ファクトリーマネージャー~自重しない工場都市開発記~

かくぶつ

工場都市開発記

プロローグ

 その世界にはかつて古代魔法王国が君臨していた。 しかし王国の滅亡によりすべての民は東の大陸へと逃げ延び、そこで新たな国を興し発展していった――あとには「聖地」だけが取り残される。


 人族が治める北大陸と亜人族が治める南大陸が存在するこの世界では歴史上の経緯から互いに憎悪を募らせていた。 両大陸が広大な海を挟んでいることで大規模な戦争だけは回避できたが、代わりに大陸内での覇権争いは悪化の一途を辿っている。


 北大陸は2大勢力が治めている――西の大国は古代魔法王国の神秘と秘術を継承し魔法帝国と呼ばれ、多数の王侯貴族を従えている。 長い年月が経ち強大な発言力を持った精霊教会の教皇が『聖地奪還』を主張して、古の秘法「勇者召喚」と再編した「精霊軍」による国土再征服レコンキスタの準備が行われる。


 その東の大国では悲願であった「ダンジョン」との契約に成功し、そこから得られる強大な力と絶対王政による歪みから周辺諸国との争いが激化していく。


 浅い海峡を隔てた極東の島国では大陸の戦乱から逃れた商人たちが人魔の垣根を越えた貿易で財を成す。 貿易を制する者が覇権を握ると気付いたその島国はしたたかな外交戦を開始する。


 南大陸の東のはずれ、鬼が治める島国では実に千年ぶりに海外との門戸を開き、貿易で得た「魔道具」が市中をにぎわしている。 そして彼らは身の丈に合わない魔法の体系化を推し進めながら衰退著しい南大陸を注視する。


 南大陸でも2大勢力が君臨している――東の龍国では天命が尽きようとしていた。 統治する皇帝は酒池肉林にあけくれ宦官により腐敗し、地方では軍閥が勢力を拡大する。


 その西にはかつて存在した古代魔法王国の官僚組織と軍組織を継承した大国・魔王国がある。 そこは進歩的な官僚制度による緩やかな統治をおこなっているが、その本質は軍事組織であり常備軍制度を背景に長年周辺他民族を征服していった。 かつて別れた北の魔法帝国による国土再征服レコンキスタの動きに刺激されて彼らもまた『聖地奪還』の動きを加速させていく。




 ――だが、そんな世界とは隔離された場所で、世界の趨勢とはまったく関係のない「ひとつの物語」が始まった。




 この世界には人族が治める北大陸と魔族が治める南大陸が存在する。 そしてこの二大陸を合わせたよりも巨大な大陸が西方に隣接する。 そこは「魔大陸」と呼ばれ――かつて人魔統合を掲げた古代魔法王国が繁栄していた超大陸である。 数千年前の「災厄」により魔物が溢れ返ったその地は人を寄せ付けぬ「魔大陸」となり、聖地奪還を夢見る者たちの不毛な戦場と化していた。 あまりにも広大な魔大陸――そこに存在する「聖地」を目指して世界の軍拡と争いに拍車がかかる――なぜなら「聖地」を奪還したものが古代魔法王国の正当な後継者を名乗ることができ大陸全土の支配権が得られるからだ。


 過去に聖地奪還を掲げた「第一次精霊軍」は連日連夜押し寄せてくる千万に達する魔物の群れに蹂躙され、強大な力を持つ歴代の勇者ですら外縁部に橋頭堡を作るのが精々であった。 今では冒険者を自称する集団がその外縁部で「はぐれ魔物」を狩り生計を立てている。 それは魔王国でも同じである。




――そこは魔大陸の奥深く古代文明の残滓が残る遺跡の中。




 そこに一年近く運命に抗い続ける一人の技術者がいる。 気が付いたらそこに居た技術者は魔物たちの弱肉強食の生存競争に晒され、終わりの見えない戦いを続けている。 




 ◆ ◆ ◆




 なぜこんな事態になったんだ?


 何を間違ったんだ?


 ただここから脱出したかっただけなのに――。


 最初は順調――いや笑える出来事の連続だった。


 目が覚めたら見知らぬ遺跡にいて、それからゴーレムの錬金術師とコンタクトをとり、まるでネット小説のテンプレよろしくここが異世界であることを認識した。


 ちなみにチート能力はなかった――ホント笑える。


 遺跡の外へ出ようとしたら魔物が徘徊していて脱出不可能だと知ることができた。


 だが妙なことに魔物たちは遺跡には寄り付かない。


 そこから調査した結果、遺跡とその周辺約山手線1~2個分の土地が安地だと分かりそこに引き篭ることにした――ひっきー!


 月日が流れること半月ほど原始人のような生活をしながら打開策を考えていたらふといいことを思いついた。


 何もないなら脱出するための《乗り物》を作ればいいじゃない――いえーい!


 ということで森を切り開いて山を削ってあとはいろいろ笑えない事をやらかした。


 それでもそこまでは順調だった。


 というのも安地だと思っていたらいきなり魔物の群れに襲われてしまった。ぶ~。




 ――と、いうわけで私こと「工場長」はただいま絶賛生存競争中です。


 まあ仕方がない。


 弱肉強食の理に従い最後まで抗ってやるだけだ。


 しかし過去の回想は現状の問題と原因の特定、そして難題を解決するのに有用な気がする。


 だから真剣に今までの出来事を振り返ってみよう。


 そうあれは生まれてすぐ0歳のころ――――いやいやそんな昔に解決の糸口はないな。


 同じ理由からここに来てから一ヵ月間の原始人生活も振り返る必要がないな。


 原因を考察するのならば近場にあった鉄鉱山開発辺りが妥当だろう。


 そうあれは――。


 ドドドドーン。


 ああ、なんてことだ!


 ここは居並ぶ迫撃砲が火を噴き、爆音が鳴りやまない前線だ。


 こんな所では過去を振り返り思索にふけるのに最低の環境だ。


 よろしい落ち着ける場所に移動しよう。


 といっても落ち着ける場所なんてあそこしかない。


「工場長に敬礼!」


「「「バッ!」」」


「ああ、がんばってくれ」


 アイアンゴーレムに軽く敬礼をしさっさと落ち着ける場所へと向かう。


 途中で初期のウッドゴーレムとストーンゴーレム達が永久磁石で薬莢の回収をしている。


 金属は貴重な資源なので無駄にできない。


 だからできる限り資源を回収させている。


 まあ盛大に浪費しているんだけど――戦争とは無限の出費とはよく言ったものだ。


 うーん、今度は工場から悪臭が漂ってくる!


 最近はこの悪臭が原因なんじゃないかと勘繰っている。


 そりゃあこんなに臭いのなら魔物が怒り狂って突撃してくるのもわかる――だが結論を出すのは早計だ。


 何が原因か思い出そうじゃないか。


 さあ我が家に着いた――またの名を核シェルター!


 見た目は2×4の木材で作り上げたスモールハウス。


 人ひとりが住むには十分でコンパクトにまとまった家だ。


 だが、見た目とは裏腹に中身は重量級の金属の塊となっている。


 壁と扉は鉄と鉛が大量に仕込まれているのはやりすぎな気もするが――周辺には化け物しかいないんだからしょうがない。 


 我が家の内装はとてもシンプルなもので、ベッドと簡単な作業台、あとはストーブに冷房機、それから大量の資料と設計図――それなりに充実している。


 最初の原始人生活がウソみたいだ。


 たった1年前――あの頃はまさに石と棍棒そして雑草のテントだけで生活していたのだから――。


 落ち着くためにまずは自作野菜茶を淹れる。


 カフェインが恋しいがコーヒー豆はまだ見つかっていない。


 椅子に座ってふと壁にかかっているものが目に入る。


 壁には鉄のツルハシとオノが掛けてある――諸事情によりもう使ってはいない。


 そうすべてはあのツルハシを作るところから始まった。


 鉄鉱山と思われる山にゴーレム達と出発したあの日に――。

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