第7話 突発型ダンジョンにてボス戦です…
「グガアアァァァッ!」
凛華が扉を開けて中に入ると、大柄なモンスターの咆哮が轟いた。
瑞希は緊張をしていたせいかその咆哮によって、身体がビクッと震えあがりその動きを止めてしまった。
「瑞希っ!」
凛華は抜刀をすると瑞希の前に立ち、大柄なモンスターの金棒による一撃を防いだ。
「油断しないっ! はぁ、せいっ!」
凛華は金棒を弾くと、刀で斜めからモンスターを斬り裂こうとしたが後方に大きく下がられてしまい、凛華のその攻撃は躱されてしまった。
「大丈夫?」
「う、うん…。ごめん」
瑞希は凛華から厳しく叱責されたことで我に返り、自分の行動を反省した。相手の気迫に飲まれて動けないままでは自分だけではなく凛華にも危険が及ぶことが分かったからだ。
「大丈夫ならいいよ。それよりもあいつのこと鑑定で見れる?」
「多分いけるよ」
「それじゃあ、スキルとステータスの確認よろしく! それによって対策を考えるから!」
凛華はそう言い残すと刀を構えてモンスターに斬りかかった。凛華は少しでも自分に注意を引き付けることができれば、瑞希の鑑定が行いやすいと判断したからだ。
また、凛華の刀は普通の刀であっても、彼女の〈ギフト〉のおかげで攻撃事態は通るので少しでもダメージを蓄積させることができれば、今後も見据えるのであれば有利になるかもしれないと思ったからだ。
瑞希は凛華に頼まれた鑑定をする隙を探しながら後方で極力モンスターの視界に入らないように立ち回っていた。そして、凛華に腕を斬りつけられて片腕に大きな傷ができたところで怯み、隙ができたのでモンスターの鑑定をすることができた。
――――――――――
レッサーオーガ
Lv.10
体力 83
魔力 50
気力 53
物理攻撃力 82
魔法攻撃力 31
物理防御力 76
魔法防御力 32
器用さ 61
素早さ 57
幸運 55
〈スキル〉
〈棍棒〉Lv.5 〈威圧〉Lv.2 〈狂化〉Lv.1
――――――――――
「能力値とスキル分かったよ! 攻撃力と防御力が高い、純粋な物理型のステータスで魔法攻撃に弱い! スキルは〈棍棒〉5、〈威圧〉2、〈狂化〉1だよ!」
「了解!」
凛華は瑞希から相手のステータスを知ると、もう片方の手に持つレッサーオーガの金棒に向かって刀を大きく打ち付けてそれを弾くと、凛華の下へと移動をしてきた。
「とりあえず魔法が有効みたいだけど、私たちに魔法の攻撃スキルはないよね?」
「う、うん。レベルアップはしても魔法系の攻撃スキルは覚えてないよ」
「そうだよね、それなら少しでもあいつにダメージを負わせて〈狂化〉を使わせるしかないか」
「多分それしかないかも…」
〈狂化〉…防御力が半分になり痛みを感じなくなるようになることを代償に、攻撃力を倍にする。効果時間はスキルレベルによって伸びる
2人がレッサーオーガを倒すために取れる手段はそれしかなかった。今の段階でダメージを確実に与えられるのは凛華だけだったので、瑞希ができるのは凛華の攻撃を通しやすくするために陽動として動くことだけだった。
2人は方針を決めると、レッサーオーガと向かい合い、それぞれの獲物を向けると一斉に左右から攻撃を仕掛けた。
瑞希は先程の簡単な打ち合わせで決めたように、レッサーオーガの気を引くために、右側から攻撃を仕掛け、レッサーオーガの心臓があると思われる左胸を正面から何度も斬りかかり、下がるときも右斜め後ろに下がるようにするなど、左側を視界に映させないようにちょこまかと攻撃を仕掛けた。
(私が視界の端から常に攻撃を仕掛け続ければ凛ちゃんは動きやすくなるよね? とりあえず、私の攻撃はそこまで効かないから意識をこちらに向けさせなくちゃ…!)
その間の凛華は攻撃を仕掛けるのではなく、気配を限りなく薄くして瑞希にもしものことがないかだけ注意して、左側からレッサーオーガの背後に回り込む動きをして背中への意識がなくなるタイミングを待った。
そして、レッサーオーガは何度も胸ばかり攻撃をしてくる瑞希に狙いを定めると、金棒を振りかぶり勢いよく叩きつけてきた。レッサーオーガも何度も同じ場所を、それもあわよくばダメージを、と狙う決して気にならないとは言えない程度の威力ではあるが、致命的になる可能性もある攻撃を仕掛けては引いてくる相手に挑発をされつつあった。
「う~、はぁっ!」
瑞希は剣道で持つ竹刀との差に違和感を覚えつつも、両手で持った〈名無しの剣〉をそれなりに使いこなして金棒を打ち払い、凛華に攻撃の機会を作り続けた。
レッサーオーガも何度も来る剣を嫌い、自身の金棒で迎え撃った。金棒の一撃を受けるだけでも致命的になる装備の瑞希は、攻勢に出られたらすぐに守りを固めるかのように剣でも防御をする動きを見せた。
「えいっ!」
瑞希は剣で受けるだけではいずれ負けることは目に見えていたので、最初の地点からだいぶ離れて凛華のことを意識の外に置いているだろうレッサーオーガに大きな隙を作り出すために、渾身の力を込めて金棒に向かって剣を大きく叩きつけた。
レッサーオーガはその剣を正面から金棒で受け止めると、ニヤリ、と笑い瑞希をそのまま押しつぶそうとするように金棒に入れる力を強くしてきた。
「…背後の警戒を疎かにしちゃだめじゃないか、なっ!」
凛華は瑞希の狙いを悟るとすぐに駆け寄ってきており、瑞希に合わせるようにレッサーオーガの背中を刀で斬りつけ、3度その刀から血飛沫が舞った
「ガアアァァッ…!」
レッサーオーガは彼女たちの狙い通り、凛華への警戒が薄れてきてしまったところだったので、背中への思いがけない攻撃で初めて悲鳴らしい悲鳴を上げた。
これまで瑞希と凛華の2人はそれぞれ限界まで集中力を発揮することで、レッサーオーガの攻撃を受けることなくそれぞれの役割を果たし続けた。そして、
「グオオオオォォォォォォ…ッ!」
レッサーオーガは今までにない雄叫びを上げた。その声に2人は驚いてレッサーオーガから距離を取って様子を窺った。
レッサーオーガはその体を以前見た紫色のゴブリンと同じようにその体を黒く染め上げて、〈狂化〉を発動させた。
「ここからが第2ラウンドだよ。瑞希、今度は瑞希の攻撃もよく通るようになるけど、一発でも喰らったら私たちには致命的だから気を付けてよね!」
「う、うん。凛ちゃんも気を付けてね!」
2人はそれぞれ互いに注意を促すと、狂化状態に入ったレッサーオーガと戦闘を開始した。
レッサーオーガは既に狂気に飲まれており、その攻撃は本能的に行われているような動きだった。目の前を動く対象がいればその金棒で撃ち付け、音が聞こえればその方向に金棒を振り回し、攻撃をされればその方向に殴りかかる。反射で動いているせいなのかその攻撃は先程よりも鋭く、瑞希も凛華も剣や刀で撃ち合える威力ではなかった。
「きゃっ!」
瑞希は何とか攻撃の隙を作り出そうと剣を構えたが、レッサーオーガの金棒で殴り掛かられ、咄嗟に剣で防御をすることができたが、吹き飛ばされてしまった。
「瑞希!」
「だ、大丈夫。それよりも、凛ちゃん、前!」
レッサーオーガは吹き飛ばした瑞希には目もくれず、自身の近くで発した声の主に狙いをつけて再び金棒を振りかぶっていた。
「くっ、これくらい…!」
凛華は防御が間に合わないと判断をすると、瞬時に刀を構え直して、攻撃を振るうその腕に意識を集中させた。
(視える…)
凛華はその振り下ろそうとされる金棒の動きがスローモーションに視えたかと思うと、
「…はぁっ!」
一閃
凛華は振り下ろされる金棒をギリギリで最小の動きで躱したかと思うと、彼女の刀がレッサーオーガの腕の付け根を斬り裂きその肩から先を体と分離させた。
「瑞希っ!」
「わかってる…!」
凛華は集中力を極限にまで振り絞って刀を振るったせいか体が思うように動かず、斬り裂いたその姿勢のまま固まっていると、瑞希は凛華が作った止めを刺す機会を逃すわけにはいかないと全速力で走り込み、そのレッサーオーガの心臓があると思われる左胸を剣で貫いた。
「ガアアァァァ……」
レッサーオーガは片腕を切り落とされてバランスを崩したところを刺し貫かれた。
レッサーオーガも狂化を使うほど追い込まれており、体力も少なく、急所への一撃だったということもあり、そのまま目から光が失われその姿を静かに消滅させた。
「瑞希、大丈夫?」
凛華は戦闘が終わったと判断をすると先ほど吹き飛ばされてしまった瑞希の体の心配をした。
「うん。一応大丈夫だよ、背中は痛いけど」
瑞希は戦闘を終えると互いの体力や状態を確認していた。
瑞希に至っては一撃を受けるだけで既に残り体力は5しか残っていなかった。首を刎ねられたり心臓を貫かれたりすればもちろん一撃でその命は失われるが、体力がダメージの蓄積で0になってもその命は失われるので体力の管理も大事だとされている。
また、凛華は体力こそ減ってはいないが状態としては重度の筋肉痛と出ていた。彼女の体は限界を超えたかのような速度で動き、彼女の体が持つ最大のパフォーマンスをしていたようで、その反動が大きかったようだ。
そのことを告げると凛華は乾いた声で「あはは…」と笑うとそのまま倒れ込んだ。どうやら本当に全く動けないようでしばらくはこのまま待機するしかなかった。
「凛ちゃん、無理はしないでって言ったよね?」
「そうだけど、防御は間に合わなかったし、あのときは、こう、なんていうか、いける! って思って、その、ね?」
凛華も無茶なことをしたという自覚はあり、その反動で動けなくなったのでは意味がないと思ったが、あまりに瑞希が心配をして怒っているので言い訳をしようとしたがうまく言葉を紡げないでいた。
それからしばらく瑞希に叱られていると、凛華は、
「そういえば鑑定を使ったなら私たちのレベルってどうなってた?」
と、戦闘後のリザルトを気にしていた。
――――――――――
名前:黛 瑞希
性別:女
年齢:15歳
状態:疲労
Lv.7 3UP
Runk.1
体力 5/64 15UP
魔力 51/55 11UP
気力 31/31 7UP
物理攻撃力 28 9UP
魔法攻撃力 41 9UP
物理防御力 31 14UP
魔法防御力 35 11UP
器用さ 28 10UP
素早さ 24 9UP
幸運 78
ギフト:『思い出』
スキル
〈武術〉Lv.3 〈逃げ足〉Lv.1 〈根性〉Lv.1 〈剣術〉Lv.3 〈予測〉Lv.2 〈地図作成〉Lv.2 〈無限収納(極)〉Lv.1 〈鑑定〉Lv.5
称号
――――――――――
――――――――――
名前:武藤 凛華
年齢:15歳
性別:女
状態:重度の筋肉痛
Lv.7 3UP
Runk.1
体力 67/67 12UP
魔力 32/32 10UP
気力 17/49 12UP
物理攻撃力 42 10UP
魔法攻撃力 22 4UP
物理防御力 36 11UP
魔法防御力 33 12UP
器用さ 24 8UP
素早さ 34 12UP
幸運 92
ギフト『侍』
スキル
〈刀〉Lv.3 〈歩法〉Lv.3 〈集中〉Lv.3 〈気配察知〉Lv.1 〈見切り〉Lv.1 New
称号
――――――――――
「あれ、凛ちゃんの気力が減ってる…」
「そう言われてみればそうだね。どこかで使うことあったかな?」
「う~ん、さっきのあの攻撃に関係していたりはしない、かな?」
「ありそうなのはそれかな~。あのときはいつもより体が動いたし、攻撃もすごかったし、もしかしたら気力を消費してする攻撃を使ったのかも」
通常気力や魔力はそれぞれ闘技や、魔法によって消費されるものだが、凛華は闘技を使ったという意識がなかったので、もしかしたら使ったのかもしれないというおぼろげな感覚でそう言うしかなかった。瑞希もどういう技を凛華が使ったのかはわからないのでそれ以上は特に気にすることはなかった。
「ていうか、瑞希と私でレベルは同じなのにこんなにステータスに差が出るんだね」
「確かに言われてみればそうだけど、個人差があるのは仕方がないんじゃないかな?」
「そうだけど、私も魔法使えるようになりたいなって。なんとなく私が物理寄りのステータスで、瑞希が魔法寄りじゃん? せっかくファンタジーな世界の力が手に入るなら魔法の力でドカーンってやりたいんだよね」
凛華はそういう願望を口にし、瑞希もそれに対して私もそれならこういうことができたら、ということを口にして2人はしばらくボスのいた広間で体を休めていた。
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