第一章 鉄の時代
第1話 始まりのツルハシ
魔大陸に渡った勇者様は三人おります。
精霊軍を率いた初代勇者様。
単独で渡り生還した二代目勇者様。
そして聖地へ向かう途中で果てた三代目勇者様。
四代目による政変以降は北大陸での覇権争いしかしていません。
――魔法帝国歴史家
――――――――――――――――――――
魔大陸の奥深くに古代魔法王国の辺境であるが栄えていた「始まりの街」と呼ばれる都市があった。 遥か昔に滅んだその都市は現在では薄暗い森に侵食された無人の遺跡と化している。 その都市に転移した唯一の人間と多数のゴーレムの一団が物資を求めて出発した。 一団は鉱物資源を求めて東の山々を調査して回っていた。
「おいっちに! おいっちに!」
「はぁ……はぁ……」
「あまりご無理をなさらないでくださいね」
「だ……大丈夫だ。問題ない……」
「いいえ無理はよくありません――少し休息にしましょう」
「……そうだな少し休もうか」
遺跡を出てそろそろ2日目か。
なぜ外を出歩いているのかというと何|もないからだ。
つい先日までいた遺跡には生活に必要なモノが何もなくて、まさに石の廃墟といっていいレベルだ。
なんでも滅亡する前は「はじまりの街」と呼ばれていたらしい。
それなりの規模の都市で周囲を城壁に囲まれ中央に川が流れている、まさに冒険の門出を祝うための街――そんな面影が残る廃墟だった。
魔法王国(滅亡)にある、はじまりの街(廃墟)には残念ながら生きている人はいなかった。
今の装備品が何もないことを物語っている。
まずは右手に持っている「ひのきの棒」。
その辺に落ちていた棒だ――主な用途は長距離歩行の補助具だな。
あとは藪蛇を追っ払うのに使う。
続いて左手に持っているのは「石」だ。
その辺に落ちていた石だ――魔物に襲われたら投げつけて怯んだすきに逃げるつもりだ。
最後に腰からぶら下げている「ロープ」。
その辺に生えてた雑草をよって作った自信作だ――5mほど作って飽きてやめた。
まあ、ようするに「はじまりの街」を飛び出すのに相応しい初期装備ってことだ。
そもそも約1か月前に気が付いたらこの異世界に転移していた。
何の準備もしていなかったので持ち物はスマホ(電池切れ)ぐらいだ。
一応作業着を着ていたが文明的なのはその程度だな。
突然無人の遺跡にいて呆然としていたところをサンドゴーレムと出会った。
そう先ほどからこちらを気遣ってくれる優しい女性である。
名前はアルタ、見た目は砂と土――砂利かな? それから所々花崗岩で継ぎ合わさったサンドゴーレムだ。
こんな見た目だが昔は人間だったらしい。
なんでも滅亡した魔法王国の錬金術師で、文明が崩壊したときに街に取り残されたとか。
その街も周囲を魔物の群れに囲まれて孤立し、都市に立て籠もった集団は物資不足で全滅。
いろいろあってゴーレムコアという魔石に魂を移して何とか生きながらえたのが彼女だ。
詳しくは聞いていない――乙女の過去を根掘り葉掘り聞くほど無粋ではないからな。
最近までずっと休眠していたせいで滅亡からの正確な年数と最近の周辺事情はわからないという。
ざっと数千年は経っているらしい。
うん? ……乙女?
さて問題は周囲を魔物に囲まれて数千年たったら森に侵食されてた。
もちろん魔物は健在でどこにも移動できない状態だ。
そんな中でも東の森が比較的魔物が数が少なく、小さく弱そうな種類しかいないマシな森だった。
一番危険なのは北の魔物――あれは近づいちゃいけない。
まあ周辺状況については後でもう一度考えよう。
今すべきは――。
「お疲れお疲れ?」「人間さんお疲れさーん?」
と言いながら近づいてきたのは人の形をした木の人形――ウッドゴーレムだ。
顔の部分に淡く輝く紅の魔石が付いていて、この核が壊れない限り数百年は動くという。
古代には巨大なゴーレムを作り門番とか土木作業の労働力として使ったらしい。
まさにファンタジー!
これで軍隊を作れば脱出できる――はずだった。
ところが肉体を喪失したアルタはそれに伴い魔力量も低下して人型のゴーレムしか作れない。
そのせいで周囲の魔物にも勝てない脆弱なゴーレムになった。
ただし錬金術で魔石さえ作れれば数の制限は無いようなので労働力として大量に作ってもらった。
「あなたたち休息の邪魔をしないように――それから周辺を調べてきなさい」
「「はーい」」
「ああ、ありがとう。一息ついたらあの山まで行って資源調査を再開しよう」
我らが軍勢は物資不足の「はじまりの街」を飛び出して近隣の山々を調査している。
街の外は魔物がうろついていて危険だ――どうにか自衛するための武器が必要だった。
人の大きさにまで小さくなったゴーレム様は脆弱で脆く壊れやすい。
非戦闘員の錬金術師様もとっても弱い。
自慢ではないが人間様もすんごく弱い。
我らが数的資源はウッドゴーレム100、ストーンゴーレム6、錬金術師1、そして人間1の総兵力108だ。
武器は全員「ひのきの棒」108本に「石」108個。
これだけだ。
すんごく弱いから集団でぞろぞろ歩きながら周辺を調査している。
この数の暴力に恐れをなして逃げてくれたのが東の森の魔物だけだったというのは何とも情けない話だ。
ちなみに今までに発見できた資源は採石所跡地と陶器類の窯跡のあった丘。
この採石場で試しにストーンゴーレムを6体作った。
調査2日目になり発見できた資源はまだない。
そろそろ鉱山でも見つかればいいが、こればかりは博打でしょうがない。
◆ ◆ ◆
あれからさらに数時間歩いてついに目的の山にたどり着いた。
途中から山登りになって足はガクガクだ。
標高は500? それとも700メートルだろうか。
とにかく登山をしながら崖や崩れた地層を見て回った。
「……はぁ、この辺の岩盤は赤みが増してるな。こいつは……どうやら当たりだ!」
この山は赤鉄鉱を大量に含んでいるために特徴的な赤色の地層になっている。
主成分は鉄と酸素。
つまり鉄の鉱床を見つけたってことだ。
「ここからは錬金術師の出番だな。アルタ先生よろしくお願いします」
「はい、任せてください」
錬金術師の本領発揮だ。
錬金術を行使するために地面に錬成陣を書き始めた。
ちなみに彼女は三つの優れたスキルを先天的に持っている。
一つは《錬金術》というモノづくりにうってつけの能力。
もう一つは《言語理解》。ちなみにこのスキルのおかげで対話ができている。
最後に《インベントリ・小》という量に制限があるけどモノなら何でも収納できるスキルだ。
これは外れスキルと呼ばれていて効果が同じ魔道具を錬金術で作れるからあんまり活用する機会が無いらしい。
どう見ても便利なスキルなのに異世界人は贅沢だね。
「それにしても不思議ですね。過去に召喚されたり、迷い込んだ異世界人は皆スキルを複数手に入れたのにそれがないなんて……」
アルタが錬成陣を地面に書きながらそう呟く。
「まあ、無いものはしょうがないよ」
そう、スキルを持っていないのだ。
なんでも手に入れたスキルは頭の中に浮かんできてすぐに使えるらしいが、頭の中に浮かぶことといえば今日の夕飯と寝床のことぐらいだ。
あとは今後の計画とかぼんやり思い浮かべるぐらいだな。
ハッ! まさか!!
「脳内メモ帳! あるいは脳内ノートというスキルがあるのでは!」
「それは――全人類共通のスキルというか特技だと思いますよ」
「ですよね~」
やはり無能らしい。
まあこればかりは無いものねだりしてもしょうがないので諦めよう。
「魔法陣が完成しました。少し離れていてください」
錬金術師アルタは地面に魔法陣を書き記して錬成の準備が整ったようだ。 この錬成陣には異世界の言語がびっしりと書かれている。 内側に六芒星の象徴と三角形の象徴を基本に円形陣が描かれている。 もっとも特徴的な象徴は三つのサークルを頂点とした
ぶっちゃけてしまおう――。
「これはどう見ても三面図だよな……」
「――はい? あの翻訳が上手くいきませんでした」
「あ、気にしないでいいよ」
錬成陣が発光し始めた。 そして中央の原材料である鉄鉱石も発行する。 最後になにかを読み取っているのか三面図の図形も発光する。 離れてみていてもわかる。 錬金術のスキルが発動したのだ。 この錬成反応からほんの少し熱を感じる。 そして鉄の焼ける匂いもしてくる。 反応が収まり錬成陣の中心にはひとつのモノができあがっている。
――そこには銀色に輝くツルハシの頭部がある。 中央にはツルハシそしてその周辺に不純物だろうか黒い砂山ができている。
そう三面図で描いたのはツルハシの頭部。
「相変わらずの鏡面仕上げだな美しい……」
「錬金術ではどうしても面の粗さを指定できませんので仕方がありません」
「いやこれはとってもすごいことだよ。さあこれでさっそく掘削を始めよう」
錬成陣は一度描けばいくらでも再利用できる。
錬成をしてツルハシを作って、ウッドゴーレムがツルハシで鉱山を削る。
削った鉄鉱石でツルハシを作る。
なんてすばらしい循環だろうか!
ウッドゴーレムがツルハシで地面を掘り返す。
だが、何度か地面を削ったらウッドゴーレムの動きが止まって――こちらにやってきた。
「あの~ツルハシ壊れました」
「ふぁ!?」
その手に持っているツルハシを見ると先端が曲がって使えなくなっていた。
どうやら強度が無かったようだ。
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