第8話 突発型ダンジョン最奥にて…

 2人はしばらく身を寄せ合って休み、凛華が動けるようになるまではそこから更に1日という時間を要してしまったが、身体をプルプルとさせながらだが凛華が移動をできるようになると、2人は移動を再開した。



「大丈夫…? 私は別にもう少し休んでいても平気だよ?」


「大丈夫、これぐらいなら無理すれば動けなくはないよ。それに、多分あいつはボスだっただろうし、倒してから現れたあの扉を超えれば出口のはずだよ」



 凛華はフラフラとした足取りでありながらもレッサーオーガを討伐してから現れた扉に向かって歩き続けた。瑞希はそんな凛華を放っておけるはずもなく、彼女に肩を貸しながら2人でゆっくりと扉に足を進めた。



「それじゃあ、押すよ…?」



 本調子でない凛華に自分の背丈よりも大きな扉を押させるのは酷なことだろうと思った瑞希が、凛華に確認を取って扉を開けた。



「ここは…?」


「ダンジョンの出口じゃないかな。私も話でしか聞いたことはないけど、あの光の中に入ればそこが入ってきたところに繋がってる、と思う」



 2人が扉を開けて中に入ると、そこは先程のレッサーオーガがいた部屋よりも狭いが円形の部屋があり、中央には金色の宝箱が1つと銀色の宝箱が2つあり、さらにその先には不思議な装飾を施された光る壁と不思議な光を発する丸い水晶のような球のようなものがあった。



 凛華はその光が帰還用の場所で、光る推奨がダンジョンの核となるコアではないかと瑞希に伝えたのだ。そして、2人は出口にばかり気を取られていたが、その手前にある宝箱に気が付くとゆっくりとした足取りのままではあるが、その宝箱に近づいた。



「宝箱だよ、瑞希!」


「そうだね。えっと、開ける?」


「もちろん! それじゃあ金のやつは後にして左右の銀のやつから開けようよ。私が右で、瑞希は左」


「わかった」



 宝箱を開ける前に瑞希が鑑定を念のためにかけて罠がないか確認をして、安全であることを確かめると、2人で声を掛け合って宝箱を開けた。



「「せーのっ」」



「ん、何これ?」


「何だろう…」



 中を確認した2人の声から出たのはいったいこれは何だろうという疑問だけだった。



 瑞希の宝箱からは不思議な文字が書かれた紙切れが2枚出てきただけで、凛華も同様に不思議な文字が書かれた2枚の紙切れだったからだ。



 書かれている文字も読むことができず首を傾げると、金の宝箱を確認する前に瑞希にこの計4枚の紙切れは何だったのか鑑定をすることにした。



「それじゃあ、瑞希、お願いね」


「うん。さすがにこれが何わからないと素直に喜んでいいのかわからないからね」



――――――――――

〈無属性魔法〉の頁


スキル〈無属性魔法〉を習得できる


――――――――――


――――――――――

〈武具変換〉の頁


武具に使用するとその武具を本人に適した武具に変換する


――――――――――


――――――――――

〈武具変換〉の頁


武具に使用するとその武具を本人に適した武具に変換する

――――――――――


――――――――――

〈光魔法〉の頁


スキル〈光魔法〉を習得できる


――――――――――



 瑞希が凛華に鑑定の結果を伝えると、凛華はそのことに驚き、喜びの声を上げた。



「やったー! 魔法、魔法だよ!? これを使えば私たちも魔法使いになれるんだよ!」


「り、凛ちゃん、お、落ち着いて~…!」



 肩をがっしりと掴まれて前後に揺らされる瑞希は泣きそうな声でそう言うと、凛華は申し訳なそうに慌てて揺らすのを止めた。


「ご、ごめん。テンション上がっちゃって。でも、魔法を覚えられるって思ったら嬉しくて」


「そ、そっか。それじゃあ、2つとも使う…?」



 瑞希はそんなに魔法を覚えたいのであれば2つとも凛華に渡してしまおうかと思ったのだが、


「ううん、私はどっちか1つでいいよ。それに実際魔法を覚えて有効活用できるのは瑞希の方だと思うし」


「そ、そんなことないと思うけど…」



 瑞希も魔法を使ったことがあるわけではないのでそのように言った。


「でも、ステータスだけ見れば私は魔法向きのステータスではないかな」



 凛華はそう言うと、もう1枚ずつ手に入れた『〈武具変換〉の頁』を手に取り、ヒラヒラトさせた。


「それに、これを使えば私のこの借りたお爺様の刀だけど、きっとダンジョンでも有効な武器にできると思うし、魔法は使ってみたいだけだから片方でいいよ」



 凛華はそう言うと『〈武具変換〉の頁』を刀に張り付けた。



「これでいいのかな?」


「ちょっと、凛ちゃん、そんないきなり…!」


 瑞希は凛華がすぐにでも使おうとするのを止めようとしたが、時すでに遅く、刀に張り付けられた瞬間に刀と紙が光り、刀の形状が変わった。



「え~っと、…ごめんなさい……」


 凛華は自分が勢いでやってしまったことを謝るが瑞希は冷たい目で凛華を見ていた。



 それからしばらく口をきいてくれない瑞希に凛華は謝り続けて、何とか許してもらうと刀について鑑定をしてもらった。



――――――――――

霊刀『残心』


斬りたいものを斬り、斬りたくないものは斬れない刀

魔力を込めることでその刃を不可視の刃とすることができる


――――――――――



「へ~、なるほど…」


 凛華は教えてもらったことを確かめようと、その広間の壁に向かって刀を振るうと壁に傷がつき、ポロポロと壁の一部が削れ落ちた。壁はその後すぐに修復されたが、削れ落ちた欠片は残るので、今度はその刀をその欠片に向けて斬った。


すると。その欠片は斬れることはなくそのままの形だった。



「なるほど…」



 凛華は何かを確かめるように素振りを繰り返すと、


「…うん、この子の特徴はよくわかった。結構癖が強いけど、使いこなせれば便利な能力だね」


 そう言って刀を鞘に納めようとすると、鞘に納めた瞬間に鞘も光だし、適した形に変化した。



「こういう機能もあるのか」


「そ、そうみたいだね。それじゃあ、私もこの剣に使ってみるね」



 瑞希も凛華の刀の変化を見終えると、自身が持つ「名無しの剣」に『〈武具変換〉の頁』を張り付けた。


 すると、先程とは異なり、張り付けられた剣は光るものの瑞希の前には薄い半透明なボードが出てきた。


『この剣に名前を付けてください」

「    」 』



 瑞希は突然のことでどういった名前を付ければいいのかわからず、咄嗟に出てきた自分の知る有名な刀匠の名前をその剣に付けた。


『この剣に名前を付けてください

「千子村正」    』



 すると、剣の光は治まり、今までと同じ形状の剣がそこにはあった。


「あれ、瑞希の剣はそのままなの?」


「どうなんだろう…、ちょっと視てみるね」



――――――――――

『千子村正』 :通常形態


名を与えられたことで進化を遂げた剣で、所有者の成長とともに進化を続ける剣となった

所有者は固定されてしまうが、所有者はこの剣については重さを感じることなく自身の手足のように扱うことができる


固有スキル・「刀剣解放」


――――――――――


〈刀剣解放〉…スキルの発動とともにこの剣の真の姿が解放される



「なるほどね…、それにしても『千子村正』ねぇ~」



 瑞希が凛華にそう説明すると、凛華はからかうように瑞希にニヤニヤとしてきた。


「し、仕方ないじゃん。いきなりで慌てていたんだから…。確かに剣じゃなくて、刀の名前・・というか刀の作っている人の名前を付けちゃったけど、凛ちゃんが目の前で刀を持っているから咄嗟に出てきたのがそっちで…」


「はいはい、わかったから、その〈刀剣解放〉っていうのも使ってみてよ。どういう剣になるのか気になるし」



 凛華に落ち着くように言われて、一息ついてから、瑞希はスキルを発動させた。



「刀剣解放!」



 すると、自分の中から急激に何かが減ったかと思うと剣が光、一瞬にして刀へと変化を遂げた。


「え、すごっ!」


「こ、こんな風に変化するんだ…」



 刀剣解放をしたことでどのように変化をしたのか改めて鑑定をしてみた。


――――――――――

『千子村正』:刀剣解放状態


所有者によって名を与えられた真の姿。あらゆるものを斬り裂く凶暴な刀としての力を持つ。また、この刀は刃こぼれをすることもない。取り扱いには細心の注意が必要である。


残り:28:57


――――――――――



真の姿と書かれているだけあって、その内容は衝撃的なものだった。何でも切れる剣というのは凛華の剣よりも扱いに難しそうで、まともに打ち合うと相手の武器だけ斬り裂き続けそうでもあった。また、残り時間が記載されておりそれが1秒ごとに減っていることから凡そ30分が解放状態だと把握した。



 また、このとき、自身の体から急激に力が抜けたので、魔力か気力を消費したものと推測をすると、どちらも同じ数だけ消費していることが分かった。



鑑定を既に8回行っている瑞希の魔力と気力の数が9/55、1/31、と表示をされていたので、おそらく30ずつ消費をして、刀剣解放が行われたのだとわかったのだ。また、このことから29ずつ消費をすれば29分、20ずつなら20分いう結果になるのではないかという推測もされたが今は確かめる方法が無いのでこのことは後で確かめるということになった。



「何でも斬れるって書いてあったけど、ダンジョンの壁も斬れるのかな?」


「どうだろう…。あらゆるものを斬り裂く力を持つって書いては有るけど、私がその力を引きだせないとダメかもしれない、と思う」


 瑞希は凛華に言われてダンジョンの壁を斬ってはみたが、凛華と同じように傷を作ることはできたがダンジョン自体を斬り裂くことはできなかった。


「まぁ、そうだよね」


「うん」


「さて、それじゃあもう1枚ずつの紙も使ってみようか」



 凛華はそう言うと『〈無属性魔法〉の頁』と『〈光魔法〉の頁』と両手に持ち、瑞希の前にシャッフルをして差し出した。


「どっちがいい? ちゃんと私もどっちがどっちかわからないよ」


「え~っと、それなら右で」



 瑞希も鑑定を使わず、適当に選んで頁を受け取った。



「それじゃあ、使うよ」


「「せーのっ」」




………………………




 2人は紙を使おうと思ったのだが、何も変化は起こらなかった。


「どういうこと?」


「えっと、もう一度鑑定してもいいかな?」


「うん。どっちかわかっちゃうけど仕方ない」



 改めて確認をしてみると、書いてある内容に変化はなかった。



「もしかしたらだけど、出てきた宝箱の方じゃないと覚えられないんじゃないかな…?」


 瑞希は自身が今持っているのは『〈光魔法〉の頁』であることを話し、互いに持っている紙を交換して再度使おうとした。



『〈無属性魔法〉を習得しますか?』



 今度は習得をするかどうかのアナウンスが頭に響いてきたので、「はい」と念じると、



『〈無属性魔法〉を習得しました』



 そのようなアナウンスが聞こえた。それは凛華も同じだったようで、嬉しそうにしていた。


「覚えられたよ!」


「そうみたいだね」


「じゃあ、早速魔法を使ってみようよ!」



 凛華はそう言って魔法を使おうとしたが、そのままの姿で固まった。


「ど、どうしたの…?」


「魔法ってどうやって使うの?」


「え…」



 凛華は魔法の使い方を知らず、瑞希も当然のことながら魔法の使い方を知らなかった。2人の間には気まずい空気が流れたが、凛華は咳ばらいをして言い訳を始めた。



「だ、だって、魔法を覚えたっていう人は自然と使い方が分かったって言ってて、情報がなかったんだよ! 念じれば魔法が使えるって言ってたし、魔法名を言えば発動をしたっていう人もいたし…、それにっ!」


「わ、分かったから落ち着いて、ね?」



 瑞希も凛華が居たたまれなくなると、落ち着かせてから少ない魔力の中、再度鑑定をすることにした。5


〈無属性魔法〉…無属性魔法を使用できる Lv.1…マナボール

  …マナシールド


〈光魔法〉…光属性魔法を使用できる Lv.1…ライトボール

                    …ヒール



「なるほど、使えるのはこの2つだけってことだね」


 凛華はそう言うと、名前の名称からどんな魔法を使えばいいのかイメージして再度魔法を使おうとした


ちなみに、マナシールドは魔法攻撃に対する壁を作り出すもので、スキルレベルに応じた割合で威力を下げることができる。ヒールは体力を30回復させる回復魔法である。



「ライトボール!」



…………………………



「な、何で何も起こらないの…?」



 凛華は泣きそうな顔で瑞希にそう言ってきた。そして、瑞希はう~んっと頭を悩ませていると、1つの心当たりにたどり着いた



「ね、ねぇ、凛ちゃん」


「なに…?」



 今にも泣きそうな凛華は瑞希に声をかけられて顔を上げた。



「そもそも魔力って感じてる…?」



 瑞希の問いかけに凛華は「あ」と声を漏らし、魔力をそもそも感じたことがないことに気が付いた。瑞希は先程の刀剣解放や鑑定を何度も使っていることで自分の中から何かが減っているという感覚を覚えているが、凛華かこれまで気力を消費したことはあっても魔力を消費したことがなかったので魔力を感じたことはなかったのだ。



 その結果、魔法を使おうとしても魔力の使い方を知らないので魔法が行使できなかったのだ。


「う~ん・・、魔力って何? なんかこう、自分の中に前まではなかったものがあることはわかるけど、これが魔力なのか気力なのかわからない…」



 凛華は何とか感じ取ろうと頑張っているがなかなか魔力を感じることができないでいた。瑞希もなんとかフォローしようと思ったが、今は残り魔力が少なく回復しきるには睡眠をとるのが効率がよく、今の起きている状態では1時間に1しか回復していないので、実演することも難しそうだった。



「えっと、少し仮眠を取らせてもらってもいい…? 2時間寝れば4割は回復するはずだから、ね?」


「うん…、じゃあ、それまで1人で頑張ってみる…」



 どうしても魔法を使いたいと意地を張って駄々をこねる凛華のために瑞希は魔力を回復させるために仮眠をとることにした。



 本来なら宝箱を開けて中身を取って出口の光に飛び込むだけだったのにどうしてここでこんなにも時間を使うことになったのだろうか、と瑞希は口には出さないでいたが、そう思わずにはいられないまま眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る