――というのがアルタの魔物情報。


「けど集団には滅多に襲ってこないんだろう?」


「多分ですが岩陰か小さな巣穴に隠れていたのが掘削作業で飛び出してきたのかと」


「あ、あれか! もうゴーレムが集まってるな」


 場所は鉱山の中腹あたりで、すでに戦闘が始まっている。


 いや戦闘というより集団による一方的な攻撃だ。


 周囲のゴーレムが急報に駆けつけて次々とホーンラビットに攻撃をしていく。


 ――が、槍と棍棒をなんなく避けるホーンラビット。


 そして反撃の一撃! ウッドゴーレムの足を自慢の角で貫いて倒す。


 腕を、足を、頭を、ゴーレムは逆襲に遭い次々と倒れ、すでに五体ほど動けなくなっていた。


 まずいな、ゴーレムが弱いのは知っていたがこれじゃあ全滅してしまう。


 集団でも勝ち目がないとは……。


 それならば――。


「全ゴーレムに命令! 遠距離から石による投石で攻撃せよ!」


「はーい」と軽い返事と共に持っていた棍棒と槍そしてその辺に落ちている石を一斉に投げつけた。


 いや、だれが武器を投げろと言った!


 それでもさすがに全方位からの投てきを避けることはできなかったようだ。


 致命傷ではないにせよかなり動きが鈍っている。


 ふう、何とか倒せそうだ――ん?


 ホーンラビットが攻撃をよけながら確実にこちらに来る。


 別に狙って目指しているのではない。


 ゴーレム達は中腹で石投げ合戦をしている――が山のふもとにいる我々に当たらないように配慮していた。


 本能的に投石がしてこない方角――つまり下山しながら避けていく。


 ってもう目の前に来ている!


「あぶない!!」


 アルタがとっさに前に出てホーンラビットの突撃を受け止める。


 そして――頭が吹き飛びコアが地面に転がり落ちる。


「――な!?」


 土くれの体は崩れ落ち――もう動かない。


 半ば呆然としていると「ギギーー!」と怒りをあらわにした鳴き声と共に今度はこちらに角を向ける。


 クソ! 棍棒を構えるがこんなので倒せるとは思えない。


 にらみ合いながら互いに相手の動きをうかがう。


 ――そのとき。


 突如魔物の上にストーンゴーレムが出現し、ボディプレスで魔物を下敷きにする。


「うおぉ!?」


 さすがに岩の塊が目の前に現れるとビックリする。


「何とか倒せましたね。大丈夫ですか?」


「!? ――ああ、アルタ君か、そっちこそ頭吹き飛んで大丈夫か?」


 拾い上げたコアをまじまじと見る――どうやら傷一つ無い様だ。


「ハイ大丈夫です。ゴーレムコアは基本的に物理攻撃では壊れませんので――ただ恥ずかしいのであまりジロジロ見ないでください」


 むき出しのコアを覗かれるのは恥ずかしいらしい――真っ裸?


 む? 土が付着しているから磨いてあげよう。


「ひゃっ! ちょっと大丈夫です。や、やめてください。ヤメッ!」


「――いで!!?」


 今度は頭上に小石が出現しコツンと当たった。


 ――というか小石が連続して出てきてる。


「いたい、いたいわかったから止めて!」


 アルタのスキル《インベントリ・小》には予備のゴーレムや生活物資そして小石などが収納されている。


 そして収納したアイテムは数メートルの範囲内ならばどこにでも取り出すことができる。


 もちろん意識の外である頭上から岩などを落とすこともできる。


「つまり先ほどの戦闘で必殺スキル≪インベントリ・ゴーレム落とし≫を発動させたんだな」


「はい、そうです。あのソコの土くれに戻してもらえますか」


 コアを土くれに戻すとムクムクと砂がコアを覆い二頭身のゴーレムができた。


 サンドゴーレムの復活である。


「最初より小さいな」


「はい、ゴーレムは少しずつ素材を引き寄せて勝手に成長していきます。私の場合はサンドゴーレムなので砂があれば時間と共に大きくなります」


 なるほど、ウッドゴーレムは枝や枯葉が、ストーンゴーレムは周辺の小石が少しづつ取り込んで大きくなるということか。


「ん? でもこのコらは大きくなっていないが?」


「はい、私が――その肉体から魂が離れたせいで魔力が弱まり、その影響かこのゴーレム達は成長しません」


 そういうことか。 そうなると――。


「もしかして戦いに勝ってもレベル的なものは上がらない?」


「そうですね。本来、魔物を倒したりするとスキルや能力が上がりますが、ゴーレムは成長しません。もちろん肉体と切り離れている私も成長はしません」


「ちなみに聞くがスキルが一切存在しない原始人がレベルアップってのは――」


「……おそらくですが、上がることはないと……」


「そいつは残念だがまあ仕方がないな」


 それにしても周囲の物質を取り込んで徐々に大きくなるってのも不便だな。


 ――お、そうだいいこと思いついた。


「鉄ならば勝手に成長しないし、最初から形が決まっていればいいんじゃないか?」


「…………なるほど、さっそくアイアンゴーレムを作って、体を乗り換えてみますね」


 そう言ってアルタは意気揚々と鉄鉱石を錬成していく。


 ――こちらは戦利品の確認でもするか。


 まずひき潰されたラビットの肉――うーん、これはいけませんね~。 なんといいますか、内臓というより……その、つまり「うんこ」です。 肉がすべてうんこ臭くなりました。 なにせ岩男がボディプレスをかましたのだから仕方がない――おっと想像してはいけない。


 食べたら絶対腹を壊す。 洗浄しても焼いても毒素が無くなるとは限らない――疑わしきは消毒。 世紀末の常識だね。


 ということで、死臭が原因で肉食の魔獣が寄ってこないように燃やした。


 お次は立派な角――残念ながら先ほどの戦闘で先端が欠けている。 鉄槍より弱そうなので使い道無し。


 ――次に被害状況は。


 ゴーレムは全部で11体が破壊されたりして倒された。


 ただしゴーレムコアは無事だったことから錬金術ですぐに修復しそうだ。


 つまり――。


「総兵力の10%が被害にあって、半日作業が遅れて、成果無しだと……」


 うわっ! 私達って弱すぎる!?


「あの~ホーンラビットの魔石がありました」そう言いながら消毒もとい燃えカスになったラビットから魔石を取り出すストーンゴーレム。


 この魔石を錬金術で錬成するとゴーレムのコアになるそうな。


 そうなると魔物を倒せばそれだけ労働力が手に入るってことになる。


 それなら倒した意味はありそうだ。


「よし、この鉱山を中心に簡易的な罠を作って魔物を寄せ付けないようにするのはいいかもしれないな」


 採掘を邪魔されずに魔石が手に入る。


 まさに一石二鳥じゃないか。


「罠ですか――いいかもしれませんね」


「お、アルタ君もうなお――」


 さきほどまで土くれのサンドゴーレムだった錬金術師が鉄板で出来た人形に変身した。


「? 何か変でしょうか」


 顔の――それも目の部分にはゴーレムコアが赤く輝き、形状は今までの武骨なザ・ゴーレムより洗礼されている。


 自分の体をキョロキョロと見る様はまるでモノアイで全身をサーチするかの如く、その見た目はどう見ても――。


「まさにロボット! ごちそうさまです」


「? すみません言語が理解できませんでした」


「いや気にすることはない。なかなか洗礼されたいい形状だ」


「そ、そうですか……」


 しまった。若干引いてしまった。


 けど異世界の辺境にロボットですよ。 ちょっと興奮しちゃうじゃないか!


「ごほん、あ~他のゴーレムもアイアンゴーレムに変えていくのがいいかもしれないな」


「なるほど、わかりました――鉄に余裕ができ次第換えていきますね」


「うむ、それでは鉱山開発と拠点の強化そしてゴーレムの鉄化を直近の方針としよう」


「おー」っとゴーレム達がいつもの軽い返事をして本来の作業に戻る。



 ふぅ~、とんだ横やりが入ってしまった。


 現在の計画は生産力を上げるために小型の高炉を作る。


 そして鉄を錬金術を使わずに手に入れることだ。


 レンガは何とかなっているから、これから燃料を確保しないといけない。


 残念ながら石炭は無いから代わりに木炭を作って木炭高炉で製鉄をしていく予定だ。


 さあ、開発を始めよう。

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